甘いご飯を食べられたら

現パロ


私は坂田銀時が好きだ。
私とあいつの関係は、同僚。飲み友達。それだけ。
気づいたら好きになってたけど、友達の期間が長かったせいか口を開けば悪態ばかり。
あいつは私の気持ちにみじんも気づいてないだろう。

「ねー坂田」
「なんだよ佐藤」
「こないだ、土方とばったり会っちゃった、って言ってた定食屋、連れてってよ」
「は?…あーなに、やっぱりお前あいつが好きなわけ?」

ほら、すぐこんな頓珍漢なことを言い出す。
ちがうわ。あんたの行きつけだっていう定食屋に行きたいんだよ、ばか。

「違うって何回言ったらわかんのよあんたは。髪の毛だけじゃなくて頭の中もくるくるパーなの。」
「ちげーよ!!!!んっとにかわいくねーやつ。」

はいはい、どうせ私はかわいくないですよ。
取引先の結野さんみたいな守ってあげたいかわいらしさはあいにく持ち合わせてないし、妙やあやめみたいな器量もない。

「別に連れてってやってもいいけど、俺常連だから特別メニューだからな?普通の食ったことないから美味しいか知らねえからな。」
「いいの。あんたのその特別メニューを見てみたいだけだから。」
「ふーん。…じゃあ今日の昼連れてってやるから、昼休みになったら入り口で待ち合わせな。」
「ん。」

顔には出さないけどめちゃめちゃうれしいし楽しみだ。
坂田は甘いものなら何でもおいしいって食べるけど、普通のご飯だとあんまり好みは聞かない。
そんな坂田が行きつけの定食屋、胃袋を掴んでやりたい私的にはずっと気になっていたのだ。
まさか定食屋でパフェを食べるわけでもあるまいし、なにか美味しい「ご飯」があるはずだ。ヒントをつかんでやる。

…そう、思っていたのに。

「はい銀さん、宇治銀時丼だよ!」
「おー!あり、おっちゃん、こいつの分、いつもよりあずき多くない!?」
「そりゃあ、銀さん、彼女を初めて連れてきてくれたんだから…サービスだよ!」
「いやいや、こいつ彼女じゃねーよ。いつも話してるだろ、口の悪い飲み仲間だよ。てことで佐藤、俺のと交換な。」

何、このなぞのどんぶりは。
え、ご飯の上にあずき?
下のお米はもち米ですか?今からおはぎでも作るんですか???

坂田の胃袋を掴むにはまず自分で食べて味付けを知らなきゃ、とか言って同じもの頼んだのを心底後悔した。
これをどうやって完食しようか途方に暮れてると、隣に誰かが座った。

「…あ?佐藤か?」
「ひ、土方…来てたんだね」
「おう、ここのおっちゃんの土方スペシャル、うめえんだよ。一口食うか?」
「あ、やーいいかな。うん。ほら、私こっち処理しなきゃいけないから」
「あ?…いやお前、なんだそのごみは。あいつのまねごとでもしてるのか?」
「やーまねごとっていうか…」

こいつ、さては坂田に気付いてないな。
余計なこと言うなよ。

土方には時々私の恋の相談をしているので、口を滑らせないかひやひやしてしまう。
慣れないウインクをバチバチ決めて、隣の存在を知らせようとしてるけど一向に気付いてくれない。
あれ、ていうか坂田は気づいてるの?

「お前、ほんとあいつのこと好きだな…あんなちゃらんぽらんのどこがいいんだか…」
「んんいやいやいやまあほら、好きって色々あるよね。ほら、ね」

おいいい気づけ!!私のこの渾身のウインク!!!

「あ?まあそうだな。でもまさか食の好みまで似せに行くなんてな。そのごみ食えたら付き合えるかもな」
「まあまあまあまあ土方殿、落ち着きたまえよ、ん??昼間っから酔ってるのかな??あーーこりゃだめだ、酔い覚ましに水飲みな、はい」
「がばがぼがば…ってめーー!!!ピッチャーごと口に突っ込むやつがあるか!!!」
「え?まだ気持ち悪い?あらあらもうトイレ行って吐いておいで。お会計しといてあげるからね。はいさよならーー」
「いや俺まだ食ってないんぐっ!?」
「さようなら!!!!」

鳩尾に肘を思いっきりあててやったら恨みがましい目でこっちを睨みながらやっと出ていく土方。
その時やっと坂田の存在に気付いたみたいで、一瞬驚いた顔をした。
そのあと、にやりと笑って後ろ手を振るから、割と本気で殺意がわいた。

「…何、お前、俺と付き合いたいの」

んーーーーーー聞かれてたか!!!!!!
さて、なんてごまかす?
こいつに気がないことなんてわかり切ってるから今玉砕なんてしたくない。

「や、ほら、私実は甘党になったからさ、坂田の甘いもの探しのたびに付き合えるかなって!!!」
「…」
く、苦しい!これはさすがに騙されないか…

「…ま、そのごみ?空になったら付き合ってやるよ」
「…え?」
「いやー俺にとってはご褒美みたいなもんなんだけど?お前にとっちゃゴミなんだもんなあ。」
「ん…?」
「まあプライドの高いお前がごみなんて食えるわけないし?この話はなかったことで」
「んんいやいやいや待って待って。私はごみなんて言ってない!!!それいったの土方!!」
「でもお前、処理とか言ってたじゃん。それもうごみ処理ってことだろ」

ぎゃーー!!!
ばか!!数分前の私ばか!!!
もういたたまれなくて坂田の顔が見られない。
どんな顔して言ってんだろ。
自分の好物ゴミ扱いされてんだからキレてるよね。幻滅されたかな。
いや、どうせ幻滅されるほど好かれてもなかったし…もうどうしようもないのかな。
…ううん。

「…食べる。」
「あ?…いやいいって。無理すんな。俺が食っとくからお前は別のもの頼めば。」
「ううん、食べる。…だから坂田、さっきの話、なかったことにしないで」

女は度胸。最後の悪あがきぐらいしてやる。
そう意気込んでこの見るだけで胸焼けしそうな小豆とお米の山に箸を入れる。
食べろ、いける、いけるぞ理子。お前はできる女…

ぽろりと涙が零れ落ちた
そう、私は甘いものが苦手なんだ。大の辛党で、土方の彼女のミツバちゃんとすごく気が合う。
坂田の好物だから食べれると思ったけど無理っぽそう。
大体、自分の好物を涙流して嫌がりながら食べる女と付き合うなんて、誰だっていやだろう。

もう駄目だ。終わった。

「…何がお前、私甘党になったからだよ。全然ダメじゃん。」
「うぅ…ごめん、坂田」
「お前甘いもの食べると気持ち悪くなるっつてたろ。それなのに食べるって何、そんなに俺のこと好きなわけ。」

もうやけくそだった。
どうせもう叶わない恋なんだから、最後に潔く振られてきっぱりあきらめようって。

「…好きだよ。もう何年も、ずっと好き」

振るならさっさと振ってくれ。

「…ふーん。俺はてっきり大串君のことが好きなんだと思ってたんだけどな。」
「は?…なんで。ずっと違うって言ってたじゃん。」
「いや照れ隠し的な…お前すぐあいつのとこ行くし」
「それは…あんたのこと相談してただけだし」
「俺にはすぐ悪態つくし」
「それは…」

それこそ照れ隠しだっつーの!!!!
さすがにそんなことは言えないから俯いてしまう。
何?いつまで引っ張るの?もういいからさっさとケリつけてよ。

「…俺、かわいい子が好きなんだよね」

知ってる。

「付き合ったら結構束縛するし。」

前に聞いた。

「…お前のその謎な意地っ張りも照れ隠しだと思ったらなんかかわいく見えてきたわ。」
「…ん?」
「俺、付き合う女がほかの男と飲みに行くのとか絶対許さないから」
「…そうなんだ。」
「…だーーもう!!お前はほんっとに鈍いな!!!」
「は!?何なの急にキレないでよ!」
「なんかお前のことがかわいく見えてきた、あいつともう飲むの禁止!っつってんの!」

「…は、何言って…かわいいとか意味わかんないし、きもいし」
「あーはいはい、そんな顔してたら悪口も悪口に聞こえないから。お前ほんと素直じゃないのな」

坂田はがたんと立ち上がってお会計を始める。

「おっちゃん、これ持ち帰るからパックに移し替えてくんない」
「おうよ。また来てくれな、姉ちゃんのほうは、今度は普通の飯出してやるから」
「あ…ありがとうございます。すみません完食できなくて…」
「いいんだいいんだ。それにな、素直じゃないのは姉ちゃんだけじゃないぞ。うちに来て銀さんいつもあんたの話ばっかするんだから」
「え」
「…」

そそくさと店を後にする坂田を走って追いかける。



甘いご飯を食べられたら



「…これ、俺が空にしてやるって言ったらどうする?」
「…お願いします。」


2020.07.16

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