※単行本2巻より。
夢主の介入により少しだけ捏造させてもらいます
原作捏造が嫌な方にはオススメ出来ません













――どこだここ…


 アンディは一緒に医務室にと迫るモニカから逃げるために方向音痴なのにも関わらず闇雲に走った結果、迷子になり現在キョロキョロと忙しなく辺りを見回している。


「変なとこ来た」

「あれ、アンディ?」


 アンディが独り言を言いながらキョロキョロとしていると不意に後ろから自分の名前が呼ばれる。そのことに気づき振り返るとそこには、映えるような白が見えてアンディは思わず肩を跳ねさせた。


「…ユズ」

「あ、やっぱりアンディだ。帰ってたの?」


 アンディと同じか、それより少し低い身長をした少女――ユズは身の丈に合わない白衣を揺らし、笑みを浮かべてアンディに駆け寄る。アンディは若干逃げ腰になっており冷や汗をかいているものの、いつもどおりのポーカフェイスだ。


「さっき」

「そうなんだ。お帰り!怪我とかしてないの?」
「え、…あぁ…うん」

「?あ、モニカ秘書官にはもう会った?」

「え」


 アンディは医務室行きを連想させる言葉に詰まりながら答えるも、ついさっき逃げてきた人の名前が挙がってしまい条件反射で身を引く。すると、誰かにぶつかってしまった。アンディが相手の顔を見るより先に腕を強く掴まれる。


「!?お前どこから入った!?ここは子どもが来れるような所じゃ…」


――国家憲兵…司法局から来た奴の護衛か


 腕を掴まれたままの状態で怒るわけでも無く、アンディは呆けた顔で憲兵の顔を眺めている。それにユズがハッと我に返り口を出そうとする。


「あ、あの…」

「お前…“四番目”か――…!?」


 しかし、ユズの言葉に耳を貸すこと無く、憲兵は服がはだけたことによって見えるリバースナンバーに目を止め、声を荒げた。


「スキャッグスのリバースナンバー…いわくつきの執行人がなんでこんな所を堂々と歩いている」

「ちょっ…!」


 不穏な雰囲気を感じたユズが慌てた様子でアンディと憲兵の間に割り込もうとするがそれは叶わなかった。


「調子にのるなよ化け物め」


 憲兵が放った言葉にユズが息を呑んだ。アンディはユズとは対照的に傷ついた様子もなくいつものポーカフェイスで淡々と言葉を紡ぐ。


「…言われなくても分かってるさ。だからこんな仕事(執行人)してるんじゃないか」

「おい待て」


 ばしっと腕を払い退け、どこかへ去ろうとするアンディにユズが付いていきながらオロオロと手を伸ばす。ユズが声を掛け、アンディに触れようとした瞬間――、


「アン―」

「見つけたー!!」

「ギャアアアア!!」


 モニカの大きな声にその場にいた者がビクつき、ユズが大袈裟に声を上げる。


「!ちょ…!」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!私まだ何もやらかしてません!」


 ユズは思わずと言った様子で驚いていたアンディの手を取り、何かを叫びながら走り出す。前を走るユズの上の方で束ねられている黒髪が激しく揺れてアンディの頬に当たり、アンディは僅かに目を細めた。


「ああ!!ちょっ…アンディ!!ってユズ!?」
「誰かその子たち捕まえてー!!」

「うわーっ、ごめんなさい!実は消毒液と水間違えたの私ですー!!」

「やらかしてんじゃん」

「ユズー!?」

「ごめんなさいー!」

「ええぇ…」



――――

「ごめんなさい、アンディ」

「…」


 所変わってモニカから逃げてきた二人はユズの自室にいた。ユズは地べたで土下座をしていてアンディは既にユズに背を向けており、その蟀谷には青筋が見える。なんとシュールな構図であろうか。2人共口を開こうとしない。アンディに至ってはむしろ無言の制圧となっているだろう。


ジリリリリ――


「あ…」


 そんな重たいような沈黙を破ったのはユズでもアンディでもなく、やかましく鳴り響く電話だった。ユズが顔を上げアンディを困ったように見上げると、視線が絡まった。アンディはため息を一つ吐く。


「出たら?」

「う、うん」


 ガチャ、ユズは衣服についた埃を叩きながら近くの机の上に置いてあった電話の受話器を取った。鳴り響いていた音は途絶える。


「はい、ユズですが……うわっあ、いや、その!……わ、わかりました。後ほど伺い、ます。…に、逃げません!…たぶん。いや、絶対!……と、とにかく――」


 はい、はい、アンディは目の前に誰もいないのに電話の相手に頭を下げているユズを内心呆れながら眺めていると通話は終わったのか受話器が置かれた。


「えっと…」


 ユズはまた困ったように眉を下げながら視線をうろちょろさせる。アンディが無表情のままユズを観察していると何かを思い出したのか、それとも何かを見つけたのか、急にユズの表情から困惑の色が抜け、変わりに青ざめたなんとも形容しがたい顔つきになった。アンディがビクリとする。


「け、怪我…」

「え」


 ポツリと一言、ユズの目線は袖が捲れて見える血の滲んだ包帯に向けられている。ユズは何かを探し出す。今度こそアンディは完全に逃げ腰になった。アンディの顔が強張り、即座に捲れていた袖を直す。そこからの行動は早かった。



――――


「あはは…、私包帯苦手だから上手く出来ないや」

「…」

「…ごめんなさい」


 救急箱を早めに見つけたのが功を奏したのか、逃げようとドアに向き直っていたアンディの腕を掴み逃げられることは免れたようだ。ユズに捕まった後もアンディは自分で出来ているだの必要ないだのと饒舌に話したが、ユズに消毒しているのかと聞かれ黙り込んだ。ユズは苦笑を漏らしながら治療を始めたが、如何せんユズの治療する手際は悪く、痛かったのか時折体を跳ねさせるアンディが見られた。包帯を巻くのもまた然り、手際が悪く、そして拙い。最後に包帯の端をテープで止めて出来たそれはあまりに不格好だった。お世辞にも上手とは言えない仕上がりだ。
 俯き、黙って腕を差し出していたままのアンディが終わったと認識すると腕を引ったくるように引っ込める。そして、アンディが出来を見るとユズを睨む。ユズに無言の威圧がのしかかった。


「…ごめんなさい」


コンコン…


 俯き、若干涙目になっていたユズがノックを聞いてゆっくりと顔を上げる。どうぞ、と返し、失礼します、と入ってきたのはモニカだった。


「あ、いたー!!」


 入ってきて突然不躾にアンディを指差し叫ぶモニカに2人の心臓が跳ね上がる。ユズに至っては小さな悲鳴を上げた。アンディは部屋に設置してある小窓の存在に気づき、駆け寄ると小窓に足を掛け、そこから飛び降りた。


「ちょっ、ここ三階ですよ!?」


 モニカが慌てて駆け寄り、小窓から身を乗り出すともう既にどこかへ逃げようと走っているアンディの後ろ姿が確認された。ユズも怒られることを恐れてこれに便乗して逃亡を図ったが、


「痛っ」

「ユズ!?どうしたんですか?お腹が痛いんですか?大丈夫?まさかアンディに何かされたんじゃ…」


 ユズが屈んでプルプルと震えているのを見てモニカは顔色を変えた。モニカから怒涛の質問攻めをくらわされたユズは椅子に座ったまま一言、


「足がつった…!」



――――


「年老いたな俺達…」

「アンディ本気なんだもん…」

「うつ時おとなしいくせに」


 後ろでぜぇはぁと息を荒げる大人達と全く息を乱さず俯き、大人しく腕を差し出して椅子に座っているアンディ。


「注射打つのに被害者4人か」


 ウォルターがひくりと口元をひきつらせながら呟いた。


「ん?この包帯…自分で巻いたのか?」

「…」


 注射を打った男性が不格好な包帯に気づき、質問するとアンディは喋れないのか喋らない。ふと、ゆっくりとぎこちなく医務室の扉が開く。開いた扉の先に立っていたのは大きな四角いダンボールを両手一杯に抱えたユズの姿だった。


「あれ、アン、ディ…?それと…ウォルターさん!?」

「おお、ユズ!久しぶりだな!」


 ユズは目を白黒とさせながらウォルターを見ている。そんなユズにウォルターが近づき、自分より幾分か低いユズの頭をワシャワシャと撫で回した。


「ま、待って下さい!ああっ、今日はせっかく綺麗に結えたのに…」

「ぷっ、いつもと対して変わらねぇよ」

「何ですと!?」

「ユズ、その箱落とさないでよ」


 両手に荷物を抱えている割にウォルターの手から逃れようと必死なのかユズは端から見るととても危なっかしい動きをしている。そんなユズを見かねてかドクターがため息混じりに釘を挿した。ユズがそれに気づき慌てて部屋の奥へと荷物を運ぶ。


「ははっ、ユズは騒がしいなぁ」

「…落ち着かない」


 アンディと向き合っていた男性が注射の後処理をした後、呆れたように笑う。不意に腕を差し出したままのアンディが呟いた。男性はクエスチョンマークを頭に浮かべユズがいるからか?と問うが反応が返ってこない。散々悩んだ後、腕の包帯に気づきああ、と言う顔をする。
「包帯?なら俺が巻きなおしてやるよ」

「…」


 相変わらず返答はもらえないが、ついでだと男性はサラサラと不格好な包帯を解き、綺麗に巻き直していく。何をどうしたらあんな風に巻けるのだろう、とアンディは思案しながらそれを見ていた。
 ユズが奥の部屋から帰ってくる。ユズはドクターに何やら報告した後、ウォルターの元に駆け寄った。また談笑を始める。


「はい、出来た。アンディって案外不器用なんだな」


 アンディはそんな言葉を耳にしながらお礼も言わず、椅子の上で両膝を立てて蹲る。男性が困ったように笑った。


「お取り込み中失礼するよ」


 そんな中カルロが医務室に入ってきた。カルロに気づいたウォルターが声を掛ける。


「おー!カルロ久しぶり」

「調子はどうだ?ウォルター」

「まずまずかな」


 両者笑みを浮かべながら会話をしている。カルロがふと、ウォルターの隣に立っているユズに気がつき、声をかけた。


「ああ、ユズ」

「こんにちは、カルロ裁判官」

「ああ、こんにちは。君たちは本当に仲が良いね」

「そ、んな…っ!」

「照れんな照れんな」

「照れてないですよ!?」


 カルロのいきなりの言葉に両手を振りながら否定するものの、ウォルターに肩を組まれ頬をつつかれている。ユズは嫌そうにはしているものの頬にやや赤みが差しているようだ。アンディはその一連の様子を横目で見た後、ギュウ、と身を抱きしめて再度蹲る。


「アンディは…いつも通りか」


 その様子に気づいたカルロがそう言った。アンディが一言呟く。


「キモチワルイ」





ひしゃげた花
(視界の端に白がチラついて仕方がない)




――――
ここが書きたかったんだけど失敗した感満載だね!←
これ書くとしても連載ものじゃないとダメだよね。だってもうこれジャンルがわからないしw
微糖か切だと思って下さい!
拙い文ではありましたがここまで読んで下さりありがとうございました。

↓オマケです。


ユズの簡易設定
・お母さん方のお父さんのお母さんが日本人。日本人の血はほぼ流れてないと言ってもおかしくはないのに遺伝の何が間違えたのか黒髪黒目。あと、癖っ毛。このせいで一度浮気じゃなんじゃと夫婦喧嘩勃発←今はラブラブ
・ユズの家では悪いことしたら数十分正座か土下座。これ伝統←!?
・医者になりたい不器用さん。医者の卵の卵。



作成日:2011 八月二十日



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