そりゃあそうだろうわかるわけねえよとモブリットは思った。ツッコミ不在、というかツッコミを入れても咎められない人間不在の空間がこれ程にどうしようもないものだったとは。今更遅いが、やはりモブリットはエレンを入口で逃がしてやるべきであったのだ。

「よし、エレン。なるべくわかりやすく話そう。男という生き物はどうしたって(ぺニスの)昂りや(精巣 ピーーーッ の)窮屈さからは逃れられない、というところから私とリヴァイの議論は始まった。それら自体は仕方のないことだ。生理現象だからね、自然現象と言ってもいい。『血沸き肉踊る』ではないけれど特に我々のように、常に生と死を分ける戦いに身を置く兵士は意識的、無意識的に関わらず(性的に)興奮状態に陥り易いものだろう。エレン、ここまではわかるかい?」
「はい。俺も壁外調査は勿論、目前に巨人が現れた場合(必ず駆逐しryという気持ちで)いっぱいになって(頭に)激しく血が昇り、昂らずにはいられません」
「…ほう、悪くない」
「激しく? それは意外だ。ではエレン、壁外調査の前夜や後夜なんかは…」
「それはもう昂り過ぎて(殺意で)眠れないくらいです。何て言えば良いんでしょうか…(胸が)張り詰めて張り詰めて、今にも(巨人への怒りが)爆発しそうで、たまらないというか。……そのわりに上手く(討伐)出来ず恥ずかしいんですが」
「なん…だと……?」
「おつけちリヴァイ」
「おまえが落ち着け」

 セクハラ中の2人共落ち着けや。とモブリットは今にも言いたくて仕様がない。おっさん共と、いたいけな子供は会話が成り立っていない。全然成り立っていない。だが目の据わった人類最強と兵団最高権力者に挟まれたまま、もしかして答え方が悪かったのだろうかと不安げに、おろおろと狼狽している憐れな子羊、ではなく、エレンを見ながらも、けれども生き急ぎたくはないモブリットは黙するのみだった。モブリットとて所詮は穢れた大人の1人。まだ死にたくないのである。
 仕切り直しと云わんばかりにエルヴィンがひとつ、大きな咳払いをした。

「失礼。落ち着けリヴァイ。そして私も落ち着こう。うん。エレンも落ち着いてくれ。大丈夫だ。ああ。エレン、きみの答えは何も、何ひとつとして間違ってなどいない。安心しなさい。それらは、きみが男として、兵士として、極々ふつうで真っ当で健康である証だ。では、気を取り直して質問を続けても良いかい?」
「はい」
「きみは、その込み上げる(性)衝動や昂りをどのように抑えている?(性的な意味で)」
「どのように…?」
「ああ。おまえにだって好みはあんだろ、エレン(プレイ的な意味で)」
「ええと…たぶん俺は(兵士として巨人討伐に命を賭して戦い続けるのみなので)まったくふつうだろうと、思いますが……あの…?」
「…そうか。ふつうか。そうだろうとも。リヴァイ、どうやら勝利の女神は私に微笑んだようだよ」
「…馬鹿言え。こいつの言う『ふつう』がおまえの言う『ふつう』と同じかどうかなんざ、わからねえじゃねえか。もっと直接的な言質を取るべきだろう。まどろっこしいんだよ。何のために本人呼びつけたんだ」
「負け惜しみか、リヴァイ」
「俺は作戦において全面的におまえの判断に従うが、こればかりは譲らねえ。絶対に俺が正しいからだ」
「……?」
「それ程までに納得がいかないというならば仕方あるまい。エレン、答え難いことだろうが、隠さずに教えて欲しい」
「はい」
「きみは成長途中とはいえ周りの同期兵士たちに比べ随分細いね?」
「は、い…、そうですね……情けない話ですが体質的なもののようで。調査兵団の皆さんと同じメニューの訓練をこなしたあとでも自主的に鍛えているんですけど…全然兵士らしい躰にならなくて結構真面目にコンプレックスを感じています。……やっぱりこんな未熟な躰のままでは俺は(兵士として)失格でしょうか?」
「いやいやいや合格だ合格に決まっているだろう寧ろ失格である筈がないじゃないかエレン。私は、きみの細腰を引き寄せて啄むようにバードキスから始めて、その未発達な全身を隅から隅まで優しく愛撫しとろとろに蕩かして漸く至る想像を鮮明にするわけだが、リヴァイはきみのことを“あいつはどちらかと言えば多少、雑で乱暴な程度に痛いほうが好きに決まっている”と言って憚らない。とんだ思い込みだ。きみは先程、自身をふつうだと言ったね。ふつうは痛いほうが悦いなんてそんなわけないだろうバーカと、この勘違い鬼畜兵士長にキッパリ言ってやってくれ」
「ちょっと待ってくださいよ! 巨人に痛覚と快楽があるんですか!?(キッパリ)」
「えっ」
「えっ」
「えっ」

 何の話??? ――瞠目した3人は鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしていた。
 モブリットは残念な上司たちに深い溜息を吐きそうになりながら何とか呑み込む。だから、会話噛み合ってないんだってば、おっさん共。いや私もおっさんですけれども。

「…………エレン? きみはエレンだね?」
「はい。俺はエレン・イェーガーです」

 そこからかよ、というアレであった。

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