<概略>
巨人殲滅後/病み兵長が可哀想/強気エレンが可哀想/拉致監禁/暴力/束縛/





   

 まるでこの世のすべての光を集めたような、金色の奥、どうしようとその灯火が消えぬ深くておおきな目玉が大嫌いだった。ひょろりと薄く矮躯で、細い枝にも似た腕。少し力を入れれば簡単に、へし折れそうな細首や腰。殺そうと思えばいつでも殺せる。そんな体躯を纏うようになってしまった子供を縛り、昼夜どころか外の様子さえもわからない、地下室に繋ぎ閉じ込めたなら、どんな奴であろうともあっさりと、言うことを聞かせられると思っていた。その上毎日飽きず殴り付けては蹴り倒し、食事すらクソのように不味く貧相なものを日に1度だけ。そこまでされていれば初めは強気でいられた者も誰だってそのうち床にへばりつき、リヴァイの足許にて不様に転げて泣き喚きそして赦しを乞うに決まっている。それが例え元化け物であろうとも、殴り倒せば血を吐く。し、蹴り上げれば消化した汚物を吐く。これを不様と呼ばずに何と呼ぶ。屈辱に溺れるに違いない。恥ずべき状況に違いない。毎日、毎日、毎日だ。巨人化の術を失った化け物、に、成り下がった、エレン・イェーガーの腕を脚を踏みつけ、その尊厳を踏み躙る。形の良い頭だが振れば音でも聞こえてきそうな頭を蹴飛ばし、その自意識を否定する。現に今尚エレンは凄惨たる姿を無防備に曝し、リヴァイの足許にて不様に転がっている。だが、この元化け物はそこまでなのだ。リヴァイにはわけが理解らない。謝れ、と命じようが謝らない。謝りもう2度とそれ以外くちにするな、と脅そうが目も逸らさない。リヴァイの足許に汚物や血を不様に吐き散らかしておいて、しかし顔を上げ、見上げるのだ。嘗て人類最強と呼ばれた男を。あの大嫌いな目玉で。その蜂蜜のような金色の目玉で。奥の透度が図れない深い双眸に、窪みに埋まった小さな対象物の硝子玉に自分が写り込んでいる、それだけでリヴァイは無意識に、反射的に、ぞっとした。まばたきをするたったコンマ1秒のみ、遮断される時間を、自分が逃走しているようにさえ思える。深淵の光、水晶体の裏側まで自分が入り込んで、エレンの思考の裏にも表にも滲んでいると云うのが、あまりに恐ろしくまた、不快で、リヴァイはエレンを傷めつけずにいられない。白く、未だ幼さの残る顔の、頬を赤く、紫に腫れ上がるまで。殴る合間と合間に必ず、目が、合う。エレンは怯える素振りも見せぬ。もう、腕がもげようとも脚がもげようとも、生えてなぞ来ないのに。畜生クソッタレ、だからリヴァイはいつも胸底そんな呪詛を吐き棄てながら、一方的に、手錠と足枷に範囲を囚われ虚弱になった子供を、殴る殴る殴る。ぎらりと光る灯火が掠めて、ぞっとする。どうして。

「おい、」
「っ……かは、ッ、…んです、か」
「このままじゃあ死ぬぞ、エレンよ」
「…………まァ…そう、でしょう…ねえ……」
「助かりたくねえのか」
「ふ、ふふっ…」
「何が可笑しい」

 呼び掛けるリヴァイに、だって貴方が殺すくせにと細められた蜂蜜色は、無言で語る。

「エレン」

 どの道エレンは助からない。リヴァイに縋り付き助けを乞おうともだ。問題なのはここでふたりして、馬鹿馬鹿しいが『馬鹿では無い』と云うことだ。

「俺を。俺を──愛せ。“愛している”と言え」

 そして夢を棄てろ。海。炎の水。氷の大地。砂の雪原。地の果てまで続くどこか遠くを。

「俺は謝らないし、その命令には、従えません。だって、それを棄てたら、俺は、死んでいるのと同じですから」

 厳然として言い放つ、同時、リヴァイのこぶしが振り上げられる。だから。だからまた繰り返すのだ。毎日、毎日、毎日だ。リヴァイは覆らない事実に思う。不様なのは足許に這い蹲るエレンでは無く──俺だ、と。いつまで経とうと、幾ら暴力で捩じ伏せようとも、リヴァイはエレンに選ばれない。誰にも屈服しない化け物は、何れ程リヴァイの胸懐を体躯に叩き込まれても、無駄なのだ、リヴァイを独り、呆気なく置き去りにする。金色の奥、どうしようとその灯火が消えぬ深くておおきな目玉で嗤って。リヴァイを見ずに夢を見る。そうして、収斂する惨めさだけが、ふたりの狭間に充満している。揺るぎなき意志、譲らぬもの。選ばれることの無い現実。乗り越えることが決して出来ない、それだけが、不快で深い、エレンの選択した到達点、なのだと、死にたくなる程思い知る。声も言葉も失うとして、けれど何と多弁なる無意味さだ。
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