※アニメの翼の幼少期を想像したものです。
夢主の介入によりいろいろねじ曲がってます。捏造が嫌いな方にはお勧めできません。














 太陽がギラギラと輝いて暑苦しい中、翼は大きな木の日陰が出来ている縁側に座り込み、機械を弄っていた。
 辺りは無風状態で風鈴は音を奏でない。草木は揺れず、ただ、蝉の鳴き声とガチャガチャと機械を弄る音だけがその場に響いている。

 ふと、その中にぎぃ、ぎぃと廊下が軋む音が混じる。翼はその音に気づく素振りも見せずに夢中で機械を弄り続けている。


「翼くん、こんにちは」

「…」

「こんな良い所があったんだね。熱中症にならなくていいね」

「…」

「翼くん?…おーい」

「っ!?」


 柚が声をかけても翼は顔を上げることなく機械を弄り続ける。
 不思議に思った柚が顔を覗き込むと翼は肩を跳ねさせ、驚いたような顔を見せた。そして、慌てて柚から顔を背ける。


「あ、ごめん。驚かせちゃったかな?」

「…大丈夫」

「そっか、よかった」


 翼にとって居心地の悪い沈黙が流れる。翼は機械を弄るのを止めてもじもじとしながらも、チラチラと柚の様子を窺う。 不意に、さわさわと軟風が木を揺らし、風鈴を鳴らした。


「隣、座っていい?」

「え?…あ、どうぞ」


 柚が笑みを湛えながら翼の隣に座る。不意に翼の肩に柚の腕がぶつかり、翼は柚から僅かに距離をとった。その様子に柚は可笑しそうに笑う。翼はやや頬を染めてそっぽを向いた。


「何作ってるの?」

「え?」

「それ」


 何気なしに柚が翼の手元を覗き込み、質問すると、翼はワタワタと機械を背中に隠した。ウロウロと視線が泳いでいる。


「これは、その…」

「うん?」

「…発明品だ」


 翼は観念したように告げ、顔を真っ赤に染めて俯く。


――またなのか?今だけはほっといて、欲しかったのに。


 知らず知らずの内に機械を持った手に力がこもる。ミシリ、機械が悲鳴を上げた。


「そっか!じゃあ将来が有望ね。きっとすごい人になれるよ」

「…え?」

「ん?」


 翼は思わぬ言葉に顔を上げてキョトンとし、呆然と柚を見つめる。


――…どうして、


「あ、今日はね、ゲーム持ってきたんだ。また一緒に遊んでくれる?」

「…どうして?」

「うん?」

「これはただのがらくただぞ。どうしてそんなこと言えるの?」


 純粋に。ただ、純粋にそう思い、翼は背中に隠していた機械を柚に見せ、問うた。それに柚は素っ頓狂な声を上げる。


「え、がらくた?」


 まるで、こっちがどうしてと問いたいと言うような顔で柚は翼を凝視する。


「だって、みんな言ってた。あんながらくたばかり作って変な子って」


 そう言うなり翼は視線を下げた。そんな翼を見て柚は少し困ったような顔をした。


「それを気にするなとは言わないよ。例え私にとってはとても些細なことでもあなたにとってはすごく大事なことだと思うから。でも、こんな所で可能性を潰しちゃダメ」

「え?」

「あなたはまだ小さいの。なのに今、何かを自分の手で作りだせることはとてもすごいことなんだよ?」

「…」

「これは翼君にしか出来ないこと。これを磨き続けたらきっといつか、あなたを怒っていた人もあなたを冷たい目で見ていた人もあなたの作ったがらくたに頼らざるを得ない時が来ると思うよ」

「…どうして、そんなこと言えるの?」

「…ふふ、今だってみんな有能ながらくたに頼ってばかりじゃない」

「?」

「今、お茶の間ではテレビが点いていて扇風機が回っていると思わない?」

「??」


 柚は悪戯っ子のように笑いながら虚空を見上げ、翼に話す。翼は全くわからないと言ったような顔で柚の話しを聞いていた。


「そのテレビも扇風機も最初はみんながらくた以下だったの」

「…」

「だけどそれを変な人がいっぱい研究して発明して、そして出来たものなんだと私は思うよ」


 柚が微笑みながら翼の方を向くと、翼はハッとしたように顔を背け、無意識のうちにギュッと目を閉じる。


――何でかわからない。黙って話しを聞いているだけなのに、悲しいだなんて思わないのに、喉の奥が熱くなって苦しくなった。


「何が変で、何が普通なのか。それは自分がいろんな物を見て決めればいいと思う」

「…っ」

「それにあなたにはいるでしょう?自分の価値観を認めてくれる人が。幸せ者だね、翼君」

「かち、かん?」


 翼がまだ知らない単語が出てきて困惑しながら復唱すると柚は柔らかく笑みながら言葉の意味を噛み砕いて説明する。


「自分が良いね、って言ったことに誰かがまた本当だねって言ってくれることだよ。そういう人、翼くんにはいるでしょう?」

「…うん」


 翼が思い浮かべたのはいつも温かい手で自分を撫でてくれる人。そして、もう一人、翼は同い年の彼を思い浮かべた。翼はまたギュッと目を閉じる。


――どうか消えないで。今この瞬間が夢じゃなかったらいい。


「おじいちゃん、好き?」

「…うんっ」


 感極まって更に翼が目に力を入れると目尻から涙が溢れ落ち、頬を滑る。柚はそれを見て苦笑し、頭を撫でながら涙を拭ってやった。


――あぁ、もどかしい。なぁ、お姉ちゃんは今、またさっきと違う表情をしているんだろう?もう少しそのままでいて。大事な瞬間は全て瞳の奥に終っておきたいんだ。


「ふふ、泣きすぎだよ、翼くん」

「んっ…ぅっ」

「あははっ」


――もどかしい、もどかしいよ。お姉ちゃんの表情はすぐに変わってしまうから全て焼き付けられない。お願い、もう少しだけ。もう少しだけ、その笑顔のままでいて。今、目を開けるから。


 翼が馬渕を擦りながらゆっくりと目を開ける。目を開け、その瞳に映ったのはぼやけて見える柚の少し歪んだ笑顔だった。


――俺、知ってるよ。いつも大人たちの前で俺を庇うようなことを言ってくれること。温かいな。いつも俺を笑わそうといろんなことをしてくれること、すごく嬉しい。そして、思わずぬはは、って笑うとお姉ちゃんは嬉しそうに笑う。あのね、お姉ちゃん。いつか、いつかこの心に咲いた花を見て。きっと綺麗に咲き続ける花だと思うから。
そしてその時にはこの花を――…。


 翼は至極嬉しそうに笑った。








この花に名前が欲しい





――――
企画サイト様『理想郷』に提出しました。
素敵な企画に参加させていただきありがとうございました。


オマケ↓


柚の簡易設定
・自称梓の姉的存在。梓はこいつたまにいいこと言うなと認めているが姉と思っているかどうかはまた別の問題。
・読書が好きでたまに好きな本の好きなセリフを抜粋してさぶいことを言う。
・影響されやすくて流されやすい。…けど、自分の意見はきちんと持ってる(けどなかなか話さない←自分の懐に入っている人の悪口等を言われると急に饒舌に話し出すからみんなびっくり)。
・ピチピチの18歳←梓や翼が成長すると大変なことになるが気にしない。最悪人妻設定



作成日:2011 八月十七日
加筆:2011 九月三日




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