※恋愛要素皆無です。ルミネというオリキャラも登場します。苦手な方にはオススメできません。
「ユズ、いつまで寝てるのー? 放牧するの手伝ってくれない?」
「んー…、わかった…」
「早くしてねぇ」
「んー」
下の階から聞こえてきたルミネの声で夢から戻ってきたユズはベッドの中で生返事を返す。うとうととしながら、うつ伏せで寝ていたので寝返りを打つと、東の小窓から差してくる明るい太陽の日差しがユズの目蓋を刺激した。思わず目をギュッと瞑り、手探りでタオルケットを手繰り寄せ、目を隠すように頭から被さる。ユズはその体制のまま動こうとせず、そのまままた夢へと船を漕ぎ始めた。
が、
「ユズー?まだぁ?」
「……」
「寝てないで早く手伝ってよー」
「……っ起きたよ、お姉ちゃんのばかぁ!」
ルミネの声で襲い来る睡魔が吹き飛んでしまい、ユズは反動をつけて起き上がった。ベッドから降り、ボサボサの頭のまま文句を言いながらユズが着替え始めると、ルミネが下の階で談笑する声が聞こえる。 ユズはそれを聞きながら窓のカーテンを勢いよく開けた。
どうやらリゼンブールは今日も快晴らしい。
モー、メェェ、ユズが牛と羊をベルで誘導し、壊れた小屋から晴天下に出すと二匹は嬉しそうに鳴く。
「ふぅ…。 暑い中外に出られるのがそんなに嬉しいかなぁ?」
「壊れた小屋よりかは幾分かマシじゃないかしら?」
「…直せばいいのに」
2匹の牛と羊を外に出した後、ユズとルミネは小屋の中の掃除を始める。大きな動物があと2、3匹はゆとりを持ってはいれそうな小屋の中は先日台風が来たおかげで柱は無事であるものの、屋根が少し剥げてしまい、少量の光が差している。
「梅雨明けた後で良かったね」
ブラシを手に取り、ユズがせっせと床を磨きながらそう言うと、
「本当にね」
と、苦笑しながらルミネが笑った。
それからユズとルミネが慣れた手つきであるもののやはり2人ではキツいのか奮闘しながら小屋の掃除、餌を補充することなどを終わらせた頃、丁度昼過ぎだった。ルミネは昼食をと家の中に引っ込み、ユズはベルを片手に、お父さんの牧場に行こうかと思案しながら腰を上げようとすると上の方から声を掛けられた。
「ユズ?」
ユズが顔を仰向けにし、上体をやや後ろに倒すと、久方振りに見る2人が逆さまに写り込んできた。
「…あ、エドワード君、アルフォンス君」
「あらぁ、久しぶりね2人共」
「こんにちは、ルミネさん」
ルミネはキッチンで何かを切っていた。ユズが連れてきた2人に気づいたルミネは目を輝かす。エドワードはルミネに軽く会釈をし、アルフォンスは鎧であるものの微笑んで挨拶をしたように見えた。ユズは家のソファーを陣取っていた肥満気味の猫を抱き、その風景を傍観する。
「丁度ご飯作ってるところなの。食べていかない?」
「いえ、俺達はピナコばっちゃん――」
「あ、そうだわ。ユズ、玉ねぎ切らしてるから裏から取ってきてくれない?」
「え?あ、うん…」
「あの、ルミネさ――…」
「お昼だけど……うん、シチューにしましょう。エド、シチューは食べれたのよね?」
「あ…あぁ…」
「お姉ちゃん、話し聞こうよ」
ルミネが暴走しているのをユズが呆れ気味に止めるが、ルミネは
「だって嬉しいから、ごめんね」
至極楽しそうにユズに謝り料理を続ける。エドワードもアルフォンスもそれを見て諦めたようで、満更でもなさそうに2人は苦笑し合っている。ユズもそれを見て僅かに微笑みを浮かべた。
ユズが腕に抱いていた猫をエドワードに押し付け、ルミネの料理を手伝おうと腕まくりをしていると何故かエドワードと我が家の猫が戦闘を開始しているのに気がついた。
「何なんだこの猫は!」
「シャー…!」
「う、ギャアアァ!」
「兄さん!」
「エドワード君!?」
エドワードの腕から逃れた猫は慌てて自分を捕まえようとするエドワードの手を引っかき、エドワードはそれに憤慨した。その後、我が家の猫が止めと言わんばかりにエドワードの顔に飛びかかりエドワードの悲鳴が家に響き渡る。あまりの展開にパニックになりかけた所、次はアルフォンスが跪いて猫に手を差し伸べる。何故か怯えているようにも見える我が家の猫はアルフォンスの指に噛みついた。
「あっ!」
「ウフフ、怖くないよ」
噛まれた指をそのままに、アルフォンス君は最強であり最凶な我が家の猫を撫でる。
――お姉ちゃんと私にしか懐かないのに…!
エドワードは部屋の隅でピクピクとし、アルフォンスは指を噛まれながらも警戒心むき出しの猫を撫で、ユズは愕然としながら2人を見ていた。ルミネはランランと鼻歌を歌いながら料理に熱中しているらしく、このシュールな現場に気づいていない。
この現状はしばらく保たれた。
「ごちそうさまでした」
「晩御飯も食べていけばいいのに…」
「いや…あはは」
エドワードに対して残念そうにするルミネの後ろでは肥満気味の猫がエドワードを虎視眈々と狙っておりエドワードは明後日の方を向いて冷や汗を垂らす。隣ではアルフォンスが周りに花を飛ばしている。それを見てユズは一つ笑みを漏らした。
「また来てね。ウインリィちゃんによろしくね」
「おう!」
「またねぇ」
「バイバイ!」
まだ2時にも満たない昼下がり、4人は手を振り合い、それぞれのするべきこと、行くべき所へと戻った。
ユズはいつもの定位置である木の日陰に座り、牛と羊、そして何故か猫がじゃれ合っているのを見て調子っぱずれの鼻歌を歌いながらそっとベルを鳴らした。ユズが小屋が綺麗になっていることに気づくのは、もう少し後の話し。
またいつか道が交わる時まで
――――
本当は小屋の話しを書きたかったらしいですよ、晃。
何ヶ月か前の作品なんですがこの時には既に文作の仕方が可笑しくなってたらしいですね。
拙い文でありましたが、読んでくださりありがとうございました。
オマケ↓
ユズの簡易設定
・一つ年の離れた姉がいる。父が楽観主義者な為、ユズも楽観主義…というよりズボラな子に育った←姉(ルミネ)は母似で雰囲気がホンワリしてる。
・エドとアルは小学校…?が一緒だった。
・今は落ち着いているが昔は人見知りが激しかった←そのせいでエドにあーじゃこーじゃと一度精神的に虐められた(本人は軽い気持ちで)ことがある
・生まれてこの方リゼンブールから出たことないしこれからも出るつもりはない←父が所有しているデッカイ牧場を引き継ぐつもり。今は2匹だけ世話を任されている。姉が何故か積極的に手伝うから感謝はしているものの、まさか姉も牧場の主を狙ってるんじゃ…と密かに怪しんでいる。
オマケのオマケ↓
ユズが世話している羊と牛の名前(ユズ本人が一晩中悩みに悩んでやっと付けられた名前)
羊→メェコさん
牛→ミルクさん
初期没案↓
羊→ヒッツジさん
牛→タプモさん
あまりに酷かったから姉ちゃんが没にした↑