<概略>
リヴァエレからのエレンNTR/拉致監禁/鬼畜/拷問/調教/人格崩壊/輪姦/かなり残酷描写有り/いつも以上に原作無視/
焼きゴテとか乳首ボディピとか尿道カテーテルとか失禁とか内臓ぐちゃぐちゃとか去勢等々愛も何も無くエロよりも拷問重視。ゲスい権力者から、エレンがただただ嬲りものにされるだけの話なのでそのような痛い描写が駄目な方やオリキャラ無理な方はご遠慮ください。食ザーとかご気分を害されるかもしれないシーンも有り。わかりやすくバッドエンド。
* 観 覧 注 意 ! *






   


 焦れったくて堪らない、と言いたげな顔をして、我儘を言えぬ子供が駄々を捏ねる。愛して欲しいと願い、乞う。その切実なまでの焦燥は、リヴァイだけへと貪欲に向けられて、そして満腹という概念をも見失っているかのように。欲望に際限など無い。もっと、もっとと、蕩け落ちる程に甘えたがる、せっつく雄弁な蜂蜜色の瞳が熱に浮かされた水面を張ってぼやく。現状として、エレンは今まさに熱に浮かされていた。性行為によるそれでは無くてこのところやけに兵士の間で流行っている風邪症状のひとつとして。

「馬鹿か。顔真っ赤にしやがって。こんな状態のおまえを抱いて得られるものなんぞ何もねえぞ。熱が上がってつらいだけだ。おまえが」
「……構いません」
「俺が構うだろうがクソガキ。第一おまえ、さっき俺がここへ来たとき何て言ったか覚えてねえのか?」
「うう……『へいちょうにうつすわけにはいかないのでどうかおひきとりください』」
「確り覚えてんじゃねえか」
「だって兵長が『俺が風邪なんか引くわけねえだろ馬鹿野郎』って……」
「意訳は『どっかの馬鹿ガキと違い俺は自己管理くらい出来る』だ。おら、口あけろエレン」
「…何でですか」
「眠っちまう前に薬を飲め。本部の兵士が態々早馬で届けに来た、ハンジの作った薬だとよ。発熱には覿面に効くそうだ。ただかなり眠くなるらしいが」
「じっ…、じぶんでのめますよ…っ」
「は、馬鹿は風邪引かねえなんざ迷信もいいところだな」

 それこそ幼い子供じゃあ無いんですから、というエレンの台詞は鼻で嘲うリヴァイによって遮られた。リヴァイはエレンが横たわるベッドの横に腰掛け、手に持っていたグラスから水を1口含む。そのままエレンのほうを見れば、不安げ且つどこか不満げな瞳を揺らしてリヴァイを見ていた。リヴァイはどうあっても口移しでエレンに薬を与えるつもりである。口移し、つまりキスだ。エレンのほうからリヴァイにくちづけることは滅多に無いがリヴァイからエレンへキスを贈ることは多々あったし、それにまだ数える程度ではあるが躰を繋げてすらいるのだから、今更である。
 こいつから吸い付いてこねえかな、と、そうすれば年甲斐も余裕も放り投げてしまえる、そう考えながらリヴァイがエレンにくちづけると、

「……っ!」

 瞬間、熱のせいでは無く更にカァッと顔に血が上ったらしいエレンが、見詰め合いながらファーストキスでもしてしまった生娘のような反応を見せた。そのせいだ。
 ごくん。

「え、えぇえ…? 何で兵長が飲んでるんですか、水…!」
「うるせえ。てめえがそんな目で俺を見るからだろうが。俺のせいじゃねえよ」

 唾液を飲みこむ拍子にエレン用の水をも飲んでしまったのだ。びっくりしただろうが、と、リヴァイは再度溜息を吐き、びっくりしたのはこっちですよ! と発熱していても喧しい子供のためにもう1度口に水を含む。エレンはいたたまれない気分に陥り目を閉じた。こいつが目を閉じているうちにさっさと飲ませてしまおう、深く考えるな、これは単なる看病だ、等々と己に言い聞かせ、自身を宥めながら、リヴァイは頭から余計な思い付きを振り払う。無防備にいつまでもうぶな反応をするエレンが悪いのだ。そのわりにもっとと甘えたいのを耐えていることをまったく隠せていない、あざとい、これに尽きた。リヴァイはエレンに被さる形でゆっくり顔を近づけていく。薄く開けているエレンの口に己の口を同じく重ねた。

「……、」
「ん、…ん、ん、」

 何で水飲むだけで声が出るんだクソガキわざとか黙って飲め、と言いたいところだがリヴァイは堪える。エレンの唇はリヴァイよりも、通常時のエレン自身よりも、随分熱いように感じる。何とも馬鹿馬鹿しい攻防の末に熱が上がってしまったなどと本気で馬鹿でしか無い。リヴァイはとりあえず水を流し込み、1度エレンの唇から離れると今度は錠剤を1粒摘まみエレンの口内へ指先で押し入れた。

「水まだ要るだろ」
「んぅ…、……は、い」

 先程と同じように水を含んだ口を寄せる。実は相当喉が渇いていたのだろう、エレンは、待ちきれないと男を誘うかのように、リヴァイの唇に吸い付き、なかにある水を飲んだ。その度に、んく、んく、と小さく喉を鳴らし嚥下していく。それがあまりに必死なものだから、エレンの口端からは漏れた水の筋が垂れていた。ついリヴァイはそれをそっと舐める。

「なっ……何するんですかっ」
「……えろい顔をするおまえが悪い」
「水飲んでただけで…!?」
「おまえは俺のをしゃぶるとき飲み干すだろう?」

 だからだ、と断言する潔さにまるで自分が悪戯を働いた錯覚さえ覚える、エレンはリヴァイが何を言い出すかわからない口調にはらはらしていた。今はこれ以上体温も心拍数も上げたくない。

「だ、だって…それ、は……」
「あ? それは? はっきり言え、エレン」

 言えるものか。尻の孔に射精して貰っても、欲望が満腹感に満たされることなど一時的なもので、同性同士なので子供も出来ない。エレンの躰にはそれを受け止める器官が備わっていないのに。確かに自身は兵士であり巨人を駆逐するというつよい決意のもと日々を生きているのだから、子供が出来ない、という現実は、正しく有り難いことでさえあった。けれど時にエレンは、某かの痕跡が欲しくて、欲しくて、リヴァイを困らせるわけにはいかないと思いながら、だがどうしようも無く、こころが求めずに居られぬことがままあった。飲み干すのはそれで少しでも取り込められればと願うから。じっくりと時間をかけて愛し合い、リヴァイが丁寧にキスマークをエレンの柔肌へ残そうと幾度も皮膚という皮膚へくちづけては歯を立て吸い上げても、エレンの躰はその再生能力から、翌朝にはすべてを無かったことにするが如く治癒してしまうのだ。

「――……兵長の残してくれる痕、が、欲しいん…です」

 熱のせいで潤んで見える蜂蜜色の瞳がぼそぼそと乞うた。馬鹿な子供なりに懸命なそれが可愛くて、愛おしくもあってリヴァイがその躰を抱き締めると、ごめんなさい、と誰も求めていない謝罪をする。ごめんなさい、我儘言って、困らせて。繰り返される弱々しい声に、リヴァイはエレンの首筋を甘噛みがてらくちづける。けれど何れ程吸い付いても、リヴァイがエレンを愛する痕跡が残ることは無かった。エレンの寝乱れた髪に手を伸ばすと身をよじりくすぐったそうにする、それからおとなしくリヴァイの何もかもを受け入れるのだ。

「……痕跡など無くとも、俺はいつでもおまえと共にある。それだけじゃあ不満か、エレン」

 やわらかな猫っ毛を指先にくるくると巻き付け、ほどき、撫でて、リヴァイのその手で直接弄ばれながら問われる。エレンは小さく安堵の息を漏らした。

「いいえ。…貴方と共にあれるなら、俺は、幸福というこころを失わずにいられます」

 恥じらう返事は本音でもあった。
 エレンのうなじを掻き分けて、髪を全体的に撫でるようにリヴァイの指が鋤くと、ひどく気持ち良さそうに擦り寄る姿はいつもよりずっと素直だ。

「俺は、俺のすべては、いつだって、俺のものです。俺がエレン・イェーガーである限りそれは変えられない。ですが兵長、貴方が俺を愛してくれた証拠がいつも、たった一晩もすれば全部きれいに消え失せて無くなってしまうのは少しだけ――ほんの少しだけ、…寂しい」

 エレンの瞳はリヴァイ相手に限らず誰に対しても真っ直ぐだ。捻れもせずにただ真っ直ぐに人を見るエレンの、子供らしい額をリヴァイは指先で軽く弾いた。我儘をいっても良いのに、言い慣れていない子供はこういうふうに心身が弱くなっているときですら、どうすれば正解であるのかをわからないまま考える。不正解であろうともとにかく口にしてしまえば良い、そのために大人が傍にいるのだ。リヴァイはエレンの言いたいことが何なのかわからないわけでは無かった。ほんの少しだけ寂しい――それは違うのだ。エレンは何れだけ愛されようといつだってとても寂しい。しかし目に見える何か、明日もわからぬ不確かな日々のなかでの約束事に、互いが兵士である現実の上で、無責任に期待をしてはならないのだ。そんなわかりきったつまらぬ話を1〜10まで、態々リヴァイが教えてやらねばならない程、エレンは頭の悪い子供では無い。また、ごめんなさい、と呟く。

「…ごめんなさい。何も…いつも俺には何も残らないから…、せめて貴方を困らせて、みたかっただけ…です…」

 そう言ってリヴァイの腹に抱きつき、

「おやすみなさい」

 と急にふざけたことを言うので、離れろエレン、俺が部屋に戻れねえだろう、とリヴァイが小突いてみせれば、

「もう寝ちゃいました。…ぐうすかぐう」

 などとあまりに稚拙な狸寝入り。

「おい、エレン」
「ぐうぐうずずずう」
「何語だ、そりゃ」
「えっと、Zzzz…的な?」
「『的な?』じゃねえだろ。この状態で寝るな。襲うぞ、クソガキ」
「兵長は俺の風邪を治しに来たんですかそれとも悪化させに来たんですか。あっ、ぐうすかぐう」
「ぐうすかぐうじゃねえよ、離せ。ひとり寝も出来ねえ子供か、おまえは」
「……いつも俺のことガキ扱いするくせに…」
「実際ガキだろうが」
「俺はもう大人ですよ」
「そうか。なら離せ」
「ぐうぐう、すか……んぴぃ……」
「『んぴぃ』って何だよ」

 ほんとうはもっと我儘を言い困らせてくれて構わない。リヴァイの胸の内にある心臓にはもう既に充分な程、今更追い出すことも不可能な程に、エレンのつけた引っ掻き傷が幾つも幾つも、最早どうして消す術もわからぬくらいに残されているのだ。ぐしゃぐしゃと髪を掻き回すように頭を撫でる。エレンはリヴァイの腹に抱きついたまま寝付くまでこうしているのだろう。甘ったれの馬鹿ガキが、と吐き捨てながら今は退室を諦めて、リヴァイはその狸寝入りを続行する寝顔にキスを落とした。途中、エレンが目を閉じたままくすくすと笑う。まるで舌が痺れる程の砂糖菓子のように甘ったるい、後味が残りそうなこの時間も、そのうちに消える。寒々しい地下室の空気に溶けて消えていく。それは予め理解っていたことだった。けれど。
 好き好きに。ずきずきと。痛む胸の内側がざらり、説明し難い乱暴な独占欲が競りあがる。
 だからと言って誰が、この不安定で未知数で、ぎらつく激しい憎しみと幼稚な甘えをも矛盾させず同時に内包しているエレンを見て、無防備に過ぎるこんな寝顔を眺めて尚、更なる奈落へと貶め不幸を嗤うことが出来るのか。それはもう既に人の所業では無い。誰がエレンを人の子の皮をかぶった化け物であると主張しようと、それこそ、その人間こそが人の姿をした化け物であるのだと。






 ――水が流れるような、音がする。
 ぱちぱちと、ぱち、ぱち、と、何かが。…――何が?
 燃えながら、焚かれながら、燻る音も。

 夢か、現か、漂うかの如く浅い意識のなか、何気無くそのささやかな音を聴いていると突如、一気に現実に意識を引き戻すように、ばしゃん、と何かが沈澱し同じくうわばみを漂っているかのような若干粘ついた常温水を頭から無遠慮にかけられて、その臭いと気持ちの悪さにエレンは呻いた。そうして気付く。窓の無い地下牢独特の黴臭さや埃っぽさ、寒々しく底冷えする低温に不快な湿気。鉄格子。だがいつもの旧本部の古城でエレンにあてがわれている地下室とはまるで違う。もしかしたら簡素であろうと形だけでもベッドがあった、審議所の地下牢とも違うかもしれない。地下にある部屋だということは変わらないのに、煉瓦で四方を囲まれた極小さな溜め池のような汲み取り式の水場が壁に備え付けられ、エレンの頭上に鎮座しており、換気も出来ないこんな場所で一酸化炭素中毒にでもするつもりなのかドラム缶と似た形をした香炉から細い煙が上がり肺を満たしている。
 ここはどこだ? いま自分はどういう状況なのだろうか――まずエレンはそれを確認しなければならなかった。ゆえにゆっくりと目を開けながら、しかしなぜなのだろう瞼が異様に重い違和感に気付く。否、瞼に限らず、躰中、どこもかしこも重苦しく、ふわふわと感じたことの無い不可思議な浮遊感と、起き上がることも億劫でならぬ倦怠感に包まれていた。腕は後ろ手に組まれ、手首には太く頑丈な鎖がこれでもかと云わんばかりにぐるぐる巻き付いていて、外すどころか、もがくことすら出来ず、どう動かしてみようがガチャガチャと耳障りにも錆びた厭な音だけが響く。そこで漸くエレンは己が、一糸纏わぬ姿のまま、獰猛な獣を閉じ込めるように厳重に繋がれ剥き出しの石床の上に転がされていることを把握した。把握はしたが、意味がわからない。
 薄闇のなか、誰かが居る。
 気配はひとつ。
 性別は、おそらく男。
 貴族でさえ手に入れ難いと聞く紙煙草を口にしている。
 身長はエレンより少しだけ高く、歳も幾つか上であるように思われる。が、着衣越しにも知れる、絞りこまれていない無駄な贅肉が目立つその躰は、少なくとも、兵士でも賊でも無い、と確信に近い予測が立つ。

「漸くお目覚めですか、調査兵団飼育の化け物――いや今は巨人と蔑まれる反面、人類の希望などとも呼ばれているんでしたか。どちらにしろ、きみが化け物であることに変わりは無いのにねェ…?」

 ひどく可笑しげに、見世物を値踏むように、エレンより遠く椅子に腰を掛けている男が嘲った。その嗤いは世辞にも上品だと呼べるものでは無かったが、けれど身なりや佇まいは、染み付く程身に付けられ洗練された上流階級のそれで、エレンは感情のまま噛み付くことが得策では無いと判断する。先程ぶちまけられた常温水はおそらく、頭上に角が僅かに見えている、人工的に設置されている小さな溜め池から靜かに流れる、汚染された下水の川からどういう構造によるのかまではエレンには理解らないが、とにかくそのあたりから汲まれているものであったのだろう。煉瓦造りの淵には掃除用の木製のバケツが乗っている。箍を睨み、俺を叩き起こしたのはあれか、と思う。

「…ここ……は、…どこです、か…?」

 正直こんなわけのわからぬ男に話し掛けたくも無く敬語など使いたくも無い、気持ちが悪い。エレンのその気持ちを見透かし、男は再び嘲った。

「驚いた。きみは化け物なのに、我々のように人の言葉を解し話すことが可能なんですねェ。エレン・イェーガー」
「……貴方は、どなた…ですか……」
「私を誰かと? 調査兵団などという野蛮で無学な集団においても最底辺である新兵でしか無いきみは、私の顔さえ知らないのですねえ。ふふ、それは凄い。お里が知れるというものです。仕方が無いなあ、憐れな化け物にも理解りやすく教えて差し上げましょう。無知を恥じずに生きる愚かな獣へ知性を与えてやることもまた、高貴なる者の使命であるのだろうと、私はそう思うのでね」

 男は椅子を立ち優雅な足運びで、エレンの傍までやって来ると見下ろす形で、にっこり、とする。

「次期王座の第1候補で『神』を表す銘を持つ『ガド』はわかりますか? その『ガド』の、第2皇子と言えば育ちの悪いきみにも流石に理解出来ますよね? いま私の持つ銘は『テオドリッヒ』。『支配者』という意味です。簡単に言えば、つまり王政に由来する者ですよ」
「王、政……」
「そしてここは私専用に建築された城の地下牢。城で働く兵士らや使用人たちの他には、王家に繋がる血筋を持つ人間が私しか居ません。地下牢を出てある程度上の部屋へ行けば華やかな王都を一望出来ますが。…まあ、きみのような下賤な者には死んでも関係の無いことでしょうけれど」
「……な、ぜ、そんな、ところに…俺が……?」
「そう、化け物にも調査兵団にも一切縁の無い場所だ。しかしただひとり、きみは調査兵団の誰より幸運なのです。私は単純に珍しいペットを飼ってみたかっただけで、きみはそれに相応しくも珍しい獣だった。この私の興味を惹くなど光栄でしょう、エレン・イェーガー? きみが化け物でも何でも無い、ふつうの小汚い少年兵であったなら、きみはこれ程近くで私の顔を見ることすら出来なかったのだから。今のところ、きみ以上に愉快なペットは思い付きませんね。あれ程までに――民衆からも絶大な期待と壁外での戦果を誇る、かのリヴァイ兵士長が入れあげているらしい、人の子の皮をかぶった化け物…とか。ふふふ。面白いですよねェ……地下街出身だなんていう、きみよりもまだ更に下の貧困層のドブ鼠が『人類最強』などと大袈裟で仰々しい冠を恥知らずにも、身の程を弁えずかぶっていらっしゃる」
「! 兵長はっ…断じてそのように言われて良い人物ではありません!!」

 ついぞエレンは声を荒げた。化け物だの巨人だの、己への侮蔑は最早疾うに慣れている。だがリヴァイを、リヴァイを含めた調査兵団の戦いを愚弄されることは我慢ならない。テオドリッヒは眉を寄せる。『面白い』だなどと言っておきながら如何にも『面白くない』様子で。

「黙れ化け物。私は本来おまえのような下賤が口をきいて許される相手ですら無い。それを何だ? おまえは。何様のつもりで反論した? 今すぐその首を跳ねてやろうか。おまえはただ私の命令に従い首を縦に振って、常に私の望む通りにしていろ」

 先程までと明らかに口調が違う。他者を見下すところは同じでも幾らか穏やかに口角を上げていた筈のテオドリッヒは今や、穢らわしい生ゴミでも見下すような視線でエレンを見ていた。

「詫びろ、下賤よ。おまえたちのような使い捨てのゴミ屑が、それでもこの世に存在していることを許してやっているというだけで既にすべて、王家の温情でしか無いのだと知れ」
「っ……ィ、ゃ、だ…っ!!」

 硬くななまでに謝罪を拒むエレンの腹を、高価な革靴が何度も蹴り上げ、悲鳴もあげずに耐える姿がテオドリッヒの癪に障る。テオドリッヒは冷たい眼差しで無機物にそうするように、蹴り転がしつつエレンの側頭部からその顔までも容赦無く踏みにじった。血にまみれたエレンはそれでも尚、フゥーッフゥーッと怒りを乗せた呼気を吐き出すばかりで、その唇からは一向に謝罪の言葉も命乞いの言葉も出てこない。テオドリッヒは傷だらけのエレンの傍に屈みこむと、そのやわらかな髪を薄革の手袋越しに汚ならしい使用済みの雑巾でもつまみ上げるように鷲掴み、頭からの出血と鼻血とでぐちゃぐちゃに穢くなっているエレンの顔を、石床へ幾度も叩き付け痛めつける。暫しそうしてもまだ命乞いをせず今後もすることは無いだろうエレンを眺めながら呆れた顔をすると、急に、何も無かったかのようにパッと離した。躰の自由を封じられているエレンは受け身を取るなど不可能であり、ただぐしゃりと崩れ落ちる。その姿にテオドリッヒは多少満足したのか、また笑った。

「ふふ、惨めなものですね…穢らわしい。主人たる私の手袋を下賤の血で汚すとは何と罪深いことを。だが、決してきみは巨人化しない、出来ない。何れ程些細な傷であっても、私に怪我のひとつでも付けてしまえば、きみは、きみの大切な居場所でさえあった調査兵団がどうなるのかを理解出来ている。どうやら見た目程、駄犬では無さそうです。よく躾られていますね。兵士長へ義理立てでもしているんですか? それとも肉体的な調教の結果でしょうか。何れにせよ、きみはそこまで馬鹿では無いようだ。だって巨人になればそんな鎖も無意味なのでしょう? 私を殺し、ここから逃亡することも容易な筈だ。それでも、きみは、そうしない」
「っく、ぅう…、う、」
「そう。私はそういう獣を飼い慣らしてみたかったのです」

 テオドリッヒは一貫してエレンを人間扱いしないようだった。奴隷扱いですら無い。なぜなら奴隷は人間であるからだ。

「そう言えば、きみは怪我をしても直ぐに治るらしいですね? 折れた歯も生えてきたと聞きました。まさしく化け物として素晴らしい能力だ。ほんとうはね、空洞が殆ど無いタイプの、アイゼルネ・ユングフラウ(鉄の処女)にでも今直ぐ閉じ込めて、化け物がどんなふうに哭くのか、断末魔を聞いてみたいところなのですが、きみのその治癒能力は未だ不安定なもので解明されていないらしいので。うっかり殺してしまっては長く愉しめない。それではつまらないでしょう。だからまずは、どうしましょうか――」
「あ、の…っま、ちょっと、待って、……く、ださいっ…!」
「何です? 言いなさい。特別に私の寛大さで質問だけは赦そう」
「なぜ、あ、貴方がっ……そんなことまで…っ知って、」
「ああ、そうか。言っていませんでしたね。調査兵団のなかに下僕がいたんです。まったく可哀想な程に頭の悪い奴でしてね、まだ幼い妹を、私の妾を兼ねた端女に迎え入れてやろうかと言ったら、それだけは後生ですとか何とか泣いて縋りついて来ましてねェ……そんな下賤の娘に私の子を本気で生ませるわけが無いということくらい、少し考えれば理解りそうなことなのに。代わりにきみの情報をリークする取り引きに震えながら食い付いてきましたよ。ほんとうに矮小で馬鹿な男でした」
「なっ…」
「酷い奴ですよね、仲間である筈のきみを売って。薬できみを深く眠らせているうちにここへ連れて来たのもその男です。その間兵士長殿には私の手飼いである拝命貴族の護衛という任務を与え旧調査兵団本部から引き離すようガドの側近に幾重にもトラップをかけた情報を策し、と、そのあたりは多少骨が折れましたが。まあ…能無しのわりには案外役に立ったほうですか。真実きみは、仲間だと信じていた調査兵団の1員にずっと裏切られていたというわけです。ああ、しかし安心してください。きみを裏切り続けていた兵士はきちんと殺処分しておきましたから。おや、顔色が優れないようですね? …化け物でも裏切られるとショックを受けるのですか? それは面白い」
「なんっ…何て、こと、を……っ」

 何て酷い。酷いのはその兵士では無い。目の前にいるテオドリッヒだ。一方的に家族が乱暴され踏みにじられるかもしれないと知り、選択を余儀無くされたのだ。同じ兵団の仲間と云えど妹を護ることを選んだ、選ばずを得なかっただろう兄の気持ちはエレンにも痛い程わかる。殺人を犯してでもミカサを助け出してやりたかったあの気持ちをも、テオドリッヒはあまりに軽々しく滑稽だと嗤っているのだ。
 こいつは、勘違った支配者どころか人間ですら無い――エレンは思った。ただの肥え太った、王政を笠にきただけの、それで姿形が偶々人間に似ているだけの、それこそ害獣であり悪魔だ。直ぐにでも駆除してしまいたい。殺してやりたい。だが激情に身を任せることは簡単だ。簡単であり、愚かな行為だ。現在のエレンは未熟とはいえ兵士であるのだ。ここで反抗しテオドリッヒを殺してしまっては元も子も無い。今は、まだ。
 きっと、必ずエルヴィンやリヴァイたちが任務自体には無意味であったことに気付き、策を講じて助けに来てくれる。そのときに、王家の圧力により既に調査兵団自体が解体されていた、ではいけないのだ。エレンは歯を食い縛る。

「さて、エレン・イェーガー。なるべく、きみは、私を退屈させないように努めねばなりません」
「た、いく、つ……?」

 突破された壁のせいで家族や居住地を失った人類は間引きされ今まさにこの瞬間でさえ、財産を護るどころか職にあぶれ満足に衣食住にもありつけずに、いったい何人が厳しい冬を乗り切れるのかというぎりぎりのところで必死に生きているというのに。選りにも選って『退屈』と、そう確かにテオドリッヒは言ったのである。

「退屈は我々王族や貴族らの敵なのです。きみたち賤民にとって巨人が敵であることと同じく。私は未だ1度も巨人に驚異など感じたことも無い。そんなものより退屈に慣れてしまうことのほうがずっと恐ろしい。何れ程の贅を尽くそうと、豪奢な社交会を開こうと、美女と美酒に溺れパイプを嗜み美食を愉しもうとも、必ず飽きが来てしまいます。逃れられない退屈が来る。私が何の努力もしていないだなどと勘違いされては困りますが…私は退屈を回避するためにありとあらゆる努力をしてきました。それこそ珍しいペットを飼い殺してみたりね。――…そうそう、きみは『蠱毒』というものをご存知ですか? 人を害するという意味だけのそれでは無く、『蠱』に『毒』と書いて『コドク』と読むものです。東洋の古い呪術のひとつでしてね。壷に入りきるだけの『蠱』を入れて蓋をし、一切餌を与えない。ここでいう『蠱』は別に虫には限らなくて良い。蛙やら何でも良いのです。そうするとそのうちにね、例え共食いを当然にする種では無い生物でさえ、共食いを始めるんですよ。そうして最後の1匹になったそれを使い、呪物として用いるそうです。私はその『蠱毒』を人間で試してみたことがあります。試用期間を乗り越えた者には城内での仕事をくれてやるとふれ込めば、直ぐに人数は集まりました。大人から子供まで関係無く。丁度この地下牢の隣の部屋だった。彼らは初めのうちこそ励まし合い飢えを耐え互いを護り合っていましたが結果的には『蠱』と変わりませんでした。気の狂った母親が自分の赤ん坊を引き裂き食し、その母親を夫が殺し、食する。肉の少ない老人はどうなのだろうと思ったけれど、やはり力の無い者から食べられていく。きみたちが戦う巨人が人間を喰らうようなものでしょう? そう考察すると実に興味深い。ねェ? 空腹から苛立ちが募り、些細な切っ掛けが口論となり、武器のひとつも与えていないにも関わらず獣のように歯で噛み切り、首を絞め、手足をもいで。――あまりに呆気無く精神に異常をきたし、思考する余裕も失くなり脳の鈍化した『殺人鬼』と化した。最後に残った者も結局あちらこちらを齧り取られていたので大してもちませんでしたねェ……もう少し頑張って生きてくれたなら、奴隷として働かせてやるつもりだったのですが」

 私は約束は護るほうなんですよ、と無邪気に笑むテオドリッヒを愕然と見上げながら、エレンは閉口していた。この男が嬉々として何を話しているのかがわからない。人間としてのこころが、欠片でもテオドリッヒにあるのならば、暇潰しにそんな、そのような非人道的な諸行が出来る筈が、無い。

「だから私はきみに期待してもいるんですよ、エレン・イェーガー? 化け物ならばある程度の無茶では死なないでしょう? 今のところきみに蠱毒をさせる予定は無いのですが、退屈凌ぎくらいにはつかえるかと思いましてね。何と言ってもきみは、あの兵士長殿の気に入りなのだから。もうふつうの性行為はしているのでしょう? ならば精々、私と嗜虐的行為を愉しもうではありませんか。と言っても、私には家畜とまぐわう趣味はありませんので、化け物を抱こうだなどとは考えていませんよ。それだけは兵士長殿を素直に尊敬しますね。人間の身でありながら化け物を愛そうなんて、ああ、兵士長殿自身も化け物なのでしょうか。どちらにしろ最底辺同士、育んだ絆のようなものがあったのでしょうね。感心しますよ。彼は決してきみを差別扱いしなかったと、そう聞いていますから。さあ、ではまず、私を悦ばせてみせろ化け物」

 何を。
 何を言っているのだろうか。言われているのだろうか。
 処理の追い付かないエレンの顔の直ぐ傍に寄るテオドリッヒが、香炉から何かを取り出した。

「ほら、こちらに尻を向けろ。早く」
「っそ…れ、は、……うあ゙ッ」

 テオドリッヒがぴしゃり! とエレンの白い尻を叩いた。四つん這いになれ、という意味だ。可能な限り薄く鞣された上等な革手袋越しの手のひらは、まるで鞭のように鋭くエレンを苛んだ。クソが、このクズ野郎、死ね。エレンは内心でテオドリッヒを罵りながらも屈辱に歯を食い縛り従う。
 香炉から取り出されたそれは鉄製の棒だった。太さはそうでも無い。精々成人男性の指1本分程度のものだ。だが取っ手の部分には何重にも布を巻き付けてあり、だからそこを持つテオドリッヒは熱くは無いのだろうが、エレンのほうに向けられている先端から途中までは、赤々と業火に熱せられた鉄芯が燃えている。先端が槍のように尖っているわけでは無いのが唯一の救いだろうか。しかしその先端には、『テオドリッヒ』を表す銘が彫られていた。これから起こるだろうことを予想しどうしようも無く震える躰にエレンは力を込め、何としてでも耐えられるよう、ぎゅっと、かたく、つよく、目を瞑る。

「ふふ。やはりきみは馬鹿な国民たち程もは、頭が悪いわけでは無いようだ。化け物なのに」

 とんだ皮肉だ、と愉悦を孕むテオドリッヒの声がする、刹那。

「ゔっあぁっ! あ、ぁあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙――…ッ!!!!」

 じゅう、じゅう、肉のやける悪音、人体の、蛋白質が灼ける臭い。かたく瞑った筈のエレンの双眸は零れ落ちんばかりにおおきく見開かれ、自然現象としての涙がぼろぼろ溢れだす。陽に焼けずに白く締まったエレンの尻は、丁度右側の隅に小さくひとつ、焼きゴテによる紋章が刻まれた。テオドリッヒが所有しているのだという、奴隷の、否、家畜の証である。

「はっ、ははっ…存外似合うじゃあ無いか。だがこれもどうせ直ぐに消えてしまうのだろう? 消えぬよう毎日何度でもつけてやろう。喜べよ。嬉しいだろう、家畜には」
「ぐっぅ、ひ、ぐ、…こ、んなのがっ……嬉しい、わ、けが……っ俺、は!」

 ――俺は家畜じゃあ無い!!

 反抗心を顕にしたエレンに、しかして次にテオドリッヒは気分を害した様子でも無く、優雅に微笑んでみせた。それがより一層、不気味で仕方が無い。
 テオドリッヒは告げる、先に手品の種明かしをするように、

「おまえは気付かないか? この匂い。香炉で焚いている匂いだ」
「…な、にを……」
「a pián(阿片)だよ。それをベースにハーブとスパイスを調合したものだ。おまえは目覚めたときから嗅ぎ慣れない匂いに気付いていた筈だ。そこの水の匂いなどでは誤魔化しきれぬ麻薬の匂い。そして感覚で察した筈だ。起きながらにしてどこか夢心地な、はっきりしない意識のなか」

 言われてみればそうなのだ。その通りであったのだ。確りと覚醒はしている筈なのに頭の奥のどこかが、未だ夢のなかを漂っているかのような、霞の如くぼんやりとした浮遊感。無視の出来ない違和感を。

「……アー…ピエン…」

 だが、ならば同じ部屋に居るテオドリッヒも吸引している。

「私はアーピエンなど初めてでは無い。耐性が出来ている程に。言ったろう、退屈を紛らわすためならばありとあらゆることをしてきたと。けれどまだ子供で、更に兵士であるおまえはどうだろうね? エレン・イェーガー。常習性は折り紙付きだ」
「父さ、んの…医学書で、見たこと、が、ある……確か…医療用、以外では、所持、も、禁じ、られて…いる、と、」

 まずい。いつの間に、いや、いつからここで転がされていたのか。呂律がうまくまわらなくなってきていることに気付き、エレンは舌打ちしたくなる。鉄の棒を再び炉にくべつつ、テオドリッヒは愉しげに言った。

「へえ。医者の息子なりにまったくの無学というわけでも無いのか。けれどこの城内では、私は何をしても構わない。何を所持しようが、何を使用しようが、誰を襲おうが、誰をなぶろうが、誰を殺そうが。王政が崩壊でもしない限り、そして私が『テオドリッヒ』である限り、誰にも私を咎められない。その権利が無い。だから、おまえを助けられる人間などこの国には存在しないのだ。私を除いては」
「……それは、俺、に、命、乞いをしろ、という、意、味、です、か…? っは、……ンなの、まっぴら、ごめ、んだ…っ、この…外道っ…!」
「ふふ。面白いじゃあ無いか。では我慢比べといこう」
「がまん…くら、べ……」

 テオドリッヒは無遠慮にエレンの躰を引っ繰り返し、仕立ての良いスーツから軽く5寸、否その倍以上はある長く太い、尖端が針状になっている凶器のような鉄釘を取り出し、エレンの乳首を乱暴に摘まんだ。

「い゙っ…、」

 公に捧げた筈の心臓は断じてこのような非道なサディストを護るためでも無ければ、ましてや愉しませるためでも無かった。それでもエレンの左胸は王家の所有物だとでも云わんばかりに、そこにある柔い乳首を思いきり引っ張ると、あろうことかテオドリッヒはそこへ鉄釘を突き刺す。ぶつっ、と皮膚のちぎれる生々しい音と共に、じんわりと滲み始める鮮血。だくだくと流れ出す生命の赤。それらに構うこと無く進む尖端がエレンの柔い部分の肉を裂いていく。

「ぐぅゔ…っあッ、あぁっ…ひっ、ィ、ゔ、つ、あ゙ああ゙あ゙あ゙っ!」

 そうして開いた穴へ、飼牛の鼻に通すようなリングを嵌めて、鍵をかける。幾ら傷が治癒すると言っても、これならば関係無いだろうとテオドリッヒは考えていたのであった。正真正銘、所有者を示す証に、下卑た声が囁いた。

「エレン・イェーガー、絶望するにはまだ早い。私がおまえに飽きてしまうまで、おまえが生きていられたら――正気で生きていられたら! 逃がしてやっても良い!」
「ゔぐ、…ふ、っぅ゙ああ゙っう、ぅ」

 見悶えるしか出来ずにいるエレンの腹をまたもや踏みつけ、テオドリッヒは自身の履いている下衣のジッパーを下げた。そしてエレンの頬に擦り付けるかのように、まだ勃起していない自らの男性器を口許に押し付ける。ぺニスをしゃぶれ、ということなのだろうとそれだけは理解したが、エレンは口を開けることに躊躇してしまう。当然である。必死に生きる国民の命を軽んじて、人を人とも思わない、選民意識の塊でしか無い非道な男。比べることすら痴がましい程に、リヴァイの持つ厳しさとそこにある深い優しさになど遠く及ばぬ、そもそもの常識が、理性が、道徳が、歪みきっている男だ。

「いつまでも悦んでいないで早くしろ。痛みなど巨人に喰われたことを思えば、アーピエンの麻酔効果で大して激しくも無いだろう。おまえは何も考える必要など無い。下賤にも性奴にも、化け物にも、頭など必要無い。素直に命令に従え。おまえが、調査兵団を護りたいのならば」

 リヴァイの進退ばかりか兵団自体を脅かすつもりだ。テオドリッヒの冷たい圧力にエレンはぞっとする。この男は、自身の生命さえ無事ならば何をどんなふうに扱おうと許されると真実本気で思っている。そして実際にそれが可能であり、許されるだけの『血筋』であるのだ。こんな腐りきった害獣以下の『王族』のひとりに、好きにされることは我慢ならない。だが。

「っ…ふ、……ん、ぐ、ぅ、」

 大丈夫だ、と、エレンは己に言い聞かせながら、悲痛な覚悟を持ってしてテオドリッヒのぺニスを口に含んだ。
 大丈夫だ――例え、何をされようとも。何があろうが、己はこんな男によって穢されたりなどしない。こんなものはクズ野郎の一時的な暇潰しに過ぎない。必ず終わる。
 それまで生き残りさえすればエレンの勝ちだ。
 ならばテオドリッヒのぺニスだろうと泥水だろうときれいにすべて舐めてやる。そう思った。

「案外上手いじゃあ無いか。万が一歯を立てるような無礼を働いたなら、おまえの歯を1本残らず全部抜いてやろうと思っていたが……、これも兵士長殿の躾の賜物か」
「んんうっ、んく、…ふ、んんっ…ん、……ん゙ん゙ぐっ!?」

 口に含んで舐めまわす、竿に舌を這わせ、時折戯れに睾丸を口内や手のなかでゆっくりと転がす――そういった愛撫的なフェラチオしかされたこともしたことも無いエレンの喉奥へ、叩きつけるようにテオドリッヒが腰を突きだしぺニスを突き入れる。喉が締まって呼吸が苦しい。

「ふぐ、ゔぅう、うっぐ、ぅゔっ」
「喉でするんだ。覚えろ」

 苦しい。苦しくて堪らない。
 エレンは今にも吐き出してしまいたいテオドリッヒのぺニスを、喉奥で扱く。その惨めさに涙が溢れて止まらなかった。

「ぐうぅ…っふ、……ん゙ん゙ぐ、うぅっ…」
「はははっ! まさしく獣だ!」
「ゔぇ、ぐ、ぅん゙ん゙っ…んゔぅゔゔゔっ」

 えづくエレンの頭を鷲掴み、テオドリッヒが腰を大きく振り乱す。その度にエレンは呻き声に似た濁音を喉から発してしまう。

「ぐううっ…、ふ、ん゙んぐぅゔ……ん゙ん゙ッ」
「ほら、射精するぞ化け物! 有り難く飲め!」

 嫌だやめろと喚きたて叫んでしまえれば幾らか、ましだったろうか。そんな些細なことすら許されず、エレンは握った拳のなか、つよく握り締め過ぎた指先が血を流す程に嫌悪をそこへ閉じ込める。

「ん゙ん゙ん゙ん゙っぐ、んゔゔっ、ん゙んん゙ん゙…っぐ!?」

 ただでさえ未知の行為に必死に従うエレンの左胸にテオドリッヒが指を掛ける。先程無理矢理取り付けられたばかりの、まだ止血すらしていない乳首が変型し引き千切られてしまいそうにつよく引き上げられ、エレンはその激痛に躰を痙攣させた。

「ゔゔっぐぅ、ん゙ん゙っ…、!」

 千切られる、と本気で思った。痛みと恐怖のどちらからも追い詰められ、みっともない程に背筋が震えて仕方がない。じんじんと高熱を持ち腫れ上がる乳首が酷い辱しめを受けている。もうやめて欲しかった。

「ふぐぅっ…ひ、ん゙ぐゔゔゔ……っっ!」
「っは、なかなか良い顔をするじゃあ無いか」
「ゔぁ、…はっ…ん、っぐ、は、あぁ、」

 何とか飲み干した精液は、リヴァイのそれとは違う味がした。ほんとうに違ったのかはわからない。だがエレンにとってそれは、穢らわしくも、エレンの体内を侵す赦し難い泥水であり尚且つ猛毒のようなものだった。きたない。気持ちが悪い。口のなかに指を突っ込んででもすべて吐き出してしまいたい。
 けれどテオドリッヒは達したというのにエレンに一切の休憩も温情も与えるつもりが無いらしく、初めての激しいイラマチオにより力の抜けたエレンを蹴り倒し、何ら準備の無い慎ましやかなアナルに指を入れてきた。

「っ…ぅあ! や、やめっ、」

 感覚に頼るならばまだ1本だけだが、まるで優しさの無いそれは、リヴァイが与えてくれるそれよりもずっと生々しく、いつもよりリアルに感じる。

「――さあ、問題だ。今おまえの汚らしい孔に挿入れてやっているこれは、どの指だと思う?」
「く、……っな、なん…?」
「私のどの指が挿入っているのかわかるか? と、訊いた」

 指。そんなことを尋ねられてもエレンにはわからない。リヴァイとは明らかに違う太さの指は革手袋を外してさえいないのだ。第一エレンはリヴァイ以外の男など識らない。初めて挿入されているこんな男の指がどの指かなど、判別出来るわけが無い。

「そ、んなの…っわかる、わけ、がっ……っひぁ!」

 孔のなか、予告も無くその指をぐるり、回される。

「感じていないで、はやく答えろ」
「っうぁっ! っく…っはぁ、っ……」

 今まで喰わえ込んだことの無い男のものであろうとも、冷静に思考を働かせればどの指かを当てることは決して不可能と断じるべくことでは無い。だがエレンは冷静では最早無かった。てめえみたいなゲス野郎に感じてなんかいねえよ死ね、と言い返したくとも、現に今エレンの口から漏れている声は忌々しくも確かな嬌声であった。それをエレン自身、自覚している。

「っ、っぁああ、っうあ」

 それでも尚テオドリッヒは指をぐちゃぐちゃと動かし、乱暴にエレンの感覚を翻弄しており、リヴァイの壊れ物を大切に扱うような愛撫しか知らなかったエレンは考えようと思えば思う程、その指が無理に捩じ込んでくる痛みを伴う滅茶苦茶な悦びを、鮮明に感じてしまう。

「ァ……んんっ、な、…なか、ゆびっ…」

 当てずっぽうでしか無いが何か言わねばこのまま戻れないところへ引き摺り落とされそうで堪らなく怖かった。

「正解。よくわかったな」
「っ…も、っもう……ぬい、て…っ」
「良いだろう。褒美をやるよ」

 喉を鳴らす耳障りな嘲声。エレンはほっと息をつく。全然気付いていないなどというのは嘘だ。エレンがエレン自身を欺きたいがためだけの嘘だった。なぜなら千切られてしまうとさえ危機を覚えた乳首は腫れ上がり、だらしなく肥大し勃ち上がっていて、痛みだけでは無い何かを確実に齎し、冷え冷えとした地下牢内の空気にさらされていて尚も未だ熱くて仕方がない。嘘だと思えれば何れ程楽だろう。愛する人を、あんなにも自分を大切にしてくれていた人を、こんな形で裏切ることになるなど。でも生きて戻るのだ。もしかしたら潔癖なあの人は、もう2度としてエレンを愛してはくれないかもしれないけれど。それでも、とそう思った。

「んんんっ、ん、」

 口約通りに引き抜かれたテオドリッヒの指が離れていく。どうやら約束は護るほうだというのはほんとうらしい。
 しかし。

「仰向けに転がれ」

 今度はそのように命令する。従いたく無い、従いたくなどある筈が無いのに、エレンは靴先で突き飛ばされ抵抗を表すだけの余力も無く不様にも転がった。躰に一切力が入らない。それが阿片のせいであるのか憔悴している躰のせいであるのかも思考力が低下し続ける頭では考えられそうに無かった。
 テオドリッヒは分厚い唇を歪めるといやらしげに舌なめずりをして見せる。

「そのおおきな瞳――美しい色をしているが私を見詰めるには反抗的過ぎていけない。ペットはもっと主人に従順で無ければ」
「は、……あ…?」

 そうしてテオドリッヒは再び熱した金属製の棒を炉からまた取り出した。充分に熱せられているそれに、こいつは痕跡を残すのが好きなのか、とエレンはぼんやりと思いながら、もう既に焼きゴテならば過ぎたのだ、次はどこへ印を付けられようとあまり変わらない。だが信じられないことに、それは、エレンの目前にゆっくりと迫り来る。まだどこにも焼き印を押し付けられていないのに皮膚の近くにあるというだけでひどく熱い。目の下あたりの薄い皮膚に灼かれた鉄の高温を感じ、茫然としていたエレンは反射的にびく、と怯え、身を縮めた。テオドリッヒはその表情に無邪気な子供のように微笑む。

「良い顔だ。恐怖を湛えた、獣の子の顔だ」

 言いながら、エレンの頭部を靴底で踏みにじり固定し、

「な゙ッ!?」
「じっとしていろ」
「ゔっぎ、…あ゙ぁ゙あ゙ああぁあ゙っ!??」

 蕩けた蜂蜜のように美しく輝くその瞳を眼球ごと燃やし尽くすかの如く、まるで残酷な人形遊びのように瞼に押しあてる。

「あ゙あ゙あ゙あ゙ぁああっぐ、ひ、ア゙ぁ、ゔううっ…っっ!!!!」

 片目だけでは無い。両方だ。エレンは眼球を失い視神経を断絶され傷口を焼き付けることにより瞼を熔接され悲鳴を上げつつ失禁した。失った視界からは目視出来ずとも止め処なく鮮血が流れ、壮絶な痛みにのたうちまわる。がテオドリッヒは微塵も気に掛けずにエレンの脚を押さえつけ赤ん坊のオムツを取り換えるときと同じ姿勢を取らせるが早いか、手にしたままの未だ冷め遣らぬ金属棒をエレンのアナルへ突っ込んだ。

「あ゙ぁ゙あ゙あ゙あ゙あづ、あ゙づっ、……い゙ぃ゙い゙ぎ、い゙あ゙あ゙あ゙ッッ」

 こんな拷問は受けたことが無い。耐えかね跳ねるようにのたうち、今にも失神してしまいそうなエレンの意識をそれでも繋ぎ止めたのは、尚も続けられる激痛に他ならない。

「ひッ、ィ、ア゙ア゙ぁ゙っ!??」

 無惨な程に焼け爛れた両瞳とアナルの悲痛さに加えまだ、エレンのぺニスに針をあてがうテオドリッヒはまさしくまともな神経をもつ人間では無かった。エレンの乳首に孔をあけたあの釘を――否、最早あれは拷問具である。どちらにせよ心無い凶器を嬉々として、摘まみあげたエレンのぺニスの尿道口へとテオドリッヒはその釘を打ち付け、挿入する。どんな殺人鬼もこんなことを15の少年にしないだろう。残虐なる苛みはまさにエレンで無くともいっそ殺されたほうがましなのでは無いかと思わせる程の、痛々しいばかりの苦痛の連続であった。

「ひ、ぐっ…ゔぐっ…ぅっく、ぐ」

 休み無く襲いくる激痛にエレンの呼吸は正常なそれでは無くなっていた。生死に関わる程の激しいひきつけを起こし、未発達な肢体がびくん、びくん、と頼りなく、しかし大きく跳ねている。

「ひっ、ひっ、が、…ぁ゙がっ」
「何てことだ! まだ生きている! 凄いよエレン・イェーガー、おまえは!」

 テオドリッヒは感激の声をあげ手を叩いて喜んだ。この間にもエレンのアナルは入り口から奥の直腸に至り灼かれ続けており、入り口を無理矢理に広げられたぺニスはそのデリケートな中心を尖った釘で貫かれずたずたになった傷口から逆流する血を流し続けている。

「意識は!? 意識はあるか化け物!?」
「ふっ…ぅ゙ぐゔゔっ……た、いっ……、痛い゙っあ゙つい゙ィっ……ッ!」
「会話まで出来るのか!? 幾ら兵士であろうとも最早人間の精神力では無い!!」
「…ろ、して……、も゙、ゃ、ア゙」

 エレン自身望まぬ無意識的な呟きにテオドリッヒは耳を澄ます。

「ころ…せ、…っも、ォ…いっそ、……ろせっ…殺……っ」
「『殺せ』だって? 興の醒めることを言うなよ。まだやれるだろう、何せおまえは化け物なのだから!」
「ゔゔぅッ、ち、がっ…違う! しん、でっ…た、まる、か、よ…ッ! ぐっぁ、あ゙あ゙ッ…、」

 殺す。こいつを殺す。必ず殺す。生き残ってやる。必ず。そう思いながら同時にエレンの脳内で響く。死にたい。痛い。熱い。耐えられない。
 相反する感情が紙一重でエレンの精神力の糧となる。どのような形になろうとも。

「そうだ、化け物! まだまだ死んで貰っては困る!」
「……ク、……っソが……」



 死ねクズ野郎、という台詞は声にならなかった。







 食事は与えられなかった。睡眠は好きにとって良いと言われていたが、男の急所であるペニスに、その尿道へ抜かれず釘を打ち込まれたままで眠れる筈も無い。エレンは激しい呼吸を繰りだしながら何とかまだ意識を保っていられることが自身のことながら不思議でならなかった。寧ろ気を失ってしまったほうがずっと良い状況ではあるのだが、何ら考えは浮かんでこない。今がいつであるのかも、何日経過しているのかも何もわからない地下牢で、やたらに渇く喉で呻けば、備え付けの溜め池へと頭ごと突っ込まれる。遠い昔、捕虜となった軍人に施す『吊り鐘』に近い拷問は、既になけなしとも云えるエレンの体力と気力を奪い、焚かれ続ける阿片に脳が麻痺し、他に欲しいものすら思い付かなくなっていた。ただ躰中を痛みが支配する、それがどうしようも無く甘美な痺れとなりわけがわからない。こんなところで死んでたまるかと、つよく決意していた筈の意識はぼやけ、何だかもうすべてがどうでも良いような気になりその都度己を叱咤する、その繰り返しだった。磨耗していく神経は、エレンがエレンである理由すら取り上げようとするのだ。
 やあ、まだ生きているか。エレン・イェーガー? 声のほうに耳を傾けても、潰された眸は何も映さない。地下よりも、月の無い夜よりも、深い暗闇が続く。

「……だ、れ」

 ぽつりと溢した声に、まだ発声出来るのだという事実に自分で驚く。

「飼い主の声くらい覚えろ」
「かい、ぬ、し」
「まあ良い。今日は新しい玩具を持ってきたよ。そろそろ現状にも慣れて飽きたところだろう? 喜べ」

 意味が、わからない。
 エレンは唇の形だけで、なに、と尋ねる。

「Katheter。尿道に差し込むんだよ。幾ら何でも、そう粗相ばかりされては躾にならない」

 そうテオドリッヒに言われ、エレンは自分の尿意に気付かされた。

「や…、いや…だ、」

 膀胱は確かに限界近くまで膨らんでいる。しかしテオドリッヒが持ってくるような物で強制的に排尿しなければならないのは絶対に嫌であったし、何より悪い予感しかしない。

「おまえには何の権利も無い。ペットの世話は飼い主の責任だからな」

 テオドリッヒは本来ならば医療用の消毒効果と内部に傷をつけないためのクリームやローションで湿らせねばならない尿道カテーテルを右手に、すっと両の手を伸ばし、エレンのペニスに埋まる形で刺したままにしてあった釘に手をかけた。

「ぐっ、ぅあっ…」
「ああ、先にこれを抜かねばな」

 そしてグ、と指先に力を込め、無理矢理手繰り寄せた釘の頭に爪を引っ掛けて、強引に引っ張り出す。

「うあ゙っぁ、あ゙あ゙…っ、…づ」

 漏れでる声を抑えられない。ずるずると、傷をつけた尿道内の皮膚を削ぎながら血にまみれた釘がゆっくりと全貌を現してくる。

「ッ、あああぁああぁっ…!」

 ずぼぼ、と纏わりつくような音をたて釘が抜き取られた。エレンの意思に関係無く、異物で拡げられた挙げ句に栓を失った尿道口は、くぱァ、とその口を開け、まるでいやらしくも誘い込む動きでひくついている。テオドリッヒは、その衝撃でエレンが粗相をしてしまう前にと素早く尿道カテーテルのそのチューブの先を、エレンの尿道に突き挿入れていく。
 例えエレンが感染症を起こそうとテオドリッヒは何ら思わぬのだろう。必要最低限である消毒さえされていない外陰部がびくりびくり脈を打つ。ペニスを軽く上方へと引っ張りながら、拡がってしまった尿道口を親指と人差し指で摘まみ更に押し拡げ、進んでいく。ただ、カテーテルが前立腺に達すると特に抵抗があり、前立腺を通過し膀胱に達すると抵抗が少なくなって自然に尿が出てくるため(医療的には決して無理をしてはならないが)そのまま挿入するのが鉄則である。

「っ…や、っぁ! やめ、ろっ…ォ! 痛、いっ…!」
「痛い? ならばなぜ萎えていない? 言ってみろ、淫乱」
「く、ぅっ……、は、ああっ! ち、がう…ッそこ痛っ…!」

 カテーテルが前立腺を通過する。既に内部は傷だらけなのだ。痛みを訴えるエレンの体は跳び跳ねたがテオドリッヒは気にする様子も無く、更に奥へとカテーテルを押し挿入れていく。

「あっ…!? え、待っ…、出るっ…! やめ、ッ出る、…ッぅぅぅ!」
「出せ。そのための物だ」

 ぐちゅり、と。
 ついにカテーテルが膀胱まで届いた。

「ひっ、…あぁっ! ゃ、ああああっ……! 出るっ、いや、ァ、だしっ…出したくな、いぃっ…出したく、な…っ、」

 我慢しようにも出来るものではない。膀胱に溜まった尿が、管目掛けて集まってくる感覚にエレンは翻弄される。ぎゅっと尿道を閉じてみようとしたが、カテーテルを挿入された状態では何の抵抗にもならぬ、まさに無駄であった。

「いああああぁぁあああ……ッ嫌だ、や、う、ぅうぅぅぅっ!」

 強制的な排尿なのに、溜まっていた分だけ余計に気持ち悦くて仕方が無い。尿道の内部をあたたかい尿が通り、射精のような錯覚をエレンに与えた。管の反対側からは、じょろじょろと羞恥にうち震える程、我慢させられ過ぎたせいで色の濃くなった尿がバケツへと次々と出ていく。

「あふ、っ…あ、ぁぁぁ…っ、」
「気持ち悦いだろう?」
「んなっ…こ、ん、なのっ……あ、あああっ! ……ッいく、う、あぅぅ…いくぅぅ…!」

 必ず生きて戻るのだと誓った筈の思考はぼやけ蕩けて、テオドリッヒに命じられるがままに従う躰は支配される悦びを識ってしまっていた。腰を何度もびくつかせ、排尿を続けるエレンを、テオドリッヒは愉悦の笑みを浮かべながら見詰めている。

「ぁ、あ、あ、あ…ぁあ、……」

 すべてを出し切り、カテーテルを引き抜けば、ぴちゃぴちゃとだらしなく残尿が冷たい床へ滴り落ちる音が牢内に響いた。ひどい、頭痛と共に、耳のなかからノイズが疾る。真っ黒に塗り潰された視界は滑稽な程に闇を美しく感じさせてくる。遍く衆生をひっそりと包み込む優しさと、濁った意識を無慈悲に照らし出す残虐さ。痛みはずっと変わらないのに。エレンの頬を撫でる何かは温度が無い。それはとても身近なものだった気がする。なのに理解らない。

「ん、ふっ…あっ、ぁ、あ…ッ」

 耳鳴りに混じる哄笑。何がそんなに楽しいのだろう。何がそんなに面白いのだろう。何も、なんにもおもしろいことなどないだろうに。
 躰が、体内が、焼けるように熱い。それに冷たい革手袋の手が這う。エレンの肌を撫でまわす。それが気持ち悦い。それが気持ち悪い。しかし気持ち悦いのだ。焼け爛れている尻孔。変形した乳首。そこを常に引っ張る重し。口を閉じられない尿道。原型を忘れたそれらはエレンを痛めつけ続けながら異様な程に興奮させた。だらしなく開かれた、くちびるから唾液と共に色を含む呼吸が漏れ出る。嬌声。

「ああッ、ぅあ、あっ、は…―――っ」

 どくどく、と。吐き出される外に行き場の無い精液がエレン自身の腹に掛かる。腹に掛かったそれらは幾度も繰り返された拷問に愉悦を覚え、乾き、ただ白濁の残骸となっている。
 テオドリッヒはエレンが力無くぐったりと転がっている様を眺めながら、もう何度めになるのかもわからない焼けた鉄の棒でエレンの後孔をぐちゃぐちゃに穿ち、熱い、痛い、と叫びながらも腰を奮わせ悶える姿を興味深く観察していた。朝も無く昼も無い、暗闇に支配された地下牢のなか、更に両の目玉ごと癒着した瞼でエレンの視界はいつまでもこの世で最も深い闇に覆われている。エレンにとって1日は長く、同時に短くもあり、人としての感覚は閉ざされて、最早願いは何も叶わない。だがそれすらも囚われたるエレンには、もう何の関係もなかった。自由は無く、エレンが過ごすのは牢獄の中の石床の上のみである。常にエレンを襲う閉塞感や圧迫感、逼迫感は、際限なく正常な思考と正気を奪い尽くしていた。エレンは誰に抱かれることも無く、体内を貪るものは焼き付いた鋼のみで、どんなに嫌がろうとも抗おうとも無駄だと悟るのに、時間など不要であった。絶望と虚無感、そして耐え難い境遇を唾棄する気持ちは止まらずに、ひたひたと従順に狂っていく。

「は、…あッあッあぁあ…――! く、ぅ゙んっあア……ッ、い、ぁっうッぅあぁぁぁぁっ!!」

 短期間に、確実に痩せて骨ばった腰を踏みにじられ、肉の、人体のあたたかみなどと比べ物にもならぬ業火に孔を揺さ振られる。ペニスの代わりにテオドリッヒの銘が刻まれている赤く焼かれ高温の塊でしか無い鉄の棒を咥え込まされたアナルは入口を限界間際まで抉じ開けられ、穿たれる。受け挿入れさせられ灼け爛れたアナルは無惨にへしゃげ、へこみ、歪に変形している。ギチギチと肉の千切れる音を立てては高温で傷口を溶接しながらも、柔軟に受け挿入れさせられていくそれを埋め込まれ、突き上げられていた。エレンを実験動物よりも更に下級であるとしか見ていないテオドリッヒは、エレンの躰になど何ら頓着する様子も無く、手荒に扱い嬲る。今もエレンの内部を我が物顔で暴れまわっている鋼の棒は真っ直ぐなものの他に、睾丸にあたる部分には溶岩石のようなものが幾つも盛り上がり奇妙な円形を形づくられたものまであるのだ。後者であるそれは、人間で言う陰茎に棘状の突起――逆鱗のような細工がびっしりと削りこまれておりエレンのアナルを出挿りする度に、なかの粘膜を削ぎおとしては捲れ上がった腸壁の――体内の肉や、入り口を、ずたずたに傷付け血まみれにしていた。荒々しいそれら無機物もエレンの下肢も鮮血に染まり、見るからに痛々しいが当のエレンは最早それを痛みだけとは感じていないために、酷く淫らな表情を浮かべいやらしく舌を突き出し喘ぐのであった。テオドリッヒに何ら手加減されぬままエレンは何が快楽で何が激痛かさえも判断出来ずに、麻薬の充満した地下で心身共に蝕まれては秒単位で病んでいく。果ての無い地獄に叩き込まれるエレンの人格は破壊され、忌まわしい男の暇潰しに何れ程傷付けられていても、何かを感じ、何かを考える間も与えられずただただ濁流に似た拷問に流され、浅ましく喘ぎ激しく悶えるしか無い。

「ひッ、い゙ぃぃぃイイ゙…――っ壊れ、る……ッ! あぁっヒィイ…あ゙あ゙あ゙……っ、ふ、ッ、うあああああああッッ!」
「叫ぶばかりで芸が無いな。気持ち悦いと言え。肉体が感じる刺激のままに、その心情のままに、従え。楽になる」
「あ゙ぁ゙っ…、ッ、ゃ、…あぐゔぅ……っ!!」

 人としての尊厳その何もかもすべてを根刮ぎ奪われ家畜以下の玩具として扱われ続けるエレンに残されたたったひとつきりの、最後の権利。『痛み』こそがそうでありその砦である筈だが、疾うにそれすらも強制的に、愉悦的なルーティンワークへと擦り替えられ、血と汚物にまみれ傷だらけになりながら深々と埋め込まれる灼熱の塊に、無惨にも焼き尽くされ爛れきり尚も血に染まるアナルは、抜き挿しされる度にもう機能していないに等しい脳髄をも引き摺り侵し、紛れも無く貪欲に雄を飲み込み絡み付いては締め付ける、ただの空洞であり性器でもあった。甲高い悲鳴は、許しを乞う叫びか或いは嬌声か。聞くに耐えない卑猥さと知性の欠片も無い表情。浅ましく卑しい痴態。それらに従え、と男は命ずる。

「あが…っ、いッああ゛あ゙あ゙ッ――イイ、気持ちいっ……うっく、ゔぅ゙、突っ込んで…お、れを、壊し、てっ……もっと、し、てッ…――ひぐ、ぅ゙ゔ、」
「ははは! もう壊れているだろう!」
「ん゙ん゙ん゙ん゙ッ…あっ、いいィィ、壊、れ、ていいっ……!!」

 閉じられることの無いエレンの口許からは飲み下せ無かった唾液がだらだらと溢れ、家畜以下に成り下がっていることをも誇示するように熟れ、ぬらぬらと濡れて、ぴんと勃つ乳首を、自らの指先で変形する程つよく引く。白痴めいた媚態を気にすることも無いエレンに纏わり、こびりつく赤はどこもかしこも未発達な躰を彩っていた。尻を突き出し四つん這いになる姿は正しく家畜以下であり、巨人化能力の治癒が間に合わぬ程に抉られ傷付けられ、火傷だらけになっている直腸にエレンは嬌声を上げ獣のように腰を振り悦んで受け入れる。哺乳類の本能だけを剥き出しに、拷問さえ悦楽であるのだと誤認するしか無いその行為に、従ってしまえばあとは坂道を転がり落ちるように淫蕩に蕩けた頭はエレンから自我も意志も奪った。エレンは虚ろな表情を浮かべ涎も精液も体液という体液を垂らし、アンモニア臭のする粗相の残骸にさえ舌を伸ばす。ぴちゃぴちゃと無垢な仔犬のように、へらりと薬から何からに汚され溺れる見世物のように。





 何時間なのか何日なのか、とどまる術無く啼かされるエレンを眺め、やがて飽きてきたらしいテオドリッヒは、エレンの喉に食い込む程の、けれども窒息死には至らないだろう絶妙な絞め方で誂えた首輪をつけて、城内にて初めて牢からエレンを出した。予め呼んであったテオドリッヒ付きの護衛たる兵士らが通常任務から城の地下へ来たれば、全裸の化け物が床を這いながら迎える。確かにこのところ城主であるテオドリッヒがまたおかしなペットを飼い殺しにしているとは聞いていたが、彼らにとってのエレンは従順な愛玩動物などでは無く、巨人化する化け物である。だがその化け物は一切の抵抗の意思も見せず大人しく首輪から伸びる鎖に繋がれ、荒々しくも色付いた発情期の犬のような吐息を漏らしている。その姿だけでも驚愕に値するというに、エレンは両の瞳を潰されているのだ。溶接された瞼の上から、針子による糸での縫い付けが施されている。巨人化する化け物を飼うなどと、彼らは、ついぞ城主がおかしくなってしまったのだろうかと危惧していた筈だったのだが、今の、その状態のエレン・イェーガーには、巨人化どころか何かが出来るようにはとても思えなかった。どの道、彼らの身分ではテオドリッヒには逆らえぬ、つまりどうしようも無いのであるが。

「ンン、…う、あ、ぁー」

 テオドリッヒに促され、兵士の足許に擦り寄りその頭を擦りつける、そうして媚びる様は、男たちの加虐心をおおいに煽った。勝手なことは一切出来ぬよう繋がれている鎖が、じゃらり、と重厚に反響する、

「さァ化け物、少しだけ遊んでおいで」

 靜かにそう告げる――残忍なる『支配者』は嗤う。

中編に続く
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