モブリットは戦慄していた。まともな感覚を持ち合わせた人間が今ここには己1人しか居ないのだ。サンタクロースを信じきっているような、無垢な瞳を希望にきらきらさせている、謂わば物を知らぬ幼児ならばまだしも、成人を越えている大人4人中、1人だけ。この事実は胃腸が痛いとか頭痛がするとかその程度で済むものではなく、ただただ恐ろしいものだった。モブリットは耐えかね呟く。もうやだこの人たち。
 いっそのこと今日という日がすべてきれいさっぱり失われてしまえばいい。或いは書き損じた手記を消すかのように記憶から消去されてしまえばいい。だが現実は厳しく、そんなふうに都合よくはいかないのである。世界はあまりに残酷だった。

「皆していったい何を議論しているんだい。随分熱い討論会のようだが」
「何の話だか知らんがもう少し靜かにしろ。うるせえ。廊下まで声が響いていた」

 ――神は死んだ(ニーチェ)――。入室してきたその人らは、昨日までは尊敬すべき人物であり無条件に信頼していた2人であったのだが今やモブリットにとっては諸悪の根源である。
 顔を見るなりバッと衣擦れの音をさせ敬礼の姿勢をとったペトラは、リヴァイの参入にそのつよい意思を湛えた双眸で同意を求める。

「兵長! 兵長ならすべてご存知の筈!」
「どうした、ペトラ」
「我らがリヴァイ班のエレンは天使ですよね!?」
「…そうだが。なぜおまえがそれを知っている」
「見ればわかるじゃありませんか!」
「そうか。すげえな、ペトラ。その通り、確かにエレンはただの天使だ。それでどうかしたのか?」
「ハンジ分隊長とミケ分隊長がひどいことを仰るんです!」
「ほう? クソメガネはともかく、普段から必要なこと以外はあまり喋らないミケまでというのがわからねえな。言ってみろ」
「はっ! エレンに…あのエレンに男性器がついていて、トイレにも行くだとか精液を出すだとか有り得ないことを断言しエレンを穢すんです!」
「…………何言ってんだおまえ」

 ここにきて急にリヴァイがまともなことを言い出した。それはそうである。なぜなら彼らは今しがた、まさにその天使の男性器を貪り倒して尻の孔まで抉り、初めての精通を嬉々としてアリーナで拝見してきたところなのだから。

「ペトラ。エレンが天使であることに異論はない。だがな、あいつはちょっと(性的知識が)足りなかっただけで、ちんぽもついてやがるし当然便所にも行くぞ。まァちょっと(経験する機会がなかったせいで)自慰も知らねえ天然記念物みてえなガキだが、それはさっき教えてやったしな」
「な、何を……兵長…、何を仰って、いるんですか……」
「何を震えているんだい、ペトラ。リヴァイの言は事実だよ。つい先程エレンは初めての自慰で精通を果たしたばかりだ。因みに射精した精液は私がすべて美味しく頂いた」
「だ、んちょう……!?」
「はァ!? ちょっと待ってよ、エルヴィン! エレンの精液舐めちゃったの!? 全部!?」
「勿論だ。ぺニスをさわり弄くり倒した私の手に吐精したのでね」
「少しくらい残しといてよおおお! 私もエレンの精液めっちゃ欲しかったああああ!!」

 何で全部舐めるんだよ気持ち悪いなおっさんサンプル分くらい残せよ私の気持ちも考えてよ!! と髪を振り乱す勢いで床バンならぬテーブルバァンを再度繰り返すハンジを、リヴァイが道端の石ころでも蹴るように軽く蹴った。だが人類最強の足技は軽くであろうが関係なく痛いようだ。ハンジは唸る。

「うう…痛いよリヴァイ……ひどいよ…!」
「ひでえのはおまえの雄叫びのほうだ、メガネ。うるせえっつってんだろうが」
「でも! う、……ううん? エルヴィンがエレンのちんちん弄くり倒してたというのならリヴァイは何やってたのさ? 黙って見ているだけのきみじゃあないよね?」
「いろいろだ」
「いや具体的に教えてよ」
「…はァ? 何でてめえに教えてやらねえといけねえんだよ」
「それこそ『はァ?』だよ。きみたちのところへエレンを送り込んであげたの誰だと思ってんの? 寧ろ私は感謝されるべきじゃない?」
「チッ…仕方ねえ。…薄桃色の乳首を噛んだり舐めたりしながらエンジェルスキンを堪能した。まさに赤ん坊みてえな肌だった。あれ程しっとりと手のひらに馴染む感触は他にねえ。特に尻。何だあの尻は。反則だろ。引き締まっているくせに適度にやわらかくて、孔はキュウキュウ締めてきて躾られてえとしか思えねえ。前立腺いじったら泣いた」
「何やってんだよ、きみは!」
「あいつが悪い。天使すぎたんだ」

 最早ペトラは正気でいられなかったのだろうか、嘘…嘘よ……とぼそぼそ呟いていて非常に危ないお姉さんになっている。これはこれで怖くて近寄り難い。
 何ということだろうか。モブリットが恐れていたこと以上の目に合わせてしまった。エレンは大丈夫なのだろうか。そして潔癖症だとか言いながらそのように振るまいつつ、子供の尻の孔をほじくる兵士長はほんとうは潔癖でも何でもない。ただの性犯罪者だった。

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