<概略>
嘘つきで勇敢な少年の独白/切ない系(?)/
原作アルミンショックのときのものです。




   

 絶望の奥に有るから判る。逆ならばきっと目視など出来ないのだろう、ジジジ、光。再考する。僕は何度だって再考する。どうしてどうしてどうして、と、唇よりその両の瞼が瞬く度に零れ落ちる饒舌なきみの瞳。それはいつも僕を不安にさせる。きみの持つ疑問のすべてに明白な解答なんて無いよ。知らずにいるべきことだって有るのだ、と、云うこと。それをきみは知らない。だからそれは捜してはならない。きみが聡明だと認識している僕は、ばかだ。
 僕ら、のなかにミカサが居なかった幼い頃──正確には僕がまだ禁書の存在を知らずにいた頃だ──エレンはいつもつまらなそうに、寝転んだ川べりから空を睨んでいた。僕は尋ねる。ねえエレン、何してるの。別に何もしてねえよ、返ってくるものは如何にもうんざりした声で、目線も無い。アルミン、何で空は青いんだと思う? あくびが出そうな程単調なオルゴールが鳴っているように。さァ僕にもわからないよ。だよなァ、せめてどぎついショッキングピンクとかだったら面白いかも知れないのに。呟かれる独り言が僕を少しだけ寂しくさせた。明日なんか知らないみたいに、壁の向こう側どころか僕らは空の色さえ何にも知らなかった。知らずに生きていた。けれど僕は空が青いことについてはそれが正当だからだと思った。きみの頭上にあくまでも広がるものであるのならば、きっと青が1番似合うだろうから。土手に咲く満開の青い花、その花弁はおおきくて、手持ち無沙汰に僕はその花でつくった青い指輪、を、こっそりときみの指に引っ掛けてみたりした。きみの寝息。それは悪夢のさなかに響く、無色の灯火。足しても足しても愛がこぼれて、注いでも注いでも溢れ出ていた。何とも愚かな命の繰り返しに、飽きない筈が無いけれど、せめて血を分け合えたとしたら同じになれたかも知れなかった。目覚めたそのままに女々しいとでも言われるかと思っていたけれど、きれいだな、きみは青い花の指輪を青空に掲げて呟く。太陽さえ霞んで見えない錯覚に包まれる。非生産的。価値なんか無い。だけどきれいだとそれだけ思った。きみも、僕も、だ。

『いつか外の世界へ行こう!』

 あの日からエレンの瞳は輝いて、僕にとってのエレンはひどくうつくしい存在となった。あァきみの蜂蜜色の双眸は、こんなにも素敵なものだったんだね。それは僕をじっとしていられない程度にはそわそわと喜ばせ、同時、に、きみのその眩しいまでの笑みと眼差しが皮肉にも魂の底まで見せ付けた。そこには誰の影も映っておらず僕は僕の不在を思い知らされることとなった。けれど僕はそれでも良かったのだ。世界が見落としている、世界と云う名の鳥籠から逃げ出したい2人を。真実、世界のあらゆる部分を。僕らは故意に見落とそうとして。
 自分の命を掛けて。
 エレンの命がエレンだけのもので無いように──僕の命だってたぶん僕だけのものじゃあ無いように。いつか成れると信じていたのだ。きみが棄て易い何かへ。

「一緒に海に行くって約束しただろ」

 約束はやぶるために有るって常套句をエレンが知らなくて良かったと衷心より思う。

「僕がエレンにウソついたことあった?」

 ウソばかりつき過ぎてもう何がほんとうか曖昧な程。こんな台詞は嘘吐きしか口に出さないんだよ。僕は死ぬよ。きみも死ぬだろう。それがいつか、と云うその差、だけだって。解るだろ。無知な子供は清潔過ぎた。太陽さえ霞んで見えない錯覚に包まれ、る、ここよりもっと深い暗闇のなか、僕はもう1度、きみに逢いたい。それこそもう、疑念は要らないくらいには、確かだろう? 光はきみだ。僕らの夢を叶えて必ず海を見に行くことは最早きみの義務だよ、エレン。僕は最期の数秒に目を瞑る。そしてまた再考する。解答は変わらない──この絶望は永久に僕らを見放さないさ。例えきみが、僕を泣いても。
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