舗道の脇の木の根元で、律が飛び跳ねているのが見えた。寒くてずっと足元だけを見て歩いていたのに、何となく顔を上げると、律が見えてしまった。多分、飛び跳ねることに夢中でこっちには気付いていない。まだ大分離れていて顔は見えないけれど、あんなおかしなやつは間違いなく律だ。深緑のコートに真っ赤なマフラーをぐるぐる巻きにして、手袋まで真っ赤で、おまえはクリスマスか。たったひとりで木の周りをぴょんぴょんぴょんぴょん跳ねている。そして不意に跳ねるのをやめたと思ったら、今度は妙な感じに足踏みを始めた。
 ──あいつはおかしい。
 あいつを前にすると途方に暮れてしまうのは、あれがツッコミ待ちじゃあないからだ。俺がたまたまここを通りかからなかったとしても、俺がこのまま何も言わずに引き返しても、律はきっと、あそこでぴょんぴょん跳ねているだろうし、満足するか飽きるまで、ぴょんぴょん跳ね続けるのだろう。   

 考えるだけで──うんざりする。

 こんな奴に声をかけずにいられない自分に、うんざりする。

「何してんだよ」
「伊織! 何してんの?」

 それはこっちのセリフだった。

「……帰り道」
「カノジョんち?」
「…うん」

 もこもこのマフラーに隠れて口元が見えないけれど、律はおそらく笑って、それからまた飛び跳ねだした。ぴょんぴょんぴょんぴょんしながら木の周りを小刻みに移動している。近くで見ていると更にうざい。

「なあ、何してんだ?」
「シモバシラ!」

 飛び跳ねながら何か叫んだから、こいつとうとう奇声あげやがったぞ、と思ったけれど、ああ霜柱って言ったのか、と、3秒後くらいに気が付いた。

「つぶしてんの!」

 つぶしてんのか。

 風はないのにひどく寒い。ポケットのなかの指先が痛い。

「もう陽も沈みだしてる。まだ帰んねえの」

 マフラーから見え隠れする鼻や頬を赤くして、律は跳ねるのをやめない。

「もうちょっとなんだよね」
「何が?」
「シモバシラ。見つけたら全部つぶすことにしてんの」
「…………いつから」
「んー? 学校終わってすぐ。帰り道」
「ひとりで帰ってきたのか?」
「だって一昨日から千秋、行方不明だし。多分今だって金持ちのハゲとセックスしてるんだろうし。伊織は、カノジョと帰ったし」

 今日は期末テストの初日で、だから学校は半ドンで、今は午後6時で、きっとこいつは何も飲み食いせずにここにいて、右上にはやたらに光る星がひとつ出ていて、地面の影はもう見えなくて、それなのにこいつは、俺がここにいても、やっぱり飛び跳ねることをやめない。

 何だってんだよ、これ。ふざけんじゃねえよ。
 何で、俺が泣きたい気分にならなきゃなんねえんだよ。
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