<概略>
巨人がいなくなって漸くセンチメンタル。なエレン。





   

 どうしよう、笑い方を忘れてしまいました。
 と言ったら貴方は、おまえは馬鹿かクソガキ、とあまりに簡単に俺を突き放し、俺は苦笑するしか無くなるのだろう。そうして、そういう形で俺を笑わせてくれるのだろう。
 大きなリュックをひとつだけ背負って、誰も知らない土地へ俺は行きたい。そこには俺の知るものは何も無く、同じく俺を知る者も誰もいない。リュックのなかには着替えと食料と水、少しのお金。誰も知らない土地で誰も俺を知らないところから新しい俺を始める旅。 缶詰をひとつ買うにも躊躇する程に金が無くなったって、雨風を凌げる場所が無く風邪をひいてしまったって、それでも笑えるくらいにきっときっと、楽しい旅だ。寂しくなれば時々貴方に手紙を書いて、元気ですか、というそんな決まりきった冒頭挨拶を指でなぞって、たったそれだけのことで貴方を愛おしく想う旅。それはたぶんきっとすごく、とても楽しい筈だ。

「そうか。……ああ、1週間だな」
「え。何がです?」
「1週間でも、もてば褒めてやろう」
「貴方が俺を褒めてくださるんですか? それは凄いですけど──どうして?」
「俺を思い浮かべて俺宛に手紙なんぞ書いてりゃ、実物の俺に会いたくなって即座に帰ってくるに決まってんじゃねえか。てめえは」
「えっ、なっ」

 腑に落ちない、という声をわざと出して、うわあ、などと言ってみても、そう、貴方にはすべてを見透かされている。こうしていつも俺なんかを見透かすのは簡単だと敢えて言葉にしてくれる優しさが貴方なのだった。
 例え俺が、どうしよう、笑い方を忘れてしまいました、などとくだらない戯言で嘆いてみせても、貴方の言葉通り、俺は貴方の顔を見ればいつも苦笑するしか無く、結局この繰り返しで、こうして、こういう形で、どんな形であったって、笑うしか無くなるのだから。
 仕方が無いのでとりあえず、俺はどうすれば貴方の荷物として邪魔でありながらも愛着を持っていて貰えるのかを悩むことにする。ほんとうは、貴方の手を取り、振りほどかれたりなどしないことを知りながら我儘に引っ張って、連れ去ることだって出来るだろうにな、と、考えながら、狡い俺は苦笑するのである。
 貴方には敵わないなどと当たり前のことを考える。俺はいま正直に安堵している。
 どうにかして笑い方を忘れてしまうどころか、そっと、俺の頬を拭ってくれる貴方の指先が撫でていく感触や温度や優しさに、笑いながら泣いている。俺は。俯いても、何とか。

 どうしよう、寡黙な貴方の指先は饒舌で困ります。
 と言ってしまうそれだけのことで、もう、精一杯な程、呼吸の仕方など忘れてしまっても構わないくらいにこうして貴方を愛おしく想う今。
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