<概略>
アルエレ/アルミン誕生日11月3日によせて/ちょい微エロ(特にエロくは無い)/
エレンはアルミンの言うことなら何でも聞く気がする。






   

 まったくもって空嘘的物語の如く。有り得ない程にそのへんの美少女に勝るとも劣らぬ愛らしい横顔であった。小さく華奢な肩幅から真っすぐにのびている細首、決して派手では無いがまるで無垢な少女のように薄く色付いた、絶妙な間隔でぷるりと揺れそうに見える唇、すっと通った鼻梁は高貴なる深窓の令嬢すら思わせる。金色の細く長い睫毛で飾られた大きな瞳は手元の文字列を熱心に追っている最中なので伏せ目がちであり、その長い睫毛が目の下に影をつくりだしている。影は瞬きの度に時折揺れてはアンニュイさを孕んだ色気をも醸し、余計に少年の性別を危うくする。純粋に集中しているその姿はその頭の良さのみならず、いっそ神々しささえ伺えるかのようで、隣に存る、というだけで如何に己が俗物的な生き物であるのかを実感してしまう程。それ程に、もしもこの世に天使が存在するとしたらきっとこのような姿なのだろうと納得せざるを得ないのだ。
 と。
 謂う、しか無いような。
 はてさてなにゆえ今更わかりきっている、毎年順調に誕生日を迎えようとも美少女然としている目の前の少年アルミン・アルレルトへの賛辞を、今や誰より長い付き合いながら殊更に述べているのか同少年エレン・イェーガー。答えはただの暇潰しである。幾度めになるのか最早わからぬ溜息をつきつき寂しげにそれでもアルミンの隣に寄り添いながらも、暇で暇で暇過ぎて困ったことにエレンには今、他にやることが無いのである。アルミンは禁書に限らず活字が好きだ。エレンの頭ではとてもよくわからないような小難しい本も、アルミンにかかれば子供の絵本にさえ等しくなる。それは特にキャラクター作りの一環などでは無く、彼の部屋の本棚には手垢のついた古今東西あらゆる本がぎっしりと詰め込まれており、それらは持ち主により繰り返し繰り返し愛読されていた。その中でも特別彼が気に入っている某かの本が漸く貸し出しを開始されたらしく、図書館に寄り道し早速読もうとしたところ、それを邪魔するかのように(エレン本人にはまったくそんなつもりは無かったのだが)あァそうだ、アルミン、誕生日おめでとう。と毎年のことなのでエレンは何てことも無いようにあっさりと笑顔で口にし、そのあとで必ず、今年はプレゼント何が良い? と訊く。ずっと昔の、互いが幼いばかりの頃から続く恒例行事のひとつでもあるので、今年こそは趣向を――というか、ベクトルを変えてしまいたい、もっと強固で確実的なものへ、と、願いつつも未だ何も変えられぬアルミンは、にっこり微笑みながら、なぜエレンはこんなにも馬鹿みたいに可愛いんだろうか、と密かに彼にとっては当然のことを考えていた。プレゼント。誕生日プレゼント。そうだね、エレンが欲しいな、と。

「何だ? 今年も本?」

 本屋か図書館に行くなら付き合うけれど、と続けたエレンの唇を気付かれぬよう見詰めたアルミンは答えた。

「図書館はさっき行ってきたんだ。読みたかった本を借りられたよ」
「え、ああ、それ?」
「そう。あと僕は欲しい物は特に無い。だから暫く靜かに待っていて」
「ええー…? 待ってろ、って、何だよそれ。帰っちゃ駄目なのかよ」
「だあめ。とりあえず僕がこれを読み終えるまで、そこで良い子で、おとなしくしててね」
「は、……はァ?」

 意味もわからずにただ、何だろうかとエレンは懸命に考えている。そういうところもアルミンは好きではあるのだけれども。今年はもう、そんなものは要らない、正しくはアルミンは、最早それだけでは我慢ならない。というこれは事実だ。そりゃあ勿論、他にもいろいろと含むところはあるのだが、結論としては紛れも無くそれだけが真実なのだ。精神論になるが、別にひた隠しにしていたわけでも無いけれど、だからと言って積極的にアプローチを繰り返し続けてきたという程でも無い、アルミンの下心の存在ゆえに。退屈させることについては悪いことであるのかもしれないが、しかして、こうでもしなければ鈍いエレンには何も伝わらないだろう。し、何より、アルミンはエレンより背も低く非力なのである。だから力では決して敵わない。本気で拒絶された場合、立場としてはアルミンのほうが圧倒的に不利である筈なのだが、アルミンを少女のような儚い少年だと信じ込んでいるエレンはそのままおとなしくしている。

「好きだよ、エレン。愛してるよ。だからエレンはそれを確りと理解して、よくよく考えていて。僕がこの本を読み終えるまでにね。宿題だ」

 微笑んだ隣では、エレンが途方に暮れたような、どうすれば良いのかわからないという、ような、そのような顔で、黙り込む。おそらくアルミンの放った言葉の意図を計りかねているのだろう。そんなエレンの真っ直ぐさを斜め上より裏切りアルミンはひとり、本と仲良くしている有様である。すぐに読み終わってしまうからエレン、たいして時間に余裕は無いよ。その言い種。何と無く馬鹿にされた、とエレンは思うべきであったのだが何ら反発も湧かずに素直に頷く。いや別に誕生日といっても幼馴染みである。11月3日に限らず3月30日も、そこまで特別感のあるものでも無く四六時中共にいるべきとも言いかねる、その程度であり、エレンとしては、おめでとう、を言えたのでこうして待たされるくらいなら一旦日を改めても構わないような認識であるのだが。少年ふたりは当然ながら、断じて、付き合い始めたばかりの恋人同士というわけでも無く新婚夫婦というわけでも全然無い。だいたい同性同士で、幾度躰を繋ごうと形や名称などそんなものは存在しないとエレンは何と無く認識しているのだ。ゆえに甘やかにこの先ずっと変わらずにアルミンの云う愛について考え続ける理由らしき理由もエレンには無いのだが、幼馴染みながら(エレンが巨人化する重要人物と成ったせいで)同じ調査兵団に所属していても道をたがえ、居場所にも物理的な距離が出来てしまい、そう言えば最後にセックスをしたのは何れ程前のことだろう。とか何とか考えても仕方の無いことを考えていたら結果1時間が経過した。頭を使うことがあまり得意では無いエレンとしてはもういい加減我慢の限界である。するならする、しないならしない。どうでも良いので、どちらかにして欲しい。エレンはベッドの端に腰をかけ、うーん、と意味も無く唸りながら、本を読み進めるアルミンの肩を倒し、その上にのし掛かってみることにした。性行為の話である。が、

「まだ。ストップ。エレン。あともう少しで終わるから、まだおとなしく待ってて、」
「もう充分待った。待ちくたびれて俺は飽きた。しねえなら帰りたい。走り込みとか筋トレとか地下室の掃除とか、明日までにしときたいこと幾らでもあるし」

 仰向けに寝かせられながらも未だ本を手放す様子皆無であるアルミンにいっそ感動すら覚えるけれど、だがエレンもエレンで切実な問題を抱えているのである。ただでさえじっとしていることが苦手であるのに、と。

「エレン、やだ。待っていてってば。帰っちゃ駄目だよ」
「何でだよ」
「何ででも」
「わかった。なら俺は俺で勝手にやるから、おまえはそのまま本読んでていいよ」
「何それ。子供みたいだよ」

 それでも暢気に本を読み続けるアルミンのシャツの裾をぺろんと捲り、きめ細やかな肌の匂いを確かめるようにエレンはそのあたりを犬のようにクンクンと鼻で嗅いでから、べろり、と湿った舌で一舐めした。ほんとうに少女のそれのように筋肉のついていない細い躰がひくりと震える。淡い陰影をつくる小柄な躰のラインを舌で辿りながら肋骨に指を這わせ、邪魔な腕を上げさせて乳首に軽く吸い付いた。ちゅ、ちゅと音を立てそこばかりにキスをすると、流石に熱っぽい吐息がアルミンの唇から漏れ始める。その様子にエレンは、おまえも大概感じやすいよな、いつ見ても女みてえだし容姿満点な美少女と同レベルかそれ以上の可愛い顔して俺とおんなじちんこついてる男なんて詐欺だろ、と思うのだが後者は禁句でもあるため黙っておいた。もう片方にも舌先で愛撫を施しながら、すっかり充血してしまった自らの股間をアルミンの股間に押し付ける。こんな恥ずかしいことでも平気で出来る程度には、エレンはアルミンと躰を重ね慣れている。それもこれも、幼い頃から何もわからない無知なエレンにアルミンがひとつずつ教えたからだった。ゆえにエレンはつくづく性欲に弱いという成長の仕方をしてしまっていた。ミカサと出逢うよりまだ前の時点で、何てあまりに爛れた遊びを覚えたものだ。けれどもエレンもまたこのようにアルミンの躰をいじることを楽しんでもいるのであまりアルミンを責められない。そのつもりも無いが。そして意地でも本を読むと決めているアルミンは、エレンの指先により乳首をきゅ、と摘ままれようと、肌を震わせ非常に素直な反応を返しながらも、眉を顰めつつ頑張って文字列を追うことに集中しようとしている。その様子はやはり可愛らしいものだった。このままアルミンを一方的に追い上げて射精させてしまえればさぞ愉快であろう、と、出来得るものならばそうしてしまいたいところだが、エレンもそろそろ下衣を脱がなければ下着に染みをつくる羽目になってしまう。うん、めんどくさい。と思いながらエレンは自身の下衣に指をかける。と、そのあたりで頭上からパタンと本を閉じる音がした。やっと読み終えたか、とひとり言ちれば、まだ読めて無いよ、とわざと呆れた声と共に、細く白い、見慣れた腕が下に伸びてきた。

「ひ、ぅあっ……」
「……ね、そんなにセックスしたかったの? エレン」

 何の前触れも無くまだ脱いでもいないズボン越し、勃起したペニスをぞんざいに掴まれて、腰から快感が迸る。エレンの躰はそれを合図にしたかのように一気に力が抜けてしまいアルミンの胸に飛び込む形となった。濡れた部分が布に貼りつく嫌な感触がしてエレンは、こいつ、俺の状態わかっててやりやがった、と恨みがましく睨んでみせる。

「アル、ミン……っお、まえ、なあ!」
「まったく。ほんとうに、あとちょっとで読み終わるって言ったのに。ほんの少しも待っていられないの?」

 反転した躰。エレンは背中からベッドに沈み込む。その反動で尻が浮くと同時にとんだ早業で下を丸ごと脱がされていく。亀頭が下着の布地から剥がれ、ねとり、と糸を引いている。それを見たアルミンは鼻で笑う。その手際の良さ。先走り汁を零し上を向いているペニスに息を吹き掛けられたエレンは、もどかしく腰を揺らした。はやく、と先を促せば、アルミンの手がオイルを垂らした指で無遠慮に押し入る。前戯もせずにいきなりエレンの前立腺に圧迫がくわわり、目前がちかちか断続的な発光をするかのような錯覚に陥る。強過ぎる快楽に喘ぎ声すら出ず、エレンはただ水揚げされた魚のように口をぱくぱくと動かすだけだった。すぐさまイかされてしまうのかと思ったが、寸前で指を抜かれ、ホッと息をついたのも束の間、アルミンは自分の服を脱ぎ終わるとエレンの足首でわだかまっていた下衣と下着の塊を引っこ抜き、腰を掴んで引き寄せ太腿の上に乗せた。アルミンの熱く勃起したペニスがエレンのうしろに直接当たり、反射的に躰が強張る。しかしすぐに挿ってくると思われたものは孔のまわりぎりぎりに擦り付けられるばかりで、エレンは今更羞恥も無いがすべてを曝け出したまま衝撃を待ち侘び、接合される筈の部分に物欲しげな視線を送る外無かった。アルミンのペニスの亀頭が孔の淵を引っ掛けてから蟻の途渡りを行ったり来たりしている。あァもう早く、早く早く早く、奥まで隙間無く咥え込んでしまいたい。エレンは悶えるあまり腰を揺らしねだるように誘った。

「焦ら、っ…すなよ……、あぁっ…、いッ、もうっはやく! 挿れ、ろ…よ……ォ!」
「違うでしょ、エレン。命令出来る立場じゃあ無いでしょ。挿れて欲しいんなら相応のねだり方をしなくっちゃ」
「…っく、ぅ、」

 だらしなく粘液を垂らし続けるペニスをアルミンの指が弾く。エレンは、おまえだって俺に挿れたいくせに、くらい言ってやりたかったが、そんなふうにつまらない意地の張り合いをしている暇があったらさっさと突っ込まれてしまいたいので、アルミンが挿れやすいようにとひくつく孔を人差し指と中指でひろげ更に促す。アルミンの視線が面白そうにそこをなぞっていることが、まだ触れられていなくとも伝わりもどかしいったら無い。

「あ、あ、もっう、…っはやく、挿れてっ…! は、ぁあ……あ、…っ欲し、欲しいっ…」
「ふふ。エレンはエッチだね」

 アルミンは緩く前後しながらペニスの先端を埋めると、腹がエレンの尻にぶつかるまで一気に貫いた。内臓が無理矢理押し広げられる衝撃にまるで体中の毛穴が全部開くような感覚。未だ落ち着かないというのに間髪入れず激しく突かれ、エレンは思わずアルミンの腕を掴んだが、それは何ら一切抵抗にもならずに、挿れられれば躰の奥からざわついて下腹部に熱が溜まっていくばかりで、引き抜かれれば排泄行為を思わせる妙な快感が生まれる。嬌声を押し殺すなどそんな選択肢すらエレンには与えられない。本来の用途以外でアナルを使ってこれ程までに気持ち悦くなってしまっても良いのだろうか、と不意に脳裏を疑問がよぎるが、否、悪かろうと最早関係無いのだ。エレンの躰はそのように成長しているのだ。仕方が無い。

「あ、あぁぅっ、…あ、も、 っきもちい……っ、ふ、あぁあっ」
「まだだよ。僕はもっと楽しみたいんだから」
「んんっ…、あっ…は、ぁ、…さっきま、で、…読書に、集、中、し…てたのは、どこのどい、…つだよっ……」
「僕だね。でもまだ、イくには早いよ」
「ひぁっ、んっ…早漏扱、いっ……し、やが…っ、ぁああっ」
「そんなこと言って無いじゃない」
「い、っ……ァ、…てんだろ…っ、」

 かちん、ときて、エレンは抽送が止んだのを見計うと脚を振り上げた。が、いとも簡単に片手で防がれ押さえつけられてしまうだけであった。体格も、運動神経も、アルミンには何も劣らないエレンだが、先手を打つのはいつもアルミンのほうだった。

「ふふっ。ちょっと、ほんとうに足癖悪いよ。エレン」
「はふ、ゃ、あ、あ、っ…!」

 アルミンはエレンの足の指に噛みついてみせる。そのまま膝を持ち上げ美少女顔負けのその愛らしさが嘘のように人の悪そうな笑みを浮かべながら、エレンへと圧し掛かる。こんな、天使のような顔でサディスト気味だとか有り得ない、とエレンは内心思うけれども、実際にこうして有り得てしまっているのだ。否定も出来ない。

「ほら、僕のが欲しかったんだろう? だったらもっと集中してよ、ね? 気持ち悦いの、好きでしょエレン」
「あっぁ、あ、す、き、っ…ンン、すき……っきもちい、のっ…、あう、く、あぁっ」

 奥まで挿れていたペニスを少し抜かれ、丁度エレンの前立腺のあたりで小刻みに揺すられる。同時に先程から勃ち上がっている乳首も引っ掻かれ、エレンの躰がおおきく跳ねた。アルミンよりは体格も良いと云えども、所詮エレンの躰も未発達なものであり未だ成長中としても兵士にしては細過ぎる、ひょろ長いだけで骨格からして華奢過ぎる、とエルヴィンやリヴァイたち精鋭兵士たちからのみならず、正直もうひとりの幼馴染みである女子のミカサには無論、同期の誰と比べようとも彼らの足許にも及ばぬ躰。そんなエレンの躰を、外側だけで無く内側、どこもかしこも誰より深く何もかも識り尽くしていると云わんばかりのアルミンの指がそこを転がしては優しく撫で、尖らせた舌先で強く押し込むようにエレンの乳首を弄ぶ。されるがままに込み上げ枯渇しない快感の波に翻弄されて、単なる呼吸さえしづらい程の愉悦がエレンを襲う、それはずっと。初めから。ずっと。

「ん、っ…ぅんん、…あ、ぁあっ、あっ! ひぅ、うっ…、ア、ルミ、……そ、れっ、」
「なあに」
「それ、ばっか……っだ、めだ……っ! アァ、あっ…、やだ……ぃゃッあ、」
「全然、まったく少しも嫌そうに見えないし、何ら駄目じゃあ無さそうなんだけれど。ほんとう? エレン」
「ひ、あぁあっ、も、う、ッア、あぁ、ああぅっ……わけ、わかんなっ…、」
「うん。気持ち悦過ぎてわけがわからなくなっちゃうんだろ? 他のヒトじゃあ、こうはいかないよね」
「あっあっぁあっ…、ン、うっあ、あぁっ、ああ……ッ」

 アルミンの指摘通り気持ち悦過ぎるがゆえにわけもわからずいよいよエレンの瞳からは涙が零れる。それを待っていたかのようにまた最奥まで穿たれて。エレンはアルミンの手によって射精を妨害されながら、足の先まで張り詰めて頭が真っ白になっていく。きもちい、と、そこすき、と、舌ったらずな声で無意識に何度も何度も口走る。もっと、ほしい、と。そればかり。伸縮を繰り返している腸壁にて削がれる粘膜は淫靡な音を奏でてやまない。アルミンが小さく呻いたのを拾い上げたエレンの聴覚は、淫らな己の躰の音に浸り尽くす。

「はっ……エレン、」
「んぅうっ…んっく、あっ、…はぁ……っ」

 獣のように躰を四つん這いにして、うしろからアルミンのペニスが侵入してくる度にエレンは震えた。エレンよりずっと小柄で非力なアルミンの力任せなどたかが知れている筈なのに、その筈であるのに、直腸を抉られてこの上無い気持ちの悦さを感じる。腰骨が尻の肉に当たって派手な音を立てていた。肌に爪が食い込む感触すら堪らなく愛しかった。今度こそ絶頂が近いとエレンの躰が訴えている。

「ぃあ、あっ、あっ、イく、っくぅ……! あ、ぁ、イイ……もっぅ、…いやァ、だっ…イきた、い……っ!」
「いいよ、エレン。好きなだけ精液出して、僕に、見せて」
「あぁああっ……ふ、ぁっ……、んっんっあぁっ…!」

 吐精の瞬間まで激しく尻孔を抉り繰り返しながらペニスを扱き上げられ、躰が耐え切れないのでは無いかと心配になる程、強烈な刺激がそこからエレンの全身を駆け抜ける。直後にずるりと引き抜かれ、背中に熱い飛沫が流れた。耳元にかかる色めいた吐息はどこかざらついていて、そうしてどちらからとも無く首を捻ってまったく不自然な体勢で啄ばむようなキスをした。そこでエレンは漸くにして、今更ながら、今日は未だキスらしいキスをしていなかったことを思い出したのだった。


「――宿題は解けた?」

 そう言えばそういう話をしていたな、とエレンはぼんやりと考えながら、まばたいた。

「ん、…んんと、……何だっけ」
「僕らの愛について」
「あい……?」
「そう。エレンはどうして僕に抱かれるの?」
「? 気持ちいからだろ」
「それわりと最低な解答だからね? エレン」
「じゃあおまえはどうして俺を抱くんだよ」
「それもわりと最低な台詞だよ」

 何を言わせたいのか、何を言えば良いのか、まるきりわからない。と態々声になどしなくともエレンがそう思っていることくらいアルミンにはわかる。仕方あるまい。そうしたのは他の誰でも無く自分である。アルミンは小さく溜息を吐いた。

「あのね、エレン。僕は。ずっと、ずーっと、僕らが小さな頃から、きみを愛してきたしこれからだって愛しているよ。だからキスをして、深いキスをして、その先もして、きみに望まれたくもある」
「ん。うん」
「絶対わかってないでしょ」
「……いまいち」
「好きってことだよ」
「俺も好きだけど」
「幼馴染みとしてとか親友として、とかじゃあ無いよ。僕が居なくても生きていけそうなエレンじゃ嫌だ。僕じゃあ無い誰かを愛するエレンじゃ駄目なんだよ」
「ええー…と、?」

 首を傾げるばかりのエレンにアルミンはキスをする。アルミンはエレンのその幼い頃からの仕種を見るのがとても好きだったが、今は少し頂けない。愛だの何だの、気持ちを育むより先に躰を愛したことが敗因であろうことは聡明なアルミンには自覚があるが、けれどそうでもしていなければエレンは簡単にどこかへ行ってしまっただろうとも思う。アルミンなど置き去りにして。

「どんなに僕が愛していても、エレンには伝わらない」
「…そんなの、」
「あーうん、そうだねストップ。理解り合えもしないで堂々巡りになるのはエレンも理解ってるんだから。ていうかさ、そもそも僕は形のある誕生日プレゼントを要らないと言っただけであって何も要求しないなんて殊勝さは持ち合わせていないんだよ」
「は?」
「だからね。はい、言ってみて『アルミン、愛してるよ』って」

 あたかも恋人同士のように指を絡ませた手を繋ぐ。やわらかな黒髪をシーツに散らし、エレンは盛大に困り果てた表情でアルミンを見る。それだけであるならば実に悩ましくきれいであるとアルミンは溜息をつきたくもなる。アルミンが握り込んだエレンの手がまるで力の入っていない、無抵抗なものであるので尚更だ。実際のところエレンは、無意識的ではあるがアルミンに従うように出来ている。それがいつも最善策であると知っているのだ。そのほうが楽だからである。そしてそれは大抵にして正しいのだから余計にエレンは自身の不出来な頭に頼るよりアルミンに委ねるのだ。などと敢えて指摘するべきことでも無い。その上このような状態で追い込めばエレンは舌を噛み切りかねない。それが事実かどうかは別にしても、アルミンの前で、アルミンとふたりきりの状況で、エレンは自尊心だ何だというそんなつまらないものは平気で廃棄していて、勝ち気な性格がまざまざと滲む顔立ちに似合わずひどく脆い。

「ほら、言うだけで良いから」
「うーん…」
「何を躊躇する必要があるの」
「だ、って…、そんな、の……俺、わかってねえ、のに」
「なら、僕が待っていればエレンはいつか理解するの?」
「それは…どうだろう……なァ」

 ただ何も考えず言ってしまえば良いことを言い淀んで黙り込んでしまうエレンがあまりに優し過ぎるせいだ。アルミンはエレンの類い希とも云える程の盲目さが愛おしいあまり、いっそのこと蕩けた蜂蜜のように特徴的な彼の双眸が、他の何も他の誰も映さぬようブラインドで隠してしまいたくもあった。馬鹿だなあ、エレン、わかろうがわからなかろうがとりあえず口にしさえすれば、僕は勝手に満足するかもしれないのにさ。と、往々にしてアルミンは、エレンのその馬鹿正直とも呼べる真っ直ぐな気質を、時にはその存在自体すら――せせら笑う気持ちで全否定して、同時そんな純粋さが馬鹿のように愛おしく問答無用に全肯定しさえする。どう見てもエレンは無自覚であるから、アルミンの口八丁でエレンを丸め込み納得させることなどおそらく呼吸をするより簡単に出来るだろう。しかしてそれが簡単且つ単純だからこそ試してみたことは無い。アルミンからすればエレンという人間はあまりに優し過ぎるのだがエレンのそういうところは全部外に向いていて、無意識なエレンが優しくなればなる程に、エレン自身が苦悩しそのうち傷付く羽目になるのだ。まさに完璧と云える程、アルミンはエレンがエレン自身を知っている以上に知っていた。

「あのさ、エレン。これは僕の精一杯の優しさなんだよ?」

 アルミンはエレンの思考回路を手に取り宣言する。

「口先だけで良いよ。ただ『愛してる』を言ってみて、あとで恥ずかしさにのたうちまわるのならそれだけで済むし、」

 羞恥にのたうつ様を想像したのか瞬時深い皺の寄ったエレンの眉間を、繋いだ手を外しアルミンはそっと擦る。するとエレンは物凄くわかりやすくも、その顔をはっきりとしかめるがうんともすんとも言わず、解放された手もぴくりとも動かさぬままで力無く投げ出していた。そういうわけではまるで無いのに、アルミンは、アルミンを拒絶したくとも出来ずにいるエレンをいたぶっているかのような、サディスティックな気分になり苦笑する。エレンがどうであろうとも、残念ながらアルミンはエレンの精神に対してもその躰の成長過程で植え付けた刷り込みに似た性行為に対しても、罪悪感のようなものはただのひとつも感じてこなかった。

「もしくは、『愛してる』を言わずにいて、いつどちらが死んでもおかしくない現実のなか、後悔するか」
「……だから、わかんねえんだって、言ってる」

 どうしたらおまえのためになるのか、と、エレンは余所を向きながら呟き、アルミンと目を合わせない。自分のためでは無く意地悪く追い詰めに掛かるほうを尊重する、それが滑稽でありながらもエレンらしく、アルミンは別段何ら感じることは無かった。エレンは反抗的ではあるが、嫌で堪らないことをも例えばそうするしか無いときはそうするしか無いという理由だけで、必死の思いでやってきていた。そういうことが彼にはたくさんあるのだった。特に巨人化能力を得てからは尚更に、エレンの生き様の殆どすべてがそういうことなのだ。エレンにとって世界は常に、死んでしまうほうがずっと楽だろう程、ただひたすら生き難い。それすら利用していく上で愛だの愛だの、エレンを追い詰めているものが己である自覚がアルミンにはある。だがそのことにもやはり罪悪感など覚えない。けれど、それでも今この瞬間、これ以上いたたまれない思いをエレンだけにさせるのも少しばかり可哀想ではあるので、アルミンは肘をついたままエレンの顔を覗き込み、頬へと優しいキスをした。ともかくエレンは顔だけは向けられるように。セックスをしたあとでまだここにいるエレンは人類の希望などでは無くただのエレン・イェーガーなのだ。兵士ですら無くて良い。少なくともアルミンにとっては。寧ろそのほうが。
 そろそろと注意深く背中に伸びてくる腕を感じながらアルミンは考える。エレンにとってどのような世界ならば生きやすい世界となるのだろうか。或いは幼い子供の頃、共に壁の外などという未知の世界に夢を馳せるそれより前に、人里離れたどこか遠く、無理矢理でも何でも言いくるめエレンを拐い、幾重にも鍵を掛けた丈夫な宝箱のなか、自分以外の誰の目にも触れないよう厳重に監禁してしまうという選択を、どうしてしておかなかったのだろうか。その選択をしなかった、それが既にもう、この世界における初めのミスだ。アルミンは確信的にそう思わずにはいられない。

「アルミン、」

 年に1度しか無い誕生日であるのにアルミンが嬉しそうな表情をしないことを、愛していると言えないばかりか理解し得ないせいでかと、エレンはどんどん不安になっていく。そして不安のあまり、囁きよりも小さな声が名前を呼んだ。

「エレンはそんな顔しなくて、良いんだよ」

 もしも。
 アルミンがアルミン足る頭脳を持たず今より頭が悪い人間であったなら、またはもう少しだけでもエレンに優しく出来る人間であったなら、きっとエレンは今程も優しく傷付きやすい人間になど成らずに済んだに違いない。その程度のことくらいアルミンは子供の頃、初めてエレンにキスをしたとき既に予測出来ていた。けれども生憎どちらの変化も今更、起こり得る筈も無く、アルミンは心にも無い言葉を紡いでゆく。

「ごめんね、エレン(悪いなんてまったく思ったことは無いけれど)。僕がエレンを好きなんだよ(時々うんざりする程に嫌いな部分は勿論あるよ)。愛しているし、だから愛されたいなんて我儘を言う(我儘? 違うよ。エレンには僕をもっと愛する義務がある)。エレンはもう『おめでとう』って、言ってくれたのにね(誕生日の何がおめでたいのだろうか、どうだっていい日だ)。僕はそれでほんとうは満足してしまうべきなんだ(満足なんて出来る筈が無いよ)。だから、ね? そんな顔しないで(僕の前でだけそんな顔をしていてよ)。僕だって、エレンには笑っていて欲しいんだ(それより泣かせてしまいたいと思うよ)。エレンは笑ってくれていれば良い(馬鹿みたいな話をしているなあ)。僕に『愛してる』なんて、別に言わなくて良いんだよ(言えよ。僕だけを愛していると言って泣いて)。僕はエレンが生きていてくれて笑ってくれるだけで、幸せなんだよ(僕のためにだけ存在して僕のためにだけ死んで欲しい)。どんなプレゼントを貰うよりも(欲しい欲しい欲しい僕だけのエレン。今そこに存在するきみじゃあ無いよ)」

 ゆっくりと、穏やかな口調。けれどずらりと並べ立てた嘘に。エレンの表情があからさまな程安堵したようになっていくのをアルミンは見詰めていた。悔しい話ではあるのだが、現在のアルミンが、現在のエレンに、安定や安心のようなもの与えることが出来るのは最早こういうときだけ、つまりは虚言を並べるときだけなのだ。幸福からは程遠い。途方も無く。遠く、遠い。それでもこの選択をたがえた世界が一刻も早く終わるのであれば、エレンの生涯も少しはましなものになるのかもしれなかった。光や夢や愛などきれいな言葉で誤魔化して、煩悩と欲望により構築された世界の終わり。なるべく盛大に。それらは少年期の喪失と似ている気がする。あとには何も残らない。どうせなら光や夢や愛や欲望を握り締め、『傲慢』に生きる全人類を巻き添えにして。
 読み終える直前に綴じることになってしまい、アルミンはその本の続きのほうが気になって、どうにもすっきりとしない気分だった。なので、

「エレン。続き、読んで良い? 本の」

 と、訊けばアルミンのほうを向いたエレンの顔はとても眠そうにしており、アルミンは密やかに笑みを噛み殺す。

「そういえばどうでも良いんだけどさ、旧本部では誰としているの? リヴァイ兵士長……は、潔癖過ぎてアナルセックスなんか、しなさそうだけれど」
「んん……? うん、」

 本格的に微睡み始めているエレンを、エレンよりずっと小さな躰と細い腕が抱き込みながらそんなことを宣う。エレンの躰が性欲を我慢出来るような躰では無いことを1番よく知っている者として、アルミンはエレンの鼻先を甘く齧った。別に幼馴染みであるふたりは恋人同士でも無く夫婦でも無いので、互いに制限などは特に設けていない。気持ち悦いことを好きなエレンはきっと相手が誰であろうと受け入れるだろう。幼い頃から性器の役割を覚え込んでいるエレンの躰である。そこに価値を見い出だすであろう男ならば幾らでも存在する筈だ。

「…んなこと…いちいち、……言わなきゃ駄目か?」

 すると小さく笑いつつもエレンはアルミンの鼻先を齧り返し、いつもの裏表無き有りのままでアルミンの唇を食む。頬や額にするキスも、唇を啄むだけのキスも、深いキスもその先のことも、すべての初めてを試し本来誰より自由奔放であるべくエレンを傍らにとどめたのは常々アルミンであった。

「言わなくて、良いよ。どうでも良いことだから」
「ん、どうでも良い…。巨人を駆逐する以外……何もかも俺は、どうでも良い……」

 まるで寝言のようにぼそぼそと、そう言った時にはもうエレンは眠りに落ちていた。この世界のどこの誰より幸福から遠いところにいるくせに、エレンの寝顔は昔と変わらずあどけなくも幸せそうである。

「ふふ。それで愛だの何だの考えてって僕に言われたら考える、薄ら寒いったら無いね、エレン。ねえ?」

 それ以上に僕も薄ら寒いわけだけれど。と、おまけのようにアルミンは付け足して、舌先で舐めまわせば如何にも甘そうなエレンの瞳を隠す、その瞼へキスを落とす。笑える。好奇心は猫をも殺す。容赦など無く。後悔も罪悪感も無く、たがえた世界よ如何にして早く終われば良い。エレンが起きたらもう1度、次は先程より丁寧に愛撫して、うっかりすれば死んでもおかしくない程に激しいセックスをしよう。それだけ決めてほくそ笑む、アルミンは綴じていた本を数ページ前まで遡ることでほんの少しだけ読み返しながら最後まで読み切るため、手に取った。
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