<概略>
酷リヴァイと健気エレン/殺伐/
何にだってなってみせますよ貴方が居てくれるのなら。的なリヴァエレ。
(実は昔別ジャンルの二次CPで書いたもの。をせっせと思い出しながら焼き増しただけです)






   

 雨の虹色が見下ろす石畳。壊れた何かが棄てられている。跨いで地面に伸びる影が、俺のものより少しだけ薄い気がした。貴方が誰でも。俺が誰でも。変わらない世界の、それを優しさだと仮定しようか。
 しゃぶっている。取り敢えずしゃぶっている。顎が怠い。兵長のちんこの先端から滲んで、じわじわと舌の上に広がる先走りの苦みに俺は顔を顰めかけ、て、は、今日も何とか思いとどまる。だって俺のそんな表情を見たら兵長は絶対に揶揄してくるに決まっているのだ。だからこうして必死に耐えているのに、兵長の眼差しはこころの底まで侮蔑的で体温の無い優しさを見せつけるので、俺はどこへ行かないでも赦される。えへら、と態となるべくだらしの無い表情で、作りものの欣悦に尽くす俺がこんなにも一生懸命になっていると云うのに、俺の機微なんてお見通しの兵長は目敏く、無慈悲にも、案の定くちを開いた。それもどうかと思わざるを得ない台詞で。

「おまえはほんとうにちんぽが好きだな、エレン」
「…………別に好きじゃ無いですけど」

 内鍵を掛けた執務室のソファに浅く腰掛けて、床に座る俺を見下ろしながら──否、見下しながら、呆れきった声音でそんなことを言われ、て。俺は思わずぽかん、と馬鹿面を晒してしまった。何言ってんだろう、この人。俺にしゃぶれと命じたのは確かにこの人のほうで、俺を侮辱しながらも吐き出される溜息には快感も含まれているくせに。俺は間抜けにも上目遣いのまま兵長の顔を覗う、が、その小造りで端正な顔にはよく理解らない余裕の笑みが浮かんでいて、腹を立てるより何より、ここは元気良く、或いは発情期の動物宜しく涎でも垂らし『はい! ちんぽ大好きです!』とでも言わなければならなかったのかも知れない、と思った。最善の対応が何なんだか俺には判らない。なぜなら兵長にとって俺との行為はカレンダーのなかで云うなら祝日みたいなもので、たまに訪れてはそれなりに何でも出来て嬉しくなるとかみたいな、そういうわけなのだから兵長がそういう気になったときに俺が合わせるほうが合理的だった。と、云うのはただの俺の言い訳で、単純に俺は、兵長に拒絶されるのが怖い。物凄く。ここで必要な項目は、どこへ行かないでも赦されると云うことだ。だから、と云うわけで、俺は非常に微妙な顔をして兵長と相対していた。

「美味えか?」

 そんなわけ有る筈が無いでしょうがもしかして阿呆なんですか? と俺が思うよりも前に、

「そんなわけねえよな」

 と──兵長は、は、と特有の笑い方で嗤って、でもそれから俺の前髪を掴んで軽く引き、亀頭にぎりぎり舌がふれるくらいの距離を強要する。そんなもの、こっちだって望むところなので、俺は意識して目を細めて舌を伸ばして、只管尿道口を舐め回してやった。おい、と息を漏らしつつ、兵長が言う。

「美味しいです、って言ってみろよ」
「……お、いひぃ、で、 す……っ、」
「は。クソ以下のド変態だな、おまえは」

 流石に俺も手を止めて睨み上げた。

「っ、言わせといて、」
「あァ? 考えてもみろよ。おまえは自分の立場を自覚したほうが良い。おまえは『あの』エレン・イェーガーなんだ。そんな天より高い人類の希望サマが、プライド折り曲げて、態々こうやって俺にやられに来てんだから、だったら折れるだけ折っちまいてえと思うのは、男として必然だろうが」

 1秒間だけ黙りこくったあと、俺はまた咥えて扱いて、熱心な作業を再開する。絆されるような要素はどこにも存在しない、と云うことなら愚かな俺だって重々解っている。し、わきまえてもいる。こんなことを思うのは馬鹿みたいだと。けれどどうしても俺のお幸せな脳味噌は、『おまえだからこそ、』みたいな副音声を捏造してくる。有りもしない妄想で寂しく補填する。

「野郎のちんぽなんざ咥えて、気持ち悪かァねえのか」
「……べつ、に。全然気持ち悪くなんか無いですし寧ろ気持ち悦いって言うか、超興奮するし俺そのうちしゃぶってるだけでイケるようになるかも知れないです」

 ちょっとくちを離し完全にヤケクソでそう唾棄した俺を、やっぱり余裕たっぷりな表情で見遣った兵長は、俺の言葉を最後までしっかり聞いてからいきなり俺の後頭部を掴むともう1度咥えさせた。

「ほう。なら、しゃぶったままおまえもイッてみせろよ。手ェ使うくらいは許可してやる」
「……っんく、……は、 ふっ、」

 そんな強引に押し込もうとしなくったって、俺はちゃんとやる、と、息苦しさのおかげで薄く涙の膜を目尻に張りながら考えたが、喉奥でごりごりと音がすると錯覚するくらい、深くまでちんこを押し込まれて、ぐりぐりと頭の後ろから首筋にかけて髪の毛ごと掻き混ぜられ、まァ俺から自主的にここまではやれないかもな、と考えを改める。と云うか、兵長が意図しているのは『やって貰う自分』では無く『やらせる自分』なのだ。俺は両手で自分のちんこを擦り上げながら、口先だけでどうにか兵長の先走りを嚥下する。派手に水音を立て、唇の端からだらだら唾液をこぼしながら喉で絞り上げて、頭を前後させ始めると兵長は満足したように手のひらを離して指先で俺の髪を梳いた。

「……っ、ちょ……ゔ」
「何か言ったか?」
「……あたま、なでてください」

 俺の言葉を聞き取ってから、あまり間を置かず兵長は指をさらりと俺の髪に通した。ゆっくり、殆ど慈しむような手付きで、肌が触れる。途端にびくっと躰を震わせ、激しく手を動かす俺に、兵長は面白がってでもいるみたいな声で尋ねる。

「ふ、たったこんなことだけで燃えるのかよ」
「……はむ、っア、……っんんっ」
「おまえは俺の手で扱かれているとでも思ってしてんのか?」

 結構、て云うか全然違う。思ったけれど、でも、もうこの人がそう考えているのならそれで良いんじゃないか、と投げやりに結論付けて、俺は返事はせずに自分のテンションを上げることに没頭した。出来得る限り口淫も疎かにならないように、とは心掛けたがうまくいったかどうかは疑問だ。兵長の体温。こんなに忘れてしまいたいのに、忘れられない程白々しい。貴方が勝手に俺を受け入れたのに。

「!? ふぎゃっ…!」

 きんたまに強烈な激痛を感じて俺は思わず変な悲鳴をあげる。兵長の足がぐりぐりと動き俺の大事な部分に責め苦を与えていた。もう要らなくなったおもちゃにそうするように。

「何だ『ふぎゃっ』てのは。もっと可愛く啼けよ」

 畜生。畜生畜生畜生。我慢して、からかう兵長を見詰めた。

「あ、……んむ、ん、っ く、うぁ……っ」

 それでも決してちんこは離さず昇りつめた俺の髪を軽く引いて、兵長は簡単にくちを引き剥がしてしまった。

「ふぁ、ア、あ……っ」

 こころもち上向かせて、俺のイキ顔をじろじろ眺めたあとで、

「すげえな…ほんとうにしゃぶったままで、タマ踏まれてもイケんのか」

 言って兵長はぽいと俺の髪を放す。それから、荒い息を無理矢理呑み込んでいる俺に薄い紙を2、3枚手渡し、俺が指を拭い終えたところを見計らってまた俺の唇の直ぐ傍、から、頬に掛けてちんこを擦り付けてくる。だから言われなくてもちゃんとやる。急かさないで欲しい。竿に手を添えて先端を咥えた俺の頭を撫でながら、兵長はゆったりした調子で言う。

「……ちっとも成長しやがらねえが、おまえのフェラチオが1番気持ち悦いのは、征服欲が満たされるからかも知れねえな」

 俺の脳味噌がこんなレベルだから、囁くような声でそんなことを言われてしまえば、手だのくちだのなんて幾らでも従順に頑張ってしまうのだ。これはもう、俺の意志とは関係無く。

「あんな陳腐な台詞で気合い入れてご奉仕してくれるんだからな。おまえは可愛い。なァおい、エレンよ」

 全部飲み干して小さく喘ぐ俺の腰に手を添えて、ソファに上げてくれながら、ほんとうにちょっとだけ嬉しそうに──と云うのは当然ながら俺のおめでたい脳味噌の幻想ってやつだ──そう言って兵長は俺の額に口付ける。ただ、これだけは幻想では無い。今日の兵長は確実に機嫌が良い。だからこのまま愉しい空気のなかで行為を終えてしまえば良いのだろうが、いや、しかし。4回程同じところを堂々巡りで逡巡してから、結局俺は、膝立ちで兵長の肩に両手を置き、さっきまでとは逆に兵長を見下ろすような体勢で、言った。

「……やっぱり、」
「何だ」
「野郎の唇は気持ち悪いですか」
「あ?」

 珍しく驚いたような、気抜けした兵長の唇に、俺は黙って自分の唇を近付ける。そこで意味を理解したらしい兵長が、ぐい、と顔の間に手のひらを立てた。

「待て」
「……別に今更気ィ遣わなくてもふつうに気持ち悪ィんだって言ってくれて良いんですよ? 傷付くな、なんて無責任なことを語られるのは御免被りたいところですけれど」
「いや、違う。あー…面倒臭えな、俺は『待て』と言ったろう。聞けよ。キス自体は気持ち悪いとは思っちゃいねえ。が、おまえに俺のものを飲ませておいて」
「…」
「飲ませたからこそと云うか…穢えじゃねえか」

 瞬間、世のなかの大体の男は女にフェラさせたがるくせに自分の精液をくちに含むのは死んでも嫌がるのだとか、兵長はよく俺に俺が汚したようなところは舐めて掃除させるんだけどなァだとか、いろいろなことが頭を駆け巡りはしたが、それをきちんと検討してみるより先に俺は部屋を出てシャワールームまで全速力で駆け行って喉に指を突っ込み、出てくるものが胃液になるまで全部吐いた。朝から何もくちにしていないので吐き辛い上苦しかったけれども。思いきり捻った蛇口から噴き出す水が、白く濁った吐瀉物を流していくのを見て沸き起こる想いだって無いわけじゃあ無かったが、今度はそれよりも兵長のところへ戻ることのほうが先決で。
 壊れることも穢れることも今更無いのに、俺は疾っくにそんなに正常では無いのに。憂えてばかりでまだ病めずにいるあたり、俺が兵長のおとなげなさを拒めない最後の動機だ。
 部屋に戻って、乱暴に腕を引かれ唇がふれた先から舌を入れられて、俺をひとつも気遣わないそのキスに、我を忘れて悦ぶ俺自身の性感について検討するのも全部後回しにすることにする。
 セックスの途中でふと兵長が言った。

「おまえ、俺以外の男にあんなことすんじゃねえぞ」
「? …………あんな……?」
「フェラチオさせておいてそのままじゃあキスもしてやらねえって云う、」
「……それは…まァふつうに、一般的な成人男性の感性なんじゃあ無いですかね」

 と俺は、挿れられて揺さぶられるのに夢中であんまり真面目に考えていなかったのだが、それを見透かしたように兵長は再度釘をさす。

「あんな健気なことをされてグラつかねえ野郎なんざ居るわけねえだろう」

 その言葉から呆けた頭の俺が考えたことはふたつで、ひとつは兵長を一瞬でもグラッとさせられたのであれば苦しい思いをしてゲロった甲斐もあったかな、と云うことで、もうひとつは、まァ、

「……兵長以外の男、って……」

 みなまで言わぬ俺に小さく口角を上げてから、兵長は続けた。どうせ笑顔を見せて貰えないのなら嘲笑で良い。声を立てて嘲って欲しい。

「だってエレン、おまえマゾヒストだろ」

 なぜにそうなる。

「……根拠の無い言い掛かりは、ちょっと、」
「根拠なんぞ幾らでも有るだろうが。酷い抱かれ方されたほうが嬉しいんだろう?」

 馬鹿にするような俺の声色にも、兵長は生真面目に応えた。ただしそれは、答え方が生真面目だったと云うだけであって、内容に関してはそうも言っていられない。喜ばなきゃならなかったのか、と俺は呆然と考える。

「……兵長って、やる気あったんですね」
「何がだ」

 ぽつりと言った俺の言葉が、兵長にはよく聞こえなかったようなので、言い直すことにした。仮に聞こえていたって、その言葉を説明することなんか、きっと俺には出来なかった。

「目隠しなんかされるくらいなら縛られるほうがまだましです」
「そうなのか」
「……そんで、気ィとか全然遣わない感じで、貴方の好きにして欲しい、ん、ですけど」

 そうして、今の台詞は後半のところだけが言いたかったのだと、気付かれませんようにと祈った。こんなくだらないことを切実に願うことが涙を誘うのだと、夢にも思っていないのだろう兵長を俺のほうへと引き寄せるために。それでいて──それだからこそ、こんな方法しか取れないのだ。幾つもくぐる愛を騙った礫。この人と出逢うまでは俺だって、そんな理由があるなんて知らなかった。兵長にとっての俺が、俺にとっての兵長では無い以上、俺がどうして泣きそうになっているのか見当もつかない兵長には非が無い。如何せん今はカレンダーで謂うところの祝日であって、別に兵長が俺を誘ってくれるのが年に法定15回と云うわけでは無いが俺にとっては気持ちそんなものであって、そして兵長にとって祝日と云うのはこれまで大抵何でも出来た嬉しい日なのだった。俺だって兵長には愉しい心持ちで祝日を過ごさせて貰いたかった。何せ、国民の祝日に関する法律で定められているわけでは無いのだから、兵長がやりたくないと思えば次が来るとは限らない。しかし、そう言えばこの人は俺に奉仕させるのが好みみたいなわけだから、今俺が兵長に言ったことは、もしやそれ以前の問題なのかと冷や汗をかき掛けて、ぼうっとしていた俺は、だから乱暴に押し倒されたことに、暫く気が付か無かった。

「……SMはあまり趣味じゃねえんだが」
「そんなの。俺も趣味じゃないですよ。ただ兵長のお好きにしたら良いでしょう」

 なるべくぞんざいに言う。無言になった兵長は、俺の視界を覆うことはせずに、俺の両手首を掴んでソファの肘置きに一纏めに縫い付けた。手酷く抱かれた。一切の抵抗を赦されなくて、あまり慣らされていない躰に兵長のちんこを突き込まれ、ぐちゃぐちゃになって萎えかけている俺の中心をも兵長に扱かれ、て、俺は何度も射精した。途中からは苦しくなってくる程だったけれど、でも兵長は、俺が訳も判らず謝りまくるようになるまで止めてくれなかった。俺がどうして泣いているんだか、この人には理解出来ないんだろうな、と思う。やっぱり兵長は若干勘違いしているようだったけれど、別にまァ構わないのだ。この人が俺に突っ込んでふれているならどうでも良かった。当然俺を抱く兵長にだってそんなこと理解らないに決まっている。でも兵長の肌と俺の肌が合わさるだけで、俺はもう気絶しそうなくらいに一杯一杯なのだ。不思議なことに。

「『以外』も何も俺以外とやってねえよ、とでも言いてえんだろ。エレン」
「……」
「だが俺は、今はおまえだけだ」

 控えめに言って、暫し俺はさっぱり意味が理解らなかった。

「……は…?」
「何だ、そのすげえ疑っている上に間抜けなツラは」
「そ…んなことは……疑ってませんけど。全然信じられないだけで」
「疑ってんじゃねえか」

 だって。だって今まで散々、と俺の顔に書いてあるのを見て取ったのか、兵長は態とらしくキスをしながら腰を振って、それから言い訳みたいなことを言い出す。

「貴族の娘は香油臭くてな。娼館の女を敢えて買う程、暇でもねえしモチベーションもねえし。それに比べておまえ相手なら気ィ使う必要もねえし、何でもさせられるし」
「……なんか地味に傷付きますねそれって」
「お互いさまだろ? おまえだって、俺のことを好きになっちまったから、仕方無く、形振り構わず俺のちんぽしゃぶるんだろう? ところで、そろそろイきそうなんだが、くちに出しても良いか?」
「態々訊くくせに何でもさせないともう抱いてさえくれなくなるんでしょう? 人類最強の憧れの人がここまで卑劣だなんて、想像してませんでしたよ。セックスするようになるまでは」
「そういうつもりで言ったんじゃねえんだがな」

 体内から引き抜かれながら、おまえもイケよ、と言われて、俺はまた自分で扱いてイキ顔晒しながら、くちを開けてどろどろとした精液を受け止める。先端を含まされたので全部吸いだしたあと、唇をきつく結んで半泣きになりながら飲み下していた。ら、潔癖気味のくせに兵長が俺の口端を汚す精液を拭ってくれた。実際──今までも、中出しされたことは無いし、終わったからと言って俺を放置して寝ることも無い。セックスの相手への、およそ気遣いらしい気遣いは一応されている。この人が唯一してくれないのは、積極的に俺をイかせてくれることだけで、別にバリタチのガチゲイでも何でも無い兵長にそれを求めるのはどう考えても行き過ぎだった。やっと飲み干して息を付いた俺の、唇をごしごし擦ってから兵長は軽くふれる程度のキスを落としてきた。それを思い切って振り払うと

「可愛くねえな」

 ク、と嗤われる。達した直後のろくでもない虚脱感に任せて、のろのろと身を起こしながら、俺はくちを開いた。

「兵長の言う『可愛い』の定義はよく解りませんが……ほんとうに俺が『可愛く』なったら、俺とかどうでも良くなるくせに」
「そういう勘だけは達者なんだな」
「大して高くもない俺のプライドなんか折っても楽しくないでしょ」

 兵長はぱちぱちと数回瞬きをしてから、ほんの少し肩をすくめた。

「……俺の性格を知ってやがるような言い草だな」
「馬鹿にしないでください変態」
「負けず嫌いなだけだ」

 言い返す前に、乱暴に肩を押されてまた押し倒される。

「兵長はそんなに──そんなに貴方は、俺を嫌いですか」
「それこそ『別に』だな。気に入ってもいねえ野郎相手に男の急所を咥えさせる程酔狂なことがあるか? ……ああ、まァでも、しかし未だ巨人の力を使いこなせねえおまえには殺意が湧くが。おまえのせいで俺の大事な部下がどれだけ犠牲になったか数えてみろよ」
「俺も貴方の部下ですけれど」
「当然だ。そうで無けりゃあ疾うに叩っ斬っている」

 やっぱり俺にはよく理解らない。きっとそれは俺の頭が良くないせいなだけじゃあ無い。クズみたいなガラクタが俺を構成している。巨人。奴らの駆逐。そのために未だ兵長も俺も生き長らえ、そのために致死量未満の血が流れ、そのために発狂未満の負荷がかかり、もういいじゃねえかと夢のなか、過去の自分自身にさえそう言われた。目的を全うしたら。いつか、明日にでも貴方に棄てられる耳の聴こえないペットになりたい。

「だが確かに、俺はおまえのことはよくも何も理解っちゃいねえんだ。そんな煽り方、矢張りマゾヒストなんじゃねえのか」
「だから。何でそうなるんですか」
「挑発されたら直ぐ意地になる奴に虐められてえんだろ」

 何だかくらりと眩暈がするようだった。そんなの。と、思う。そんなの、例えば兵長が俺を好きになってくれて、優しくして甘やかしてくれて、めちゃくちゃに愛してくれると云うなら。俺はプライドもつまらない意地も何もかもかなぐり捨てて幾らでも──兵長の好きなだけ『可愛い』生き物になってやれるだろう。だけどそうでなかったら、どうせ兵長は2度と俺にふれても来ない。ふれさせてもくれない。それを避けるためだけに何だって出来る程、俺は兵長を好きなのだと云うことが、然程俺を好きなわけでは無い兵長には、いつも、どうしようとも伝わらない。
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