09.わだかまり

年末。
おせちを作ったり大掃除をしたりして、沖田家の女二人はせっせと働いていた。
総悟君は道場をピカピカに磨き上げなければいけないらしく、トシさんに引きずられていった。

毎年この量の仕事を一人でしていたんですか、と驚くと、昨年までは総悟君が道場にはいかずにこっちのお手伝いをしてくれていたんだそうだ。
それが、今年は私がいるから人手が足りるということで道場に駆り出されたらしい。
なるほど…それでトシさんをあんなに恨みがましい目で睨んでいたのか。

大晦日になり、ようやく一息つける状態になると、ミツバさんは道場に差し入れしてあげましょうと私を誘ってくれた。
稽古を断られて以来、なんとなく気まずくて行けてなかったが、そのわだかまりも今年のうちに解消しておいた方がいいなと思った。

「こんにちは、皆さんお疲れ様です。これ、私と理子ちゃんの二人で握ったおにぎりです。よかったら食べてくださいね」
「おお、ミツバ殿!ちょうど今休憩中でしてね、お腹が空いたとぼやいていたところなんですよ〜」
「ふふ、タイミングがよかったわ」

談笑するミツバさんと近藤さんを扉の陰からこっそりのぞく。
私も笑顔であいさつしに行くぞ!と意気込んでいたのにいざ皆さんを前にしたら怖くて一歩が踏み出せない。

「おい、理子。」
「ひっ!?」

後ろから肩をたたかれて驚く。気配無く近づかれたらドキドキしてしまう。
振り向くと、そこにはトシさんがいた。
トシさんが総悟君を連れに来るときはいつも陰に隠れて見つからないようにしていたから、こうして会って話すのはあの時ぶりだ。

「てめー、あれから一か月もたつのに、一度も顔を見せねーとはどういう了見だ。ふてくされてんのか。」
「ち、ちがいますよ!!ちょっと自分の浅はかさが恥ずかしかっただけで…」
「…別に恥じるこたぁねえよ。強くなりたいと思う気持ちは立派なもんだ。」
「でも…でも、許してくれなかったじゃないですか。」
「やっぱふてくされてんじゃねーか。」

ふっと笑うトシさん。
ふてくされてるような、恥ずかしいような、なんとも言えない気持ちで顔を合わせられなかった。そんな私をきっとこの人はわかっている。

「お前は、安全なところで、笑って過ごせばいいんだ。手を血に染める必要なんてない、普通の人生を。」
「トシさん…?」

トシさんだって、総悟君だって、近藤さんだって。
この道場で稽古をする生活なら血に触れる機会なんてそうないだろう。
人斬りにでも転向するつもりか、と聞くと笑って流された。

「理子ちゃん、大きくなったなあ!男子三日会わざれば刮目せよというが、理子ちゃんは会わない一月の間でずいぶん別嬪さんになったんじゃないか?」
「こ、近藤さん…そんなことないですよ」
「いやいや、謙遜することはないさ。なあ、総悟」
「ええ、そりゃあもう近藤さんが言うんだから間違いないですよ。あー別嬪になったなあ理子」
「総悟君…棒読みにもほどがあるよ…」

どっと場が沸いて、笑顔があふれる。
私の気まずさなんてあっという間に吹き飛ばしてくれる近藤さんと総悟君、それからトシさん。
幸せだと思った。



わだかまり


2020.08.11

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