<概略>
巨人討伐後病みエレン誘い受け/蜥蜴の躾け方模索失敗/自傷行為・四肢切断・流血表現、グロ有り/自切と万能細胞≠異常治癒能力/殺伐/
頭のおかしな歪んだエレンにうんざり兵長、な、リヴァエレ。







     

 ただでさえ匂いの篭る地下に充満する、尋常では無い量の鉄臭さに、地下室へと繋がる扉にすらも近寄りたがる者が居なくなった。ので、自動的にそれはすべてリヴァイが担うこととなる。幾ら目附役であったと云えどこれは厄介極まりない──面倒臭いと云う意味で──とリヴァイは思う。巨人化に伴うようにエレンに与えられた類い稀なる再生能力の、それは化け物だと言われても致し方無い。巨人化時は自我を失えば奇少種とまったく遜色は無い。し、人間の姿をしているときでさえ自然治癒力はふつうの人間のそれと比べあまりにも逸脱し過ぎていた。傷痕ひとつ残さずに小さな切り傷や擦り傷などはたちどころに完治する。腕を失い脚を失いその都度回復してきた事実はいつしかエレンのこころを蝕んだ。予兆は初めからあったのだ。丁度審議所で、リヴァイが蹴り折った奥歯がすぐに生えてきたあの頃に。けれど誰もそれがどういうことなのかに気付かなかったのだ。エレンの1番近くに居た、リヴァイさえも。初めから誰も憂虞しなかったのだ。寧ろ闘いにおいてエレンのその回復能力はひどく便利だった。腕を切り落としても、脚を切り落としても、巨人の再生能力をもってすれば蜥蜴の尻尾のように生えてくる。そしてその便利さは闘いのなかでも実験のなかでも大いに役立った。癒着し爛れた顔面ですら、眠れば元通りのエレンの顔が出来上がる。だが、だからこそ誰も理解し得なかったのだ。巨人殲滅のあとの平和な世界で、エレンがどうなるのかを。最後の巨人を幽閉する──そこまでは最低の状況では無かった。
 だが。
 キャァァア! と平穏な夜空を劈くような悲鳴に、何事かと慌て地下まで下りてみれば、鉄格子の前で腰を抜かした新米兵士が震え後ずさりし、その傍らにはエレンへの食事が乗ったトレンチが引っ繰り返っており、エレンはと云えば、いつもと変わらぬ笑顔で『あ、兵長』と言う、そこは散々な有様であった。何しろエレンの腕は床に転がり落ちて、血飛沫が壁まで飛び散っていたのだから。どんなスプラッタだ。てめえは新兵にトラウマを植える気か、エレン。咎めたリヴァイにエレンはこてん、と首を傾げ不思議そうに言ったのだった。そのときにはもう既に、肩口からは蒸気が上がり、腕の再生が始まっていた。

『だって。俺の本物の腕が、どこにあるのか、わからなくて』

 その台詞にリヴァイは戦慄を覚えた。それ程までに、そこは異様な光景だった。取り敢えず新兵には上に戻るよう指示を出す。

『そこに転がっている腕は、確かについ数分前まで俺の躰に付いていた腕ですが、こうして切り落としてしまっても新しい腕が“蜥蜴みてえに”生えてきているじゃあ無いですか? だったら切り落としたほうの腕は誰の腕ですか、俺の腕ですか? そうなると俺にはいったい幾つ腕が有るんでしょう、ねえ兵長。兵長にはわかります?』

 無垢な子供の瞳で尋ねられて、自分たちはエレンの躾に失敗していたのだとリヴァイは漸く気が付いた。蜥蜴──あれは主に外敵から身を守るために“自切”を行うのだ。外敵に捕捉された際、肢や尾等の生命活動において主要ではない器官を切り離すことで逃避出来る可能性をつくり、個体そのものが捕食される確率を下げるためのものだ。そのため“自切”する器官は予め、“自切”が可能な“自切節“と云う節目から、或いは“自切面”でこそ切り離す事が可能である。即ち再生は“自切”したのちその断面に“万能細胞”が集結し再生する。ように出来ている。が、その際に骨までの再生などは成されないので、再生尾は完全なる“イミテーション”となる。そうして再生された“再生尾”はなかに骨は無く、代わりに軟骨により支えられている。
 エレンは蜥蜴では無い。つまり自切後に生える再生尾は、“イミテーションでは無い”のだ。それを自分は何と言った? ──不思議がるエレンの言う通り、“蜥蜴みてえに”と称したのだ。それがそもそもの間違いであったと気付きもせずに。

『エレン』
『はい?』

 誤った知識を1番最初に呑み込んだ子供はその修正が難しい。何れ程執拗に説明しても、理解しているのかいないのか、誰にも──エレン自身にさえも──判別し難い相貌で返事だけはする。結局そのあともエレンの“自切”は度々続いた。あるときなぞ内臓も再生するのかを直接確認したかったのだと、取り上げられたブレードの代用に食事用のナイフとフォークで自らの腹を掻っ捌き引き擦り出した腸の長さに驚いて、見回りに来たリヴァイへと嬉しげに、兵長兵長見てください! 何これすげえ! こんなのが躰のなかに入ってるなんて! と見せびらかしたことさえあった(無論、以降の食事にナイフとフォークが付くことは無くなった)。
 おまえ笑顔と寝顔だけは悪くねえな、間抜けで。と、リヴァイ班員として闘っていた頃から言われ続けたのでエレンはいつだって意識的に目一杯満面の笑みを浮かべてみせた。もうたくさんだ。リヴァイは痛む頭を抱えては、毎夜見廻りの最後にエレンを抱き締める。
 今日は生臭くない。とエレンのところへ行けば、

「……実験失敗です」

 珍しくしょげた声のエレンには片目が無かった。眼球の抉りだされた右目の窪みからは赤い血が滴り落ちてはいるが、早くも蒸気が上がり始めている。

「…………一応訊いてやる。何の実験だったんだ?」
「取り外した眼球から、俺の姿は見えるのかなァ…って。そしたら鏡要らずですし何かと便利な気がするでしょう? でも、駄目でした。取り外した途端、何も映さなくなって、」
「そりゃそうだろ。視神経が切れちまってんだから」
「ししんけい?」
「あァもう良い。この話は終わりだ」

 心底うんざりした顔をする、リヴァイの手のひらへとエレンは蜂蜜色の瞳をした眼球を置いた。

「……何のつもりだ」
「あげます。綺麗でしょ」
「要らん」
「兵長にじゃあ無いですよ。それはハンジさんに。以前巨人の実験中に“抉っちゃ駄目? 調べたいんだけど!”と仰っていらしたので」
「……あのクソメガネ」
「ハンジさんは好きですよ。探究心や欲望に忠実で、何しろうらおもてが無い。あ。だけどもう忘れちゃってるかも知れませんね。随分前のことですし。今更巨人の研究なんかする必要も無いですし……ふふ。平和になったらお払い箱ですね。俺も、兵長も」
「馬鹿言え。俺は忙しい」
「だったらどうしてこんなところにいらっしゃるんです? 壁も失くなったことですし、調査しに行かないんですか?」
「幾ら説明しようが命令しようが自傷行為をやめねえガキを置いてどこにも行けるか。馬鹿野郎」

 それは憐憫の類い、では、無く?
 ──エレンは目を細め、判り易く楽しそうに、呵呵と笑った。抉った筈の右目の窪みには、もう新たなる眼球が完成していた。

「あはは。ふうん、兵長はそんなに俺なんかを大切にしてくれてるんですね。そういうのってきっと、光栄に思うべきなんでしょうねえ? ふっ、く、」
「愉しそうで何よりだが、おまえ、逃げなくて良いのか? エレンよ」
「逃げる? 俺が、兵長からですか? どうして?」

 怒鳴る、殴る、蹴り倒す、叩っ斬る、削ぎ落とす、聞き流す、鼻で嗤う、呆れ返る、溜息をつく、完全に無視をする──手段は幾らでも在ったのに、総ての逃げ道を拒否し自ら棄てたのは、リヴァイのほうだった。エレンはいつだって、へらと笑っては従順な部下で在ることに気を付けていた。今引き返せばまだ、冗談だった、で済みますよ、俺はそれに驚いたふりでもして、冗談にして差し上げます。そう雄弁に語る蜂蜜色の瞳は生意気にも、リヴァイに逃げ道を与えようとしている。そして言うのだ、その双眸は。逃げもしない、兵長、あんたが悪い。と。
 蜥蜴の尻尾みたいだ。と、思った。

 ──どちらが?──

 誤解を承知で、正しく認識されることを放棄して、重ねていくものは何も言葉や傷だけでは無い。自分以外の者に手のなかを一切合切すべて曝し見せることは恐ろしく、また、難しいことだ。結晶のように青く光る夢は、零れたふりをして壊した。ただ躾に“失敗”したのだ。それこそ“イミテーション”の如く。それだけが瑕疵無き事実だったのだ。

「っ……あ、ぁあ、」

 散々リヴァイの指先で慣らされたエレンの内壁。とろとろになるまで念入りに指を突き動かされ、時間をかけてほぐされてゆくなか。エレンの躰に出来得る限り負担をかけぬよう、その仕草はただただ緩慢だった。アナルの肉がずるり、と擦れる。その感触すらも刺激として躰は受け取るのか、ずくずくと臍の下辺りから競り上がるような射精感。もう大丈夫ですから、と意に反し涙の膜が張った瞳を伏せれば、ぱたぱたと汗に混じって涙が伝う。それは決して痛みからくるものでは無かったが、エレンが懇願に近い嬌声と共にもっと、と強請るまでは、ゆるゆると断続的で緩やかな刺激をリヴァイの手は送り続けるだけなのだ。それがエレンにはほんとうにつらい。なぜなら痛みなど感じることの無い程にゆっくり、ゆっくりとやわらかくほぐされて、エレンがもうリヴァイを求めて切願するように縋り付き強請る頃になっても、また翌日にはそこは1度も男を受け入れたことの無いように、きつく締め付けて挿入を赦さぬ箇所は、幾度揺さ振られ、ぐちゃぐちゃにされようとも、どうせ翌日には無かったことになっている。丁度四肢を切断したときのように、腹をあけてみたときのように、目玉を抉り出した今日のように。エレンの躰は直ぐに元に戻ろうとする。ゆえに互いに快楽を得るには、前戯に無駄な程長々しい時間を要する。

「ふ、……んァ、っあ、あ、あ、……へいちょう、…っへいちょ、う…ッ」

 リヴァイの骨張った指が、何度も掻き出すようにエレンのなかを擦り上げる。肉壁をほぐすように、香油を用い、ぬるついた指が挿し入れをする度にくちくちと濡れた水音が漏れた。その音が地下中に反響し、エレンの頭はどうにかなった。この先に在る悦楽をそれこそ身を持って知っている躰が、リヴァイの侵入を拒むかの如くその指を押し出そうとしている。何度もアナルセックスをしたことがあるくせに、エレンの躰はいつまで経っても、慣らされることは無く、きつく孔を閉ざしていた。開いた脚の間から、ずる、と云う指の動きに合わせ、エレンのなかが収縮を繰り返す。識っている。この躰は疾うに理解っているのだ。どうすれば力が抜けるか。どうすれば快楽を追えるかを。理解っているのに、エレンの躰はそれらすべてを初めてのことだと変換してしまうので、例えつい昨夜蕩けてしまいそうな程に尻孔でリヴァイのペニスを咥え込んでいても、また始めからやり直さねばならぬ。こんな面倒な子供を相手にせずともリヴァイならば引く手数多であろうに、なぜこんなにも優しく、丁寧に、抱いてくれるのかがエレンにはよく理解らない。

「ん、…は、っ……んんっう、へいちょう…へい、ちょう……ぁ、……へいちょう」
「阿呆みてえに何度も呼ぶな」

 前立腺を抉るように刺激され、腹に反り返る程に熱くかたく上を向くエレンのペニスは、尿道口から絶え間無く先走りを溢れさせていた。まるで既に1度吐精したかのように、淫靡にも、濡れそぼっている。エレンは呼吸を整えるかの如く無理に深く息を吐き、吸ってみる。普段であれば当たり前に出来ることが伽にてはひどく難しい。無意識的、縋るようにリヴァイのシャツを引っ張れば、息ひとつ、着衣に皴ひとつ乱れの無かったそこへくしゃり、と皴が寄る。そしてリヴァイはそれを咎めない。ばかりか、崩れた身なりを直しもせず、エレンの尻孔におさめている指をくるりと回し引っ掻いた。

「っ、…は、ぁ、……もう、挿れてくだ、さいよ…っ」
「まだだ。指2本分しか空いてねえ」

 裂けるだろうが、とリヴァイは言うが、エレンからすれば裂けたところでどうせ直ぐに治るのだ。そんなことを気にされるほうがおかしかった。ぱた、ぱた、た。滲み出た汗が額を伝う。寒々しく乾燥した地下室であるのに、エレンの手のひらが握り込んでいるシャツは、湿り気を帯びていた。丹念を通り越し辟易する程ほぐされている後孔はもっと奥深く、もっと質量を求めて蠢く。いい加減欲しくて仕方が無いと伝えているのに。頭の隅から爪先まで熱がまわって、互い、発火しそうな程に、只管、熱くなっていく一方だった。

「ぅ、っく…ぁ、ああっ」

 エレンの後孔で縦横無尽に動きまわるリヴァイの指は未だ2本だ。尻から零れた香油が、太股からシーツに漏れ落ちる。あられもなく水溜りをつくったシーツは予予に濡れており、眠る前にシーツを取り変えなければならぬだろう程度には冷えていた。ぎゅっと握り締めた子供の指先を窘めるようにリヴァイの片手が掴む。触れた箇所が熱く、て、堪らずに、まるでそこから溶けてしまいそうだ。

「ぁ、ふ、…っう、ぅううっはやく、はやく…っ」
「そうがっつくんじゃねえよ、腹ァ空かせて駄々捏ねてる幼児かおまえは」
「どー…せ、ガキです、よっ……」

 ついでに腹は空いている。甘やかな優しさがこれでもかと痛い。喰い縛った奥歯の隙、くちびるの端から逆らうが、声を漏らさんと己の指に噛み付きそうになれば巨人化の可能性を危惧するおおきな手が、それを制する。

「っ……へい、ちょうっ…! あっ…、も、」
「もう? 何だ」
「いや、だ! ああっ!」
「は、」

 幼さと大人への成長とをふわふわと行き交う発展途上の躰をくねらせ、エレンは脚をおおきく開き、自らの指を1本その中心を貫くように捻じ入れた。その様はあたかも色狂いで、リヴァイは溜息混じり、今にも吐精してしまいそうなエレンの、浅いところばかりを刺激してもう片手でペニスの先端を塞いでやる。まだひとつにも成っていないのだ。その前になぞ達かせてやらない。最早耐え難い刺激を受けているエレンに、絶妙な動きで吐精を赦さない。3本の指を呑み込んでいる孔に、殆ど啜り泣いているような状態のエレンは生殺しを強いられている。

「へいちょ、うっ…! は、はぁ…っ、く、ン……っ、はや、くっ、くださ、い…よっ」
「我慢するどころか、もうちょっと色気のある誘い方は出来ねえのか。いつまで経っても堪え性のねえ」
「あっ、ああ!」

 エレンはとても無防備に、くちのなかを見せる。それは落とされた証拠品だ。夜は決して長く無い。もしもエレンがこんな躰でなど無ければ、毎回こんなにも無駄な時間を前戯に費やさずに済んだろう。エレンはそう云う類いの申し訳なさをリヴァイへと隠しきれずに、それでもこの先を熟知している躰が疼いて、疼いて、にも拘らず今直ぐ挿入されてしまえばリヴァイの言う通り裂傷が出来てしまうこの躰に、あらゆる思いが複雑に絡みつつ溢れてしまいそうになる。エレンの言い分としては、裂傷如き直ぐにでも治るのだからどうでも良い。だがリヴァイは、無理をさせたとエレンの躰に要らぬ気遣いをするのだ。そのことに、エレンはどう表現すれば良いのかすら判らない、どうしようもない気持ちになる。

「く、っ……ふ、ぅうっ、」

 絶え間無く動く指の抜き差しに合わせ、ぐちゃぐちゃと濁音を含んだ音が鳴る。反射するものは何だ。それは夜、この白昼のような夜をずっと。鳴りやまない。鳴りやまない耳鳴りは何。それはいつか死ぬということ、愛する者に死んでしまえと唾を吐きかけ踵を返すことだ。

「ぃ、あ゙、ぁあっ!」
「こら、てめえ…自分で裂こうとするな」
「へいちょ、うがっ……まどろっこしい、の、がっ、悪い、ん…ですよ……っ! ふ、っく、…痛っ…!」

 入口を掻いた指先に僅かな血が滲む。エレンの肢体が跳ねる都度、同時にびくびく、と陰茎が脈打ち血管が浮き出ては見目にさえ痛い程に張り詰めていた。

「俺のせいにするな。不愉快極まりねえ」
「へいちょうの、せいで、しょうがっ…あんたが優しくするから…!」
「ああ? 優しく抱いて文句言われるたァおかしな話だな。……まァ良い、くれてやるよ」

 リヴァイは呆れた様子で孔から指先を引き抜くと、自身の前を寛げた。漸く、だ。エレンは起き上がるか早いか、リヴァイのペニスに手を添え、竿を擦りながら教え込まれてきた通りにそれを躊躇無くくちに咥えしゃぶる。エレンのフェラチオは上手くも無いが然程下手糞でも無くなっている。歯が当たることは無く、口腔で包み込むように、全体を濡らすように舐めあげていく。

「んむ、んんぐっ」

 唾液が下品な音を立て、萎えていたリヴァイのペニスは徐々に勃ち上がってゆき、やっと、挿入出来る準備が整う。その間もエレンの孔はひくついており、はやく、はやく、と急いている。

「勃ったか?」
「んんっ…ぷは、」

 酸欠でのぼせ上がったエレンの瞳は充分に蕩けていて、エレンは寝転がると膝を立て、引っ繰り返った蛙のように自ら脚を開き、膝裏に手を突っ込み下半身を上げる。

「はやく挿れて…ください」
「そうせっつかずとも、きっちり腹いっぱいにしてやるよ」

 ひたり。リヴァイのペニスがエレンの尻の割れ目を添うようにして触れた。互い息を飲むのがわかった。おおきく張った先端さえおさまってしまえば、あとはゆっくりと奥へと侵入を果たすだけだ。エレンは浅く呼吸を吐きながら、視線を上げ、普段ならば遠いリヴァイとひとつに繋がってゆく。そこまでくれば何だか別々に生きている個体と云うことのほうが誤りであるのでは無いかと思う程に、熱を持った結合部分は生々しく蕩けていた。リヴァイの動きに合わせ、時折逆らい、腰を振るエレンの痴態はぐちゅりぐちゅりと卑猥な音を伴い霞ん、で。

「ああっあ、あっあっあっ!」

 恍惚としたエレンの表情には誰の影も無い。それがリヴァイには忌々しく、だから敢えて言葉にさせる。

「今おまえを抱いてんのは誰だ。言ってみろエレン」
「んっ、はぁっ……へ、いちょう、……へいちょうです、たぶ、ん…っ、」
「たぶんじゃねえ」

 畜生。リヴァイは胸懐にて零した。エレンはきっと相手がリヴァイであろうと無かろうとどうでも良いのだ。空っぽの腹を埋め尽くすものが有るのであれば。その考えに達したときリヴァイは思い切り顔を顰めた。

「あっあっあ、気持ちい、へいちょうっ、きもちいい」
「こっち見ろエロガキ」
「ふぇ!? あ、っゃ、くすぐったい…!」

 リヴァイは手と舌で殊更エレンの輪郭を辿り、首、肩、腕、脇、胴体──と躰の隅々を確かめる。これはおまえの躰であるのだと、ただのひとつとして“イミテーション”のパーツは存在しないのだと、言い聞かせるような動きで這い回る手は、どうしようともやさしくて、エレンにはいつまでも伝わらない。

「はふ、ふっ…あ゙、あああっ……」
「締めるな。痛え」
「あっくっ…ひ、ぃあぁあ!」

 抽挿のリズムが速くなる。その度にエレンの嬌声は色めきを増して弾む。

「偽物の躰じゃこうはいかねえぞ」
「はっン、んんっぁっああぁあ! で、っるっ…! 出る! 出る……ッ! あっあっあっ、はっ…!」
「聞けよ」

 は、は、と荒い呼吸音と、絶頂を間近に控えた心音が煩い。それすら覆い隠すエレンの喘ぎ声をこの上無く近くで聞いて、リヴァイは塞き止めていたエレンのペニスから指を離した。

「ァ、あああああああっ…!」

 偽物では無い。“イミテーションでは無い”のだと。幾度言い聞かせようとも理解し得ない子供を抱いて、リヴァイは後悔をもしていた。躰でさえ覚えない。擽ったさと悦楽だけしか与えられぬことが途方も無く悔しかった。だがもう遅い。すべては最初から誤りであったのだ。蜥蜴と比喩したことも──こうして躰を繋げ合うことも──全部。全部が。

「あっあっあっ、ーっ!」

 けれど今更戻る道も無い。リヴァイはどうしようとも何処からとも無く湧き水の如し枯渇せず湧いて溢れ出す嫌悪感と憎悪を抱え、独り気持ち良く達するエレンの表情を淡つかに見遣る。同時、達せない。
 そうなのだ。リヴァイの愛撫はとてもとても優しくいっそ暴力的なまでに甘やかなものであるのに、痛みを感じる程締め付けられるエレンのなかでも別段悦くないわけでもないと云うのに、だ。その雄々しいペニスはいつだって直ぐに萎えようとする。即ちそれはリヴァイがエレンを抱きたくないからだろうとエレンもリヴァイも思っているのだが、こうしてまだ誤魔化していられるうちは誤魔化して、あやふやにしておきたい。暗黙の了解であるのだ。夢中の1歩手前で辞めておくと謂うこと。目的は愛情では無い。その振りですら無い。しかして未だ此処に生きているのだ。ふたりして恥も外聞も無く──性懲りも無く。だから命を鷲掴み、だから命を咀嚼する。終わることなど無いのだ。ゆえに始めを探しては、途方に暮れて囚われる。何も変わらないのにだ。今やエレンは道端の邪魔くさい小石だ。リヴァイが気紛れに蹴飛ばせば、勝手に転がり落ち岩肌で摩耗し砕け散る。何れ来たる消滅は避けられぬ。斬り裂く心臓も無く。握り合う手も、罵る客体も、押し殺す声まで持たない互いを、夜は靜かに見詰めている。

「へいちょう、」
「──何だ」
「俺ね、ちょっと考えてみたんです。その…兵長の腕なら、出来るんじゃ無いかって。確かめられるんじゃあ、無いかって」

 何を。とはリヴァイは問わなかった。馬鹿な愚者が考えることなぞ、愚かな考えと相場が決まっているからだ。黙って装備を腰に身なりを整える。エレンは矢張りへらと咲う。従順に。

「俺のうなじを避けて、頭部と体躯を斬り離したとして、さてどうなるんでしょうね? 俺がふたりになるんでしょうか。そうしたらそれってどちらが本物の俺で、どちらが“蜥蜴みてえ”な俺なんでしょう。それとも、その場合、ほんとうの俺は蒸発して2体共“蜥蜴みてえ”な俺ってことになるんでしょうか」
「……馬鹿が。そんなもん、態々試さずとも、うなじを残したほうが本体に決まってる」

 ならば体躯にうなじを残し頭だけを削ぎ落としてしまえば、新たなる頭部が出来上がり、それはエレン本人の脳やそこから派生する人格のみならず互いにとっても、今より幾分かましなものになるのかも知れない。

「ふふ。逃げなくて良いんですか? ねえ、兵長」
「逃げる? 俺が、おまえ如きから? なぜそう思う」

 結果。リヴァイの抜いた刃は、エレンの頭と躰を二分すべく振り下ろされるのか、否か。知りたいのはその先だ。その先に有るものが何であるのか、或いは何も存在しないのか。愛する者を持たぬ互いだ。唾を吐きかけ踵を返すことさえ赦されない。死んでしまえとすら言えない、この不毛さはいつ終わる。察して殺めてそうすれば終われるのであれば、話はもっとずっと、単純であっただろうにと。ベッドに座り口角を上げたまま僅かに笑む、エレンはそっと目を閉じている。リヴァイは握り締めた刃を高く翳す。喰い散らかす、としか呼べぬキスをして。体中の血液が沸騰する錯覚に心臓が爆ぜた。関係ないのだ。もう──関係なかったのだ。闘うべき相手が居ようが居まいが。関係ないのだ。エレン・イェーガーは、自分を大切にしない。そして鋭い切先がいずこかへと振り下ろされるとき。それは血飛沫と鉄の匂いのする地下室のなか。閉ざされた“イミテーション”の秘密。
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