05.温かい世界

理子ちゃんは何歳くらいなのかしらね、とつぶやくミツバさん。
見た目的には総悟君と変わらないくらいなのだが(13歳)、彼より行動がずっと落ち着いているそうだ。
だいぶあたふたしていると思うのだが、いったい総悟君はどれだけ落ち着きがない行動をしているんだろうか…

ミツバさんは、帰り道にあった八百屋でスイカをいくつか買った。
そんなに買って食べきれるのか、と聞くと、道場に差し入れに行くそうだ。
そういえば、昨日のおにぎりも差し入れだと言っていた。…私は気絶していけなかったけど。

道中は、その道場にいる人たちの話を聞かせてくれた。
みんないい人たちで楽しそうだ、というミツバさんは、笑っているのにどこかさみしそうで、でも嬉しそうにも見える。
時折出てくる「十四郎さん」という人の話の時は、なんとなく頬が赤らんでいるので、きっと好きなんだろう。

道場につくと、それはもう熱烈に歓迎された。
もう秋になるというのに水浴びをした後のように汗をかいていて、スイカを取り合う姿は確かに楽しそうだ。
私はミツバさんの陰に隠れてその様子を眺めていた。
知り合いは総悟君しかいないし、あの奪い合いの中に入っていく勇気もなかったから。

「理子、食べないのか?」
「うーん、稽古後で疲れてる人たちが食べたらいいよ。」
「遠慮すんなよ。はいこれ半分やるよ。」

総悟君はミツバさんには大きな一切れを渡したあと、私には総悟君分をの半分をくれた。
いいよ、って返しても押し返されるからありがたくいただく。

「…ところで、そちらのお嬢さんはどちらさんかな?」

人のよさそうな大柄な男性が、私と目線を合わせて話しかけてくれる。
なんとなく、この人がミツバさんの言っていた近藤さんなんだろうなとわかった。

「えと、理子です。昨日から沖田家でお世話になってます。」
「世話?何だお前、家出娘か。」
「たぶん違うと思います…」

たぶん、なんて私の煮え切らない態度に皆さん不思議そうな顔をする。

「理子ちゃんは、記憶をなくして倒れていたのよ。総ちゃんが見つけて連れてきてくれたの。お家に帰れるまでうちに居るから仲良くしてあげてね」
「そうだったのかあ…かわいそうに。俺は近藤勲だ。よろしくな、理子ちゃん。」
「よ、よろしくお願いします!」

そのあと皆さんはどんどん名乗ってくれるけど、正直一日じゃ覚えきれない。
でも、見ず知らずの私を温かく受け入れてくれる皆さんを、好きにならないわけがない。
稽古再開の声がかかるまで、楽しくお話させていただいた。

ミツバさんは、帰って家事をするのもいいけど稽古を見学してみるのもいいかもね、と勧めてくれた。
私も、あのフレンドリーな皆さんがどんな稽古をしているのかちょっぴり気になるので、こっそり見学してみることにする。

私がのぞいた時にはもう試合が始まっていた。
面のせいで顔が見えず、誰と誰なのかはわからなかったが気迫は伝わってくる。
態勢が崩れても立ち上がる。
相手よりもさらに高みを目指す。

素直にかっこいいと思った。

木の陰から覗いていたので誰にもばれていないと思っていたが、不意に後ろから声をかけられて驚いた。

「おい、もう夕方になる。暗くなる前に帰れ」
「あ、はい、すみません。…えと…十四郎さん、で間違いないですか?」
「!…さっき名乗ってないはずだが、なんで知ってる」

ぎろりと顔を覗き込まれ委縮してしまう。
ミツバさんは、私と同じ艶やかな黒髪を後ろで一つに束ねている人がいる、その人の名は十四郎さんだ、と言っていた。
他にも黒髪の人はいるが、なんとなくこの人なんじゃないかと思った。
…さっき名乗ってもらえなかったから、ってのもあるけど。

「み、ミツバさんから…」
「あ?声が小さくて聞こえねぇ…」
「おい土方!!何理子いじめてんだ!」
「ぐっ…てめえ総悟!何しやがる!」
「理子、こいつは俺の舎弟だ。いじめられたら俺に言えよ、百倍返ししてやるから」
「いつだれがおめーの舎弟になったよこのクソガキ!!」

私をよそに始まる取っ組み合いに唖然としてると、近藤さんが仲裁にやってきた。
他の方たちは特に何事もなかったかのように過ごしていて、これがきっと彼らの日常なんだろうなと思う。

これで稽古は終わりだという近藤さんの声で皆さんは解散していき、私は総悟君と家に帰る。
その間ずっと「土方のやろーには近づくなよ」と言われていたが、怖いので私から近寄ることはないだろう。
その旨を伝えると、総悟君はほっとしたような、嬉しそうな顔をした。
そんなに嫌いなのだろうか。案外気が合ってそうな気もしたのだが…それは言わないことにした。



温かい世界


2020.07.17

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