息綴春綴
「お前から言われるなんて、考えてもみなかったな」
そう云って笑えば、古泉は形の良い眉を下げながらも微笑んでみせたのだ。
息綴春綴
雨上がり、吐いた息が大気に冷やされ白く四散する。
何時も騒々しいハルヒがみくると長門を連れて先に帰ってしまった為、部室内にはストーブの起動音だけが響き、徐々に暖められる空気に霞は消えてしまった。
「寒いですねぇ」
「当たり前のことを今更言うな」
相変わらず貼り付けた笑顔をそのままに、古泉がパイプイスに腰を下ろす。
はぁ、と両手に息をかけながら呟かれた言葉に、キョンは些かうんざりとしながら言った。
寒いのは冬だから当然のことなのだ、しかもその台詞は朝からハルヒに散々聞かされていた。
溜息をつくと、古泉が少し目を見開いてこちらを見つめているのに気付く。
「なんだ?」
「……いえ、すみません。少しぼんやりしてしまって」
「そうか」
キョンは、特に何もすることがないのだから、このまま帰ってしまおうかとも思った。
しかし、しんと静まった薄暗い外の冷え込みを考えると、点けたストーブのおかげで居やすくなった室内が恋しくなる。
「あの、」
小さく届く古泉の声。
なんだか眠くなるなと思いながら、ストーブの前に両手をかざし視線だけを投げる。
古泉は一度自分の足元を見、そしてキョンを見据えた。
「僕達、別れませんか」
告げられた言葉に、ひとつ、呼吸をした。
「お前から言われるなんて、考えてもみなかったな」
そう云って笑えば、古泉は形の良い眉を下げながらも微笑んでみせた。
「いつから考えてた?」
「僕が貴方に惹かれたときから」
「早いな」
「そうですね」
笑いあえば、もう駄目だった。
「俺、ずっと待っててもいいか」
「貴方にそんなことさせられません。どうか優しい貴方にお似合いの方と、幸せになってください」
滲む視界に俯く。
古泉はキョンを優しいと云ったけれど、キョンには、全くその逆だとしか思えない。
これはもう古泉の中で決められた別れで、何があっても覆されるはなく、しかもそれは多分キョンの為に用意された別離であるのだ。
「古泉」
「はい」
「お前のこと、俺は忘れてやらないぞ」
「…ありがとうございます」
「違う、これは、嫌がらせなんだ。だからはやく、行け」
一息に伝えてしまおうと思ったのだが、何故だか声が詰まってしまう。
カタンとイスが引かれる音がして、続くのは離れる足音、ドアの閉まる、音。
涙を堪え切れなくなったのは、遠くに聞こえるそれらの音に紛れた声を見つけたからだ。
「さよなら」
キョンは、きっと古泉は強くて切なくて愚かなこの恋を忘れるのだろうと、思った。
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キョン古のふたりが別れるのならこんな別れ希望
古泉はほんとにこの恋忘れちゃえばいい。
なんだかんだキョンも時間が経てば可愛い彼女つくって、このことはたまに思い出して「そういやそんな時もあったな」とかセンチメンタルになる材料にしてりゃいい。
つまり別れても結構ピンピンしてるふたりが好きってことです。
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