<概略>
中学時代/病んでいるのは仕様です。






   

 いつも俺は子供のような我儘でここにいた。ここからトビオを見ていた。もしかすると、ずっと誰かに責められたかったのかも知れないね、例えば岩ちゃんとかからさァ。なんて、思い付きだ。何でも良い。でもほんとうに罵られてみたかったのかも。それを確かめようとまでは全然思わないけれど。そういう可能性も無くは、無かったのだろう。俺はおまえを見下ろす。何度だって見下ろすし、見下し続ける。認めるのが悔しくて、羨ましくなる程の才能を持って生きている。トビオ。どこかで外れた螺はもう、どこにも見付からないのだろう。俺は今度は意識して唇を、珍しく自嘲的に歪めた。そうするとおまえは確かに、僅かな絶望感を伴いながらまるで廃人のようにひどく嬉しそうに笑うのだ。

「なに変な顔してるんすか、そんな顔、常に自信満々な貴方には似合わないのに。なのに態々俺にだけ見せる。それは卑怯だ。俺にはどういう意味かもわからない。ねえ、及川さん。貴方は、俺に、何を、くれようとしているんですか?」

 しまった、と思った。俺は一瞬忘れてしまっていたのだ。トビオはバレーバカだけれどほんとうの馬鹿じゃあ無い。いや、違う。ほんとうの馬鹿だったっけ。――どっち? どっちでも良いしどうだって良いか。歳下のくせして俺より上の存在であるかのように、敢えて区切りながら言う、『俺に』、『何を』、『くれるか』だと? 生意気過ぎる後輩は可愛くも何とも無いが、それは自由に似ている。でもそれが何かを俺は知らない。ただ間違ってもこれは幸福じゃあ無い。そういう類いのものじゃあ無い。たぶん誰だって知っていることだ。だけど単純にそれを言葉に出来ない。言葉にならない。口にすれば消える、幻みたいに、跡形も残さず。虚ろだけが躰の奥底に残って、また誰かを深く傷つけるのだ。だからこれからも俺はトビオを傷つけるだろう。他の誰かを傷つける代わりに。

「…及川さん?」

 苦しそうな、けれど決して抗わない瞳をしたトビオが俺を見上げ続けている。この瞳がすべてを駄目にする。その目があまりに多くを要求するから。俺に完全を求めているから。
 何なのおまえ、そんなにも俺に殺して欲しかったのか。なら殺してやろうか。終わりにしてやろうか。いっそ2度として立ち上がれないように。なァ。

「トビオには、俺がいてあげる」

 という嘘をつく俺が与えたいそれは『孤独』――云うならばそれに1番近いだろう。その呼吸を止めてやろう。鼓動もきっと、そうしてあげるよ。憎しみから最も遠いところにあるということ。それ以上には説明の仕様の無い、孤独をあげるからおまえそこで死ねよ。
 俺がトビオに与えてやりたかったものは、愛なんかじゃあ無い。これからずっとおまえの実は繊細な胸を締め付けてやまない、卑怯で切実な、苦しいばかりの日々だ。その柔らかな、あと少しの孤独で今にも折れそうな弱さのことだ。理解るかトビオ。それは靜かに進行している。おまえをへし折る前に気付かれてしまわないよう、音も立てず、影のように背後からそっと。トビオはそんなことなどどうだって良いというようにただただ俺を見上げたまま笑んでいる。夜に空を彩るものは大抵、白昼にだって同じく光るのにね。そのことに殆ど誰も気づかない。
 いっそのこと名前の無いぬくもりが欲しい。けれどおまえに名前を呼んで欲しくなんか無い。別に俺じゃあ無くたって、誰にだって無抵抗にその身を預けられる程に、おまえが自棄な状態になればベスト。その、目にするだけで苛々する高いだけのプライドを喪失したあと、甘ったれた手つきで、頸動脈らへんを愛撫して。寧ろ引っ掻くように、だ。

「貴方は確かに狂ってるんじゃあ無いんですか」
「何言ってんの。それはおまえのほうだよトビオ。だから、おまえはかわいい」

 空が濃紺に変わってゆく暫時。そうだよ。腹立つ程におまえはほぼ完璧だと言って良い。

「は、え、ちょっと、何を泣いてんですか? 及川さん。何で? まさかどっか傷めてたりしてませんよね? 痛いですか? それともどこか苦しいとか?」
「ああもううるさいよ!」

 クソッタレ、またもやすっかり忘れていた。こいつはバレーバカだけれどほんとうの馬鹿じゃあ無い。
 いや、違う。
 ほんとうの――馬鹿だった。

 おまえのせいで今日も俺は胸が傷む。淡いおまえの面影が少しずつ、少しずつ、消していく。睨んでも罵っても無駄なのだ。幼稚な我儘。歪つな何か。狡い。俺だけがいつも穢い、なんて。




影日派に対し及影を注文する私の大事な友達よ…(>ω<)/。・゜゜・がんばったけれどほのぼのとか無理なのです。ごめんね…!
でも数と愛だけはたっぷりめで!!笑
これからも宜しくね!
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