「そうだね。……ふむ、ではエレン・イェーガー。きみは今、我々と何の話をしていたのかな」
「巨人の討伐の話です」
「……ん? んん? あれ、おかしいな? 昂りの話をしていたよね?」
「はい。壁外調査は勿論、目前に巨人が現れた場合、必ず駆逐してやるという気持ちでいっぱいになって頭に激しく血が昇り、昂らずにはいられません。そういう話ですよね?」
「おい、最早そっから違うじゃねえか。どういうことだエルヴィン」
「私にも何が何だかわからない」
「……団長と兵長は、いったい何のお話をされていたんですか……?」
「性の話だ、クソガキ。遠回しに聞き出そうとするからこうなるんだろ。おいエレン!」
「はっ、はい!」
「命令だ。答えろ。おまえ自慰はどうしている?」
「じいって何ですか」

 ことりと小首を傾げたエレンは不思議そうにしながらとんでもない燃料をあっさりと投下した。

 じいって何ですか。
 じいって何ですか。
 じいって何ですか。

 ――何言ってんの、この子。

 だがしかしエレン曰く、

「え…あ、あの…すみません。『じい』って『自ら慰める』って書くやつのことですか? 今の流れでなぜその単語が出るのかまるで理解が及ばないんですが、あの、えっと……」
「エレンてめえ、馬鹿も大概にしろ。カマトトぶってりゃ何でも赦されると思うなよ」
「カマ…? 何です? 確かに俺は馬鹿ですが回答は真摯にさせて頂きました!」
「いやいや、しかしエレン。きみの嗜好はふつうなんだろう? つまり、ふつうの自慰をするということだろう?」
「だから、『自慰』に何かあったんですか?」

 瞬時、空気の流れが静止した。それは凍てついたと呼んでも差し支えなかったかもしれない。
 モブリットは思わず内心でイェエエガァァアアア!! と子供の氏を叫んだ。叫ばずにいられなかったのだ。現在進行形で今エレンを取り囲んでいる人間がせめてリヴァイ班の面々ならばおそらくここまでのことにならなかっただろう。たぶん。きっと。そうだといいなあ。
 だが、ここでエレンを挟んでいるおっさん2人は――仕事上ではこれ以上ない程に頼もしいこの2人は、この場において15歳の子供に性的な話を持ち掛けているどうしようもない大人でしかないのだ。

「まさか、とは思うが…エレンきみは、自慰を、知らないのか?」

 何を貴方は直球ストライクバッターアウトなボール投げてんですか団長、あとその顔めっちゃ怖いです兵士長……モブリットは頭を抱えたくなった。ついで胃の痛みも増していく。というのにエレン本人は、少しだけ困ったような、何とも言えない表情のまま、すみません、何ら意味を成さない謝罪の言葉を繰り返す。

「『自慰』という言葉は知ってます。…『手淫』てやつですよね?」
「は、知ってんじゃねえか。びっくりしただろうが…このクソガキが(ホッ)」
「ならば、したことくらいあるんだね(ホッ)」
「因みに誰に教わったんだ? つうか当然だがおまえ処女だろうな? エレン。事と次第によっちゃあ話が変わっちまう」
「何を言っているんだリヴァイ…よもやエレンが非処女である筈が!!」
「(ひしょ? 秘書? 禁書だったのかアレ)いえ、あの、誰に教わったというわけでもなく、父の医学書からです。なので辞書的な知識ならあるんです。でも正直なところ……俺、意味がわからないっていうか、意味がループしちゃって……」

 意 味 が わ か ら な い だ と ?

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