「……おい。そこのモブ野郎」
「……リヴァイ…彼はモブではないよ。モブリットだよ」
「んなもんどっちだって良いんだよ。てめえ、エレンに説明しろ」
「ただし触ったりするのは厳禁だよモブリット」
「は…っえ、えええ!? 私ですか!?」

 まさかこちらにお鉢がまわってくるとは。モブリットは激しく焦る。だが生き急ぐことも死に急ぐことも回避したい彼は従う道を選択した。

「りょ、了解致しました…!」

 そうは言ってもどこから説明すれば良いのやら。顔色こそほのかにしか変えないが内心穏やかとはいえずにどこまでも途方に暮れながら、モブリットは息をゆっくり吸って吐いた。そしてソファに座る3人のほうへ躰ごと向き直った。モブリット先生の保健体育の授業である。

「あー…イェーガー? …ええと、つまり、だな。自慰というのは、その、まず、オナニーやマスターベーション等々呼び名は言語毎にあるのだけれど、まあ、あの…することは変わらない。きみも知っていた『手淫』だ」
「あ、はい」

 あ、はい。じゃねえんだよおおお! とは誰も言わない。何この羞恥プレイ、改めて正式名称を言わされるとすごく恥ずかしい。ほんとうは知っているのに態々大の大人であるモブリットにエロ単語を言わせ陰で3人、或いは実はハンジも噛んでいて4人でニヤニヤしているとか、そういう類のいじめなのではないだろうかと思わないわけでもないけれど、だが万が一そうだったとしても背に腹は変えられないのである。モブリットはバシバシ突き刺さる痛い視線と無防備な視線と見守るような視線に晒され既に泣きそうだ。

「て、手淫とは即ちそのままの意味で…手などで自分の性器を刺激して、性的快感を得る行為のことをいうのだが…」
「要するに自分で自分のちんぽを手で刺激すりゃあいいんだよ。これならわかんだろ、エレン」
「……手で刺激っていったい何するんですか? どの程度なら刺激に入りますか? 単純にちんこに触ることが自慰なら小便する度に自慰していることになりますよね」

 ならねーよ阿呆。最早何だか頭痛がする。どうすれば良いのこの子。モブリットは遠い目になりつつ、リヴァイがやや俯きその肩をぷるぷるさせていることに恐怖心を抱かずにはいられなかった。

「…イェーガー、自慰に必要な刺激はまず興奮が必要なんだ」
「こうふん…」
「そう、それから、1人靜かに座っていられるような…安定感のある場所が要る」
「なぜですか?」
「…いわば男が最も無防備になる瞬間なんだよ…自慰の、あの、最中は。だから、不安定な姿勢じゃ安心してヌけない」
「無防備って…そんな、自慰ってそれ程ハイリスクな行為なんですか」
「う、あ、ハイリスクか…言われてみればそうかもしれないが今はそれは気にしないで欲しい」
「では具体的にどういう場所でするんです?」
「個室があるなら誰もいない自室が最も良い、と、思う。内側から鍵をかけられるならかけるべきだ。ベッドの上でも、椅子に座ってもいいし、床でもいい。あとは…まァ、便所の個室など…だ。とにかく、周りに誰もいないこと、リラックスとまではいかずとも安定して座れて安心出来る環境であること、これさえ気を付けるように理解してくれていればいい」
「成る程」

 何が悲しくて15歳相手に自慰講習をしなければならない。激しく虚しい。こころなしかモブリットの声は頼りなくも震え気味に、且つひそひそとまではいかないが無意識な小声に抑えられてしまっている。けれど聴講してくれているエレンは真顔だ。ひたすら真面目に自慰講習を受けている。

「つ、続けて重要なのは所謂、オカズと呼ばれるものだ。これは肖像画や写真などの実物でも、単なる妄想でも何でもいいのだが、興奮するためには必須だ。因みに、ここで言う興奮というものは性的な興奮であり…生物の本能としての『子孫を遺す』ということからくる。先程、エルヴィン団長たちが壁外調査の前後が云々と仰っていたのは、殊更いつ死が訪れても不思議でない環境下では性欲も活性化するという意味での例えだったんだよ、イェーガー」
「巨人を駆逐する興奮とはまた別なんですか?」
「ああいや…我々が兵士である限り、完全にそれは切り離せるものではないと思うが…でも、きみの言う昂りとは、巨人への憎しみ的な昂りだろう? ならば(絶対に)違う」
「……よくわかりません」
「と、とにかく! とにかくだ。例えば“おまえどんなオカズが好みなんだ? 俺は歳上の巨乳が好きだぜ!”とか男同士で話しているなかで1人だけ、“俺? チーズハンバーグ”とか言ってしまえば間違いなく男友達の輪に入れなくなる。そのへんは少し気をつけるべきだろう」
「えっ」
「えっ…?」
「く、訓練兵の頃、同期とそういう会話をしたかも…しれません。……どうしよう」

 既に手遅れであったようだ。精通さえ未だにないと仮定するなら当然ではあるが。
 どうしよう、などと涙目になりつつ呟いたエレンの隣から今にも、てっめえモブ何エレン泣かせてんだ削ぐぞとでも言い出しそうな人類最強がモブリットを睨みあげ、その視線だけでモブリットは寿命が3年程削られてしまった(気がする)。

「どっ…どうもしなくていいイェーガー大丈夫だから! 大丈夫だ! この先のほうがずっと大事だから!」
「そうなんですか!」
「そそそうだとも…っ! とにかく、場所を押さえて、オカズで性的に興奮したら、次は実践方法だ」

 期せずしてゴクリと喉が鳴る。ついにこの段階が来てしまった。とにかくと言い過ぎなモブリットはまだ死にたくない。そこへ、使いなさい、と命令され手頃な太さかと思われる筒をどこから取り出したのかエルヴィンから持たされる。正直生きた心地がしない。
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