<概略>
現パロ/教師×生徒/梅雨/甘/相合傘/平和/
両片想いのファーストコンタクト。だといいなあ。



   

 偶々、駅前で遭遇し、偶々、進む方向が同じだったので、隣に並んで歩いている。遠目にその姿をエレンが見付けたときに、既に充分ずぶ濡れであったその躰に驚いて、それから、傘入れろイェーガー、とふつうに話し掛けられたことにエレンはまた驚いた。リヴァイはエレンの通う学校で教鞭を取ってはいるが、受け持ちの学年が違うので、まったく話したことも無いと云うわけでは無かったけれども、かと云って気軽に話をする程の接点は無い。ましてや安物のビニル傘を共有することなど想像したことさえ無かった。その上、リヴァイは極度の潔癖症であると校内ではまことしやかに言われている。ゆえにエレンは勝手にイメージをつくっていたのだ。こんな、爽やかさも愛らしさも無い男ふたりで、身を寄せ合いひとつのビニル傘を使うようなことをする筈も無い、潔癖な先生だと思っていた。事実リヴァイのそのオーラは普段のエレンの周囲には到底無いもので、隣を歩いている今も、まるで3センチ向こう側は違う世界のようだ。だが現実としては今ふたりはひとつの傘を使い、3センチ向こう側も同じ世界であるのだ。
 それにしても──それにしても、とエレンは思う。
 潔癖で有るだなぞ嘘のようにリヴァイの躰は随分濡れていた。真っ直ぐな黒髪からは水滴が滴り落ち、その高価そうな白いシャツは雨水に透け、それでも上品な影を伴っていたがやはり少し皺が寄り情けない。夏目前の雨の、じったりとした、粘り付くような湿気に不快だと云わんばかり彼の眉は寄せられていて、何だか、何だか──。
 会話の無いときにすることと言えば思考を働かせることくらいで、けれど未だいとけないエレンの脳はどこかずれた方向へと向かってしまったらしく、頭のなかでリヴァイは既にエレンの知るリヴァイでは無かった。おかしい。それだけは理解出来る。ぱらぱらと降る雨のなか、エレンは初めて『うつくしい』と云う意味を知る。それは決して漠然としたものでは無く、寧ろ、はっきりとした形と影を持つものだ。目に映るからこそうつくしいと思う。頭のなかで泳ぐ、その誰かとは重なるようで、重ならないようで、重なるようだ。エレンは傘の柄を持つ右手を少しずらし、わざとリヴァイの視界に入るようにし、て、ちらり、リヴァイを見る。と──リヴァイもエレンに対峙し、

「おまえも、左側だけびしょ濡れだな。あまりこっちを見るな。雄ガキのくせに、細い腰骨が透けてやがって何だか──何だか、」

 えろいんだよ。

 そんなことを言うので、あァまったく、それはこっちの台詞です、と。どうしようも無いことを思うのだった。

「…じゃあもうちょっと、近寄ってくれませんか」
「断る。おまえは俺を失職させる気か? エレン」
「……っっ」

 あまりにもすんなりと呆気なくファストネームを呼ばれ、呼気を詰まらせたエレンが、リヴァイに抗議するまでまだ時間が出来てしまった。
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