<概略>
エレン誕生日おめでとう小話/優しくて愛しい話を試みて撃沈/




   

 俺がグラスを目の高さまで持ち上げて、ゆらゆらと揺らすと、グラスの中の金色の液体がたぷん、とぷん、と、波打つ。きらきら光って、まるで物語に出てくる魔法の飲み物みたいだと思う。

「ねえ、兵長。覚えていますか。兵長が俺の瞳の色を好いていると仰ったときのこと。俺の目玉が金色だから、見ているものも金色に見えているのかって、言ったこと。俺は至極真っ当に、見えてませんよって答えて、じゃあ兵長は深海のように景色が見えているんですかって尋ねたら、そんなわけねえだろ馬鹿って俺に、言って、」

 蹴られたっけ。
 そしたら、兵長に横から手のなかのグラスを奪い取られた。グラスのふちにそっとくちびるをくっつけて、こくりとそのなかの液体を飲む兵長はとても色っぽい。くちびるの端からひとつ、金色の雫がこぼれて顎を伝う様子にも、何でだろうか、最高に──どきどきする。兵長が口許をぐい、と拭って、中身が2センチくらい減ったグラスを押し付けてくる。受け取って、俺も兵長と同じように、グラスをかたむける。口のなかにとろりと流れ込んでくるそれを、いつも一瞬、冷たいと思う。でもそれはすぐにびりびりくる程の熱に変わり、喉とその奥を焼きながら、真っ直ぐに胃に落ちていく。腹から広がった熱で躰全体がぼうっと熱くなって、風邪でも引いたときのように、頭の芯がぐらりと痺れる。意味も無く顔が笑っちゃって、ぐんにゃりと歪む空気のなか、兵長に促されるままにキスをする。

「つまらねえことばかり覚えてんじゃねえよ、ガキ」

 口のなかに残っている熱と兵長の唾液が混ざりあうと、くらくらする程に甘ったるい味になるのだということを俺は発見して、得意になって笑って抱き合う。
 そして耳に寄せられたぎりぎりのところで、愛を囁くかの如く、ありがとう、と言われた。おめでとう、では無くこれは生まれてきてくれてありがとう、のありがとうだ。
 こんなとき、だ。こんなとき俺の目には、世界は金色に見える。
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