<概略>
現パロ/教師×生徒/殺伐/
ただやってるだけ(ですがエロい描写一切無しですすみません)。ひとりじめマイヒーローを観ながらやはり教師×生徒は良いなあと思って勢いで書いた。後悔はしていません。






   

 どうしようともハッピーエンドには成り得ない愛と云うものは、有る。例えば身分違いの恋、例えば敵国同士の恋、例えば既に他の誰かの恋人を寝とるとか。例えば倫理に反した恋と云う名の不倫とか。例えば年齢差があまりにも離れ過ぎているとか。例えば──現職の教師とその生徒、且つ、男同士、とか。そういうなかなかにおおっぴらには出来ないもの。弧は悠久を裁断し欠片をぽろぽろと零してゆく。
 浅いところからひと息に、前立腺をも巻き込むようにして、再奥の壁の向こう側、直腸にまで届く動き。その都度、霧散しそうになる意識を何とか手繰り寄せて、俺にのしかかっている大人の、見目だけでは解らないほんとうはがっしりとした筋肉を纏うその肩に、思わず爪を食い込ませる。しかし奥まで挿れ込まれている状態で更に腰を押しつけられ、無駄な努力は無駄らしくも虚しく、俺の意識は散り散りになり、湿り気を帯びた空気に溶けていった。反射的に逃げようとする躰を追い掛けておおきな手が俺を抱き締めている。何を口走っているかも理解らない、ただ肉のぶつかり合う部分からせり上がって来るおおきな波が、声となって漏れるだけだ。あァ、俺は今呑み込まれているのだ。強大な波に。そう感じて、額を先生の僅か汗ばんだ首筋に、擦りつけた瞬間、逞しい腕が背中に回されそのまま抱き起こされた。束の間の浮遊感。俺を乗せたまま曲がった脚を伸ばそうと、先生が動く度に、ふたりの繋ぎ目がぐちゅりと音を立ててまた深まる。俺の意に反して、俺の背骨が撓ったが、先程の刺激に比べれば許容範囲内だ。息の乱れが落ち着き始め、室内に散った意識が段々と戻って来る。いつの間にかひやりと冷たい真っ直ぐな黒髪の頭を掻き抱くようにしていた両腕を解き、そんな俺を見るなり、は、とちいさな息をついたその唇にひとつキスした。まったくもって忌々しいことこの上ない。もう少しで達けたのにとか、そればかり思う自分も、それを全部お見通しのネイビーブルーに俺を映し律動をやめる先生も。

「もう…っ、達かせてくださいよ……おれ、リヴァイ先生のせいで遅漏になりそうです」
「あ? 何言ってやがる。おまえ、焦らされるの好きだろう? なァ、エレンよ」

 俺は肯定も否定もせず、したり顔の頬をに片手をそっと当ててそっぽを向く。実際言われた通り、今のようにじりじりと燻ぶる熱を若干持て余すセックスも大好きなのだが絶対に言わないでおきたい。だってこの人をこれ以上調子に乗せるのなんて癪じゃあ無いか。でも俺なんかがそんなことを態々くちにしなくても、この人にはどうせ何もかもバレバレなんだろうなァ、とも思うけれど。

「──あ…、雨」

 今朝方から曇っていたのが、俺たちが裸でもみくちゃになっている間に降り出したらしい。カーテンの隙間から、横殴りの雫が窓を叩き伝い、バルコニーのコンクリートを濡らしているのが見える。その手前には以前殺風景すぎるこの部屋にせめてもの彩りをと、俺がホームセンターで適当に見繕って持ってきた何の種類かもわからない植物が慎ましく据えてある。瑞々しい緑を保った葉。土には栄養剤まで刺されている。甲斐甲斐しく鉢植えの世話をする暇があったらもっと冷蔵庫の中身を充実させるべきだとは理解っちゃいるが、同時にリヴァイ先生の頭のなかを占めている俺の存在のおおきさを靜かに理解して、ぞくりとする。暗いところからやって来て帰る場所の無い帰り道。自分の影に追い越されながら、いつも思っていたこと。夕刻の西陽。読み掛けで放置した本。肩を竦めるようにして短く鼻で笑う貴方さえ、俺で無いものはみな美しいと。無意味に浮かんでは消える曖昧な言葉の羅列。病的なその繰り返し。いつまで待っても血が溢れてゆかないので、俺が先に俺を溢れてしまった。ここに来るまで至るまでに、どぶ川に落ちていた花。結び目のもつれた何か。交わらないで終わろうなんて愚行以外の何ものでも無い。
 外の風景に集中していたのを咎めるように、ざらついた舌が俺の胸の上を滑った。敏感な場所に軽く歯を立てられて、先程まで感じていた熱がぶり返す。呼応するように硬度を増したもので下から突き上げられる。そのタイミングに合わせて腰を落とせば、皮膚のぶつかる乾いた音と液体の混ざり合う湿った音が同時に響いた。馬鹿みたいに気持ち悦い。愛欲まみれの俺たちは、劣情を食んで生きる虫のようだった。互いの脚に絡め取られて抜け出すことも出来ない。再び背中をベッドに倒されて膝の裏側を持ち上げられる。挿入の角度が違うせいで生じる違和感すら快感でしか無くて、その逃しようの無い感覚に耐えようと手近にある腕をつかんだ。直ぐ目の前で揺れる長い前髪から、気持ち悦さそうに歪められた表情が垣間見える。今ここで最も価値あるものとは、先生の眉間に寄せられた皺と、長くは無いが密度の高い睫毛と、ブルネットより深い黒檀色の髪が揺れる、美しさだ。それがこの部屋を出て日常に入り込んでいくさまを恐れながら、やがて日常全体を覆い尽くすのを望んでいる。やまない雨は有るし、明けない夜だって有るのだ。価値が事象と事象の差異でしか無いのなら、俺とリヴァイ先生を支配している世間一般的な力の価値だって脆いものだろう? 命の惰性が証明されて、先生が触れたものだけ。先生が目をやったものだけ。何度でも履き違えたって俺は良いよ。そう思う。
 リヴァイ先生の背後にあるテーブルの上では、煩く点滅するケータイのライト。あの頃──俺が学校の、リヴァイ先生の授業でのテストにふた言、好きです、先生のお嫁さんになりたい、と書き続けていた頃──着信音が出るように設定されていたそれは、いつしかバイブレーションだけになり、今ではついにサイレントマナーになっている。電源を切らないのが先生なりの最後の未練なのかも知れない。未練。そう、未練だ。俺たちは今や行方不明者。リヴァイ先生の家のインターフォンは破壊されて、電話線は引っこ抜かれた。もしかしたら無断欠勤が過ぎて先生は解雇されてしまっているのかも知れないが、ここに居る限り確かめる術は無い。し、別にどうだって良い。そして施設育ちの俺は俺を心配する人間に心当たりが無いのだから問題は生じない。俺たちはほんとうに最低限の暮らし方で、出来得る限り外界(がいかい)との縁を切るほうを選んだのだ。誰にもさわれない巣の上空5センチで、蝶は蜘蛛を待ち焦がれているのだと先生は抑揚なく言った。リヴァイ先生の本心は知らないが、こうして俺と同じくしてくれているのは、咎めるどころか加速させているふしさえ有るのは、多分そういうことなのだと思う(思っていたい)。
 窓を叩きつける雨が弾けてまるで水玉模様みたいだ。今の俺たちにはこれくらいで丁度良いよ。どこまでも果てなく高く広い真っ青な空なんか勿体無くて似合わない。今日だって記憶に無い昨日がまたやって来て、1から順番に誘拐するのだ。クライマックスで起こる悲劇を、理解っていながら傍観している。いっそ待ち望んでさえいると云っても過言では無いだろう。水玉は隠蔽する。血だまりを、嫉妬を、未来を、現実を。そこには何も無いことを。
 居心地の好い箱のなかに居るような、外の世界と遮断されている一瞬一瞬だけが物質だ。目新しいことには1つも価値は無い。価値Aを凌駕していく価値B。真っ当な日々。引き篭り続けていく日々。安寧と平穏はある意味、極論的に謂えば悪事を模倣しているのだ。ゆっくりと崩壊していく、健全な日常の世界。いつか誰かに、何かに引き裂かれる瞬間まで、水玉に隠蔽されたこの部屋で、ただ只管に交わっていたいと思う俺たちを、きっと誰も、祝福しない。されたくもない。
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