「こら、リヴァイ。またおまえは……いい加減、その強すぎる独占欲を何とかしなければ次の会議でハンジと手を組んで『エレン独占禁止法』の提案を検討するよ」
「え、あ、あの…? どく…何ですか? ハンジさんがどうかしたんですか?」
「チ、…仕方ねえな。メガネは今どうでもいい、エレンよ、俺とエルヴィンの間に座れ」
「ふあッ!? なななななんでですか」
「うるせえ。文句はエルヴィンに言え」
「えええぇぇええええ?」
「ははは。別に私は私の左側に座ってくれれば構わないのだけれど、というかそのほうが嬉しいのだけれど、そうするとリヴァイが暴れる畏れがあるのでね。仕方ない。さァおいで」
「なにそれこわい」
「ぐずぐすしてんじゃねえ。早くしろ」

 生まれたての子羊の鳴き声の如く震えた小さな呟きは、低い、地を這うようなリヴァイの声に掻き消され、エレンは相当不安げにモブリットのほうを一瞥したがモブリットがどうこう出来る状況では既にない。彼は心中深く懺悔した。すまない、きみを救えそうにない私をどうか許してくれ後でお菓子あげるから。

「…えっと、で、では、し、失礼します……?」

 エレンは残念ながら聡い子供ではないがその分本能的に、予期せぬ状況への順応性に長けていた。ここはとりあえず座らなければなるまいと判断したようだ。だが見るからに凄まじい構図である。決して広いとは言えない3〜4人掛けサイズの黒革のソファに、団長、新兵、兵士長、という順に座っている。リヴァイは片手にティカップを持ち脚を組んだいつものポーズで寛いでいるように座っていて、エルヴィンはややエレンのほうへ躰を傾けながら肘掛けに肘をついてやはり寛いでいるように座っているが、彼らの間に挟まれているエレンはたまったものではない。どうしようどうしよう何だ何が始まるんだと動揺をありありと乗せた顔色で、背凭れに凭れ寛ぐどころか出来得る限りに浅く腰掛けやや俯きながらひたすら左右から注がれる視線に耐えている。これは最早いじめに近い。きっと誰が見ても『エレン可哀想』と言うだろう。例に漏れずモブリットも自分自身の胃痛よりずっとはらはらした気分でエレンを見ていた。といってもモブリットの位置からはエレンのつむじくらいしか見えないのだが。冷や汗混じりに沈黙している子供の姿はまるで蛇に睨まれた蛙である。エレン可哀想。

「なあ、エレンよ」
「はィいッ!?」

 僅かな沈黙を破ったリヴァイの呼び掛けにエレンの声は上擦った。それも当たり前である。

「てめえ…何ビクついてやがる。ふつうにしろ」
「すすすすすみませっ」
「ふつうにしろと言ってんだろうがオイ、舐めてんのかクソガキ。ああ?」

 いやふつうに考えて無理ですリヴァイ兵士長! モブリットはエレンと声なき叫びを共有していた。本人も望まぬうちになぜだか巨人化能力を得たエレンは、勿論何かと目の離せない新兵ではあるが、だがモブリットは班は違うとはいえ同じ志のもと、共に強大な敵と戦う調査兵団の仲間であると認識しており、ハンジの行う数々の実験にて助手を務めることで接する機会も多くそのおかげか、この子供が基本的にはとても素直で正直且つ人当たりも良く本来明朗快活であどけないことを知っている。こんな時世でなければきっと悪人や巨人への憎悪など、知らなくて良いことを知らずただ夢を追う無垢さを抱えたまま生きていけたろう。端的にいえば可愛らしい子供であるのだ。そんな少年を見殺しにするなど、真面目なモブリットにどうして出来ようか。しかし、どう助け船を出すべきか思案しようとも無力であるモブリットより余程迅速にエルヴィンが口を挟んだ。

「無闇に脅すものではないよ、リヴァイ。エレンが怯えてしまっているじゃないか」
「脅してねえ。勝手にビクビクしてやがるこいつが悪ィ」
「エレン、何も聞かされずに突然呼び出されて戸惑ってしまうのも致し方ないことかもしれないが、そんなに緊張しなくて良いんだよ。暫し今だけは階級など煩わしいものは忘れて肩の力を抜いてくれないかい。我々は断じてきみを罰したり害するために呼んだわけではないからね? そう、私とリヴァイは、ほんの参考までに少しだけ、きみの意見を聞かせて欲しいんだよ」
「俺の意見…ですか?」
「そうだ。俺とエルヴィンの主張があまりに正反対な上いつまでも平行線でな。結局、本人に話を聞くのが1番早く正確だろうという結論に至った」
「? あ、では、次の巨人化実験とかそういった…?」
「違えよ。てめえはハンジか」
「いやまァ巨人討伐ならまったく関係がないわけではないが…もっと重要なことだよ。エレン、きみにとっても、我々にとってもね」
「巨人討伐より重要なことなんてあるんですか…!? 調査兵団で!?」
「兵団は関係ねえ。俺と、エレンおまえの、2人の話だ。だがどう考えても俺が正しい」
「失礼ながら意味がわかりません兵長」
「そうだね。リヴァイの説明は完全に間違っている。エレン、きみと私の話だよ」
「申し訳ありませんが更に意味がわかりません団長」
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