07.決心

「トシさん!!!!!」

かばったつもりが、かばわれていたのは私だった。
トシさんの前に腕を広げて出ていった私を、上から抱え込んで守ってくれたようだ。
トシさんが触れる背中から殴られたのであろう衝撃を感じる。

ぐっ、と一声うめいた後すぐに暴漢を蹴り飛ばし、今度こそ気を失わせるトシさん。
その間も、私を脇に抱えて護ってくれていた。

「っトシさん!!血が…頭から血が!!」
「ああ…これぐらい別になんともねーよ。それより…」
「ごめんなさい…!私が考えなしに前に飛び出たりするから…!」
「それがわかってるならもういい。次からは大人しくしててくれよ、まあ次がないことを願うがな」

なんてことはない、なんて振る舞うがその頭から流れる血の量は多い。
さらに今日は豪雨ときた。出血過多で亡くなったりはしないだろうか。

自分の浅はかさに、弱さに、涙が出る。
さっきまで笑いあっていたこの人が、打ちどころが悪ければ亡くなっていた可能性もある。
そうでなくても頭を怪我したら後遺症だって馬鹿にならない。

総悟君とお役人さんが走ってやってくるまで、トシさんの腕の中でずっと泣いていた。

___

総悟君とトシさんとともに家に帰ると、ミツバさんが出迎えてくれた。
トシさんの頭のけがを見て悲しむだろうと思っていたが、ちょっと驚いたような表情をしただけでその視線はすぐに私に向かった。

何も言わず、優しく抱きしめてくれるミツバさんに、また涙が出る。

私は、どうやってこの人たちに恩返しができるんだろう。

お風呂に入って、夕飯を食べて、お布団に入って。
問い詰めることも、はれ物に触るようでもなく自然に接してくれる。
私の心を護ってくれようとしている。

私は、せめて、せめて…


翌朝、稽古に向かう総悟君を見送ってから、いつも以上に素早く家事を終わらせる。
そして午後になって、いつもなら道場に差し入れるおにぎりを握るのだが、昨日の今日ということでミツバさんも迷っているようだった。

「ミツバさん、私はしばらく道場にはいきません。その代わり、午後は自由時間をいただけないですか?」
「そう…、もちろん理子ちゃんの好きなように過ごしていいのよ。でも暗くならないうちに帰ってくるのよ?」
「はい!では、ちょっと出てきますね」

あえて何をするかは言わなかった。
とりあえず、走る。
田んぼと草むらだらけの舗装されてない道をとにかく走る。
疲れたら息が整うまで歩いて、また走る。
幸い涼しい気候のため熱中症にはならなかったが、2時間ほどして沖田家に帰ってきた時はもうへとへとでフラフラだった。

「おい理子、最近道場に来ないくせになんでそんなへとへとなんだ?」
「えーと…村を散策してるの。」
「散策って…そんな転んじゃうほど険しい道だったか…?」
「ははは…総悟君みたいに機敏に動けたらいいんだけどね。」

そうして午後を過ごすようになってから、1か月ほどたった。
険しい山道を走って登ったり、木登りをしようとしてるとどうしても生傷ができてしまう。
悟られないように気を付けていたが、総悟君にはお見通しだったようだ。

「近藤さん、最近お前が来ないって寂しがってたぞ。いつでも待ってるってさ。」
「近藤さん…。じゃあ、明日一緒に行ってもいい?」
「一緒にって朝から?いいけど午前は試合してないぞ。稽古したり素振りしたりで見てても楽しくないと思うけど…」
「ううん、それがいいの!」

この一か月、毎日走り込みと木登りと筋トレと…と体を鍛え続け、それなりに体力もついたように思う。
近藤さんたちのように鍛え上げられた男性方の足元にも及ばないだろうが、それでも、マシにはなったはず。

私は、あの夜、決心したんだ。

せめて、せめて、自分の安全をほかの人にゆだねなくて済むようになりたい、と。

人を護るなんておこがましいことを願ったりしない。
だけど、せめて、私を護って傷つく人がいないように。
やさしいこの人たちは、簡単に自らの身を危険にさらして人を守ろうとするだろう。
私は、足手まといにならないくらいにはなりたい。

そう、私も、強くなりたい。



決心


2020.07.25

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