「…」

「グー…」

「…」

「んん…」


 アンディが頭を拭きながらシャワールームから出るといつの間にかウォルターは他でもないアンディのベッドで気持ちよさ気に寝ていた。アンディが固まる。


「…何それ」

「でた…ゴキブ…」

「…」

「…グー…」


 しばらくしてアンディはいつもより若干の強面でサッと枕に手を伸ばした。力加減無しでウォルターの頭から枕を引き抜く。支えを失ったウォルターの頭はベッドに弾みを付けて落下した。その衝撃なのかウォルターは顔を顰めながら薄く目を開ける。


「…ん?」

「あ、起きた」

「…アンディ?」

「何でここで寝てるの?自分の部屋で寝れば?」

「…俺の部屋無理」


 ウォルターはそう言ってまた目を閉じ、夢へと旅立っていった。アンディはそれを呆然と見届けてから無言で手にしていた枕を―


「グー…ガッ」


投げた。
 ふぅ、とため息をつき、アンディは髪をたくしあげ悩むように目を閉じる。数分後、アンディは部屋から出て行った。




――――

 ユズがカルロ裁判官に頼まれていた外務の仕事が終わり、部屋に戻れたのは夜中だった。ユズは眉を顰めながら肩をもみほぐし、電気も付けずにシャワールームに直行した。スルリと衣類を脱ぎ捨てシャワーを浴びる。


「…気持ち…」


 恍惚とした表情で呟きさっさと体を洗い出す。それからユズがシャワールームから出るのは一時間経ってのことだった。



――――

 頬に何かの跡を付けたユズは頭を拭きながら部屋に戻るとユズのシャンプーの甘い香りが部屋に満ちる。意識が半分寝ていたユズはベッドでモゾリ、と動いたのに気づけなかった。寝ぼけ眼で部屋の電気を付ける。するとまたベッドの方がモゾリ、と動いた。ユズはやっとそれに気づき肩を跳ねさせてベッドの方を見ると本来盛り上がっている筈のない布団が盛り上がっていた。
 あんなに眠かったのに睡魔は一瞬で吹き飛び心臓が嫌に騒ぎ出す。ユズは固唾を飲んだ。卓上に置いてあった銃に手を伸ばしつつドギマギとしながらベッドの方に近づき、そして、布団をゆっくりと捲ると―…、


「っ!?不審っ……あれ、アンディ?」

「…」


 捲った先にいたのは静かに寝息を立てているアンディだった。思わぬ相手にユズは硬直する。


「…え?」

「…」

「いやいやいや、…え?」

「…スゥ」

「…疲れてんのかな?いや、もしかしてまだ寝ぼけてる?」


 ユズが疲れたような顔をしてそう言い、頬を引っ張ったり眉間を揉んだりする。手の隙間からチラリと伺ってもその事実が変わることはなかった。ユズは一つ、ため息を吐いた。


「アンディ」

「…ん」

「…アンディ」

「…」


 よほど熟睡しているのかアンディは名前を呼ばれても一度唸ったっきり反応を示さない。それどころか壁際の方に寝返りを打ってしまった。ユズは困ったように笑う。


「ははっ、もういいよ。お休み、アンディ」


 ユズは疲れていたのだろうと考え直し、ベッドはアンディに明け渡した。とりあえず何故自分の部屋で寝ないのか、とか何故私の部屋で寝ているのかとかそんなこと考えてもアンディに聞かない限りわからなそうな質問は頭の隅に退けて、ユズはクローゼットの中から客人用の布団を引っ張り出した。その布団をベッドの隣に敷いてから部屋の電気を消す。


「…んん」


 ユズが寝ようと布団の中に入ろうとするとアンディが唸った。ユズは不思議な顔をしながらアンディを見やると眉を顰めて寝汗をかいてる様子が月に照らされよく見えた。嫌な夢を見ているのか寝苦しそうにしている。


「アンディ?」

「…っ」


 ユズは呆然と眺めているとアンディは息を詰まらして手を固く握った。それを見てユズはベッドの端に腰掛けアンディの額に手をやった。ビクリ、アンディはその手に体をビクつかせる。


「熱は無いね。…アンディ?」

「…んっ」


 ユズがおもむろにアンディを揺さぶる。アンディはその手を嫌と言うように首を振った。その反応にユズは思わず眉を下げて心配の色を瞳に灯す。ユズは静かに固く握られている掌を片手で守るように覆い、キュ、と握った。


「アンディ」

「…やめ…っ」


 すると、アンディの体が強張った。泣きそうな顔をしている。


――…アンディ、私にあなたは守れないね


 ユズは切なげに笑みアンディの何かを恐れるように握り締められた手から手を退けた。すると、アンディは二、三拍置いて憑き物が取れたように、本当にスゥ…と静かに寝入った。ユズはそれを見て穏やかに笑み、寝汗で濡れたのか頬に張り付いている髪を人差し指で払ってやる。アンディが一瞬ピクリと眉を動かした。


――彼の為になら偽善だと罵られても構わないかもしれない。愛し方も愛され方も分からない彼が、幸せに縋ることをしない彼が、…こんな寝苦しい夜でさえ誰にも頼らない彼がどうか―…


「たくさんの愛に触れられるといいね」


――愛されますよう。


 そう言ってユズはアンディの頬に一つ、キスをした。


「少ししょっぱいかな?」


 いつもはユズがちょっかいを掛ると不機嫌になったり、その体に触れられることを嫌がったりするアンディの頬に触れてやったとユズはしてやったり顔をする。ユズはもう一度アンディを見て笑み、お休みと呟いた。





静寂な夜の過ごし方
(おせっかい、無機質にも聞こえる声は静かに木霊して夜の闇に溶けた)




―――
もう何も言うまい



オマケ↓




ユズの簡易設定
・普段は渉外係りを担当。友人が日本人(留学生)だったりフランス人(元彼)だったりしてこれ幸いと教えてもらい自然と覚えた。4ヶ国語は裕にいける。たまに外務の仕事を手伝う。
・小さいのにちょっかいをかけるのが好き。それに反応すると本人がつけあがりウザくなる。
・アンディの事情は知らない。アンディが医務室が嫌いなことも未だに知らない。けど猫みたいだから懐いてほしいなとスキンシップをはかろうとする←無類の猫好き
・周りはユズに恋愛感情がないのは明らかだが(本人が恋愛するとおとなしくなるタイプ)アンディがユズに恋愛感情を持ってるかどうかはよくわからない。たぶん持ってるんじゃない?ちょっとぐらい。状態。本当の所はアンディにしかわからない。



作成日 2011 九月十三日
加筆 2011 九月十八日



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