「ありがとうございました」


 低い声、高い声、幼い声の異口同音でラット先生の授業を締めくくり、私はご飯を食べようと一番に教室を出て通路を歩く。薄く笑いながら足取り軽く歩く私は側から見たら少し怪訝に思われるかもしれない。背後からは今し方教室を出たであろう同級生たちが今日の夕飯なんだろうな、と話しているのが聞こえた。それに笑みを深めながら何ともなしに視線を外に移すと赤い夕陽が木々を染めているのが見えた。いつもと変わらない風景だと思っていた。


「……っソロさん!?」


 木々を染める夕陽の色が綺麗だな、と歩きながら見ていたら何かが足を引っ掛けた。転けそうになり踏鞴を踏みつつも驚きながら振り返るとそこには行き倒れたソロさんが伏せっていた。


(つ、通路に倒れてるのは初めて見たな)


 唖然としながらそんなことを考えていると前方から同級生たちが談笑しながら歩いているのが見え、ハッと我に返る。慌てて駆け寄りソロさんに触れた。


「そ、ソロさん!躓いてごめんなさい、私がよそ見してたから…」


 肩に手を置いて揺さぶってみるけどまるで起きる気がまるでしない。どうしよう、と困り果てたその時、後ろから呆れたような声が聞こえた。


「またか、と思わなくもない」

「え…あ、ペルーさん」


 ペルーさんはやれやれと言った風に目を伏せソロさんの襟元を掴み引きずり始めた。…何度見てもソロさんの扱い方が酷いように思えるのは私がおかしいせいではないと思う。


「あ…ありがとうございます」

「礼を言われるようなことはしていない」

「あ、…はは」


 否定型で少し冷たいように聞こえたペルーさんの言葉に私は苦笑を漏らし、見送ることしかできなかった。
 引きずられていったソロさんが通路の角を曲がって見えなくなった所で私も立ち、スカートについた埃を払う。遠くから楽しそうな声が聞こえた。



――――

「モルガナ様のお客様?」


 あの後、どうせ一番には食堂に入れないだろうな、と思い至り、一度部屋に戻ってしばらくしてから食堂に行くとそこには仰々しい服装をしている人たちが賑やかに食事を取っていた。生徒の姿はどこにもない。外はもう闇色に染まる時間帯だからきっと食事を取ってさっさと自分の部屋にでも戻ったのだろう。
 料理やらシーツやらを抱えて忙しそうに走り回っていたアヴィスの鳥さんたちを捕まえてあの人たちは誰かと聞くと「モルガナ様の客人ですわ」と鬱陶しそうに返された。














あぁ、そのまま力を使ってしまえばよかったのにと思った。そうすればソロさんはルルさんに会えることはない。決して。

ルルさんはすごい人。周りからあんなに慕われて羨ましい…嫉ましい。でも本当はわかってる。あれはルルさんが努力して引き起こした奇跡なのだと。
あんなに慕われる人、きっとどこにもいない。



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -