<概略>
ねこ兵長/アホエロ/エレリではありませんリヴァエレです
うちのハンジさんは何でもつくれます






   

 悲鳴を──あげるところだった。エレンが何か叫ぶより先に、丸めたタオルを口のなかに突っ込まれなければ。そうしたのはリヴァイだった。いつもの団服ではなく、寝巻きのシャツだけを上半身に纏い、下はパンツさえ履いていないようだ。エレンは時系列順にこの状況を整理することにした。確かにエレンは眠っていた、そして起床時間が迫り、地下室を開ける鍵がじゃらじゃらという音を立てた。ああ兵長が起こしに来た──夢うつつにそう思って、近付いてくる足音に合わせ段々はっきりと覚醒していく。そうして目覚めたエレンが上半身をベッドから起こそうとした瞬間、悲鳴もあげられずリヴァイがタオルを突っ込んできたのだ。ランプに照らし出されたリヴァイは、いつもより100倍不愉快そうな顔をしていて、見覚えのあるしかめっ面にはあるべき箇所に耳がない。代わりに頭の上に、猫の耳のようにぴんと立った黒い耳がふたつ、ついている。

「────!??」

 エレンの悲鳴は喉の奥に押しやられて、大きな瞳が丸く見開かれる。リヴァイはそんなエレンをベッドのすぐ傍で見下ろし、大声を出せば即殺す、と言わんばかりに顔を顰めていた。

「……可笑しいか、エレンよ。だが嗤うつもりなら、このままおまえを窒息させる。いいか、嗤うなよ。話すことは赦すが、声は小さくだ。理解出来たなら1度頷け」

 苦しい。口内に突っ込まれたままのタオルはエレンの涎を吸いそれがますますエレンを苦しくさせる。
 言われた通りに、エレンは涙目で1度だけ、こっくりと大きく解りやすく頷いてみせた。するとリヴァイは、地を這うような低い声で、よし、とだけ言うと、エレンの口に突っ込んだタオルを取り出してやった。冷たい地下室の床におもむろに放る。

「初めに言っておくが……なぜ俺がこんなみっともない変身を遂げたのか、俺にもあまり、よく解っちゃいねえ」
「…………わからない?」
「そうだ。今朝起きたらこうなっていた」
「……スラックスどころかパンツも履いていらっしゃらないのはなぜですか」

 エレンが問うと、リヴァイは、持っていたランプを置いて、シャツの裾で隠された下半身のままエレンのベッドのふちに座り、尻を見せた。ゆらゆらと炎が揺れていた。

「…………毛並みの良い素敵なしっぽですね」
「そうだろう。だから下着を付けると痛えんだ」
「…………可愛いですね、ふさふさで」
「殺されてえのかおまえは」
「いえ、まったく」

 リヴァイの尻穴の上には、これまた真っ黒い、立派なしっぽが生えていた。猫耳と揃いの、黒くつやのあるものだ。とてもさわってみたい。もふもふしたい。エレンがそんなふうに考えてしまっていることをリヴァイはまだ知らない。

「猫耳としっぽなんて……ほんとうに心当たりないんですか? 兵長」
「…………まったくないわけでもねえが。実は…ゆうべ寝酒に、ハンジといっしょにワインを飲んだ」
「バッ……絶対それが原因じゃないですか!! ハンジさんですよ!? 口に入るものはハンジさんといっしょに居るときは入れちゃ駄目でしょ兵長!! 何年付き合ってるマッドサイエンティストだと思ってるんですか!! あの人そのうち女体化薬とかつくる勢いですよ!? そのさきがけが猫って、猫って……萌えるじゃないですか!!」
「声量に気を付けろ!」

 途端、ぱこん! と、エレンの頭は叩かれた。
 が、あのハンジ・ゾエという名の変人は、非常に優秀な頭脳を持っているのだ。それが巨人相手に限れば素晴らしいが、そのほかではいろいろ危険なのだ。エレンなど先日、巨人の力を有した人間のクローンが居れば研究し放題じゃないか、と、エレンの髪をひと房いきなり毟っていったのだ。そのときエレンは山賊かこの女上司は、と思ったものだった。そんな人間と酒を交わすなど愚の骨頂である。なんてことは、1番知っている筈のリヴァイがどうして。

「……珍しいワインだったんだ」
「欲望に負けないでください兵長……因みにそのワイン、おふたりだけで呑まれたんですか?」
「いや…………ハンジの奴は、下戸でな」
「もうその時点で黒ですよね。下戸の人が態々珍しいワインを持ってくるわけがないです」
「貰い物だと言っていた」
「兵長……それ信じたんですか。幾ら何でも素直過ぎませんか。相手があのハンジさんなのに……」
「酔いたい気分だったんだ」
「…………兵長可愛いですね」
「何だ、エレンおまえ、削がれてえのか?」

 それは嫌です──とエレンはきっぱり言い切った。兎に角、今日はリヴァイは体調不良を理由に休暇を取った。だが1日で元に戻れる保証はない。エレンは困っていた。こんな姿にされてしまった人類最強の上司を放って、自分だけ日常業務に行ってしまっても良いのものなのかと。きっと顔には出ないがリヴァイとて不安がないわけでもないだろう。なぜなら──団員の誰かに廊下などですれ違うかも知れぬリスクを犯してまで──自室に引きこもり誰とも顔を合わせることなく1日を過ごすことも出来ただろうに、それをせずエレンに宛てがわれている地下室まで際どい格好のまま来たのだから。エレンとて、こんな状態のリヴァイを、暗い地下室に独りきり放置するのは胸が痛むというものだ。

「……下を履いていらっしゃらないなら寒いでしょう。お嫌でなければベッドに入ってください」

 と、促すと。

「……良いのか? 気色悪くねえのか」

 と、珍しく、吐息でさえ掻き消せられそうな声で呟かれた。可愛い。どうしよう、獣人化した160cmのおっさんが可愛い。猫耳、しっぽ、万歳である。言えば削がれそうなので言わないよう気をつけねばなるまいが。

「気色悪くなんてありませんよ。地下室なんてそれだけでお寒いでしょう? さァほら、どうぞ」
「………………恩に着る」
「恩に着ないでください」

 だって、エレンにとて下心があるのだから。
 ず、ず、ず、遠慮がちな音を立てて、リヴァイがエレンのベッドのなかへと入ってくる。毛布をかぶって、ふいと顔を逸らしている。あまり見られたくないのだ。
 寒かったのだろう。リヴァイの躰は小さくぷるぷる震えていた。エレンはそれを背後から抱き締めて毛布に隠れたリヴァイのしっぽを優しくさわった。

「っ……!」
「あ、痛かったですか。すみません」

 途端に息を飲み込んだリヴァイにエレンは申し訳なさげに話し掛ける。

「いや……痛く、は、ねえ」
「ふうん……じゃあ耳を食んでみても良いですか」

 リヴァイからの返答を待たずして、エレンの唇がリヴァイの猫耳を軽く食み、角度を変えては毛並みに沿ったり逆らったり、ゆっくりと動く。くすぐってえ、とリヴァイの声が、小声にもかかわらずに地下室で反響する。エレンの手がリヴァイの手をそっと握った。

「あ、手は人間なんですね。肉球あったらぷにぷにしたかったんですけど」

 イイですよね、肉球、可愛いし、触ると気持ち良いし。と言うエレンにリヴァイは眉間に皺を寄せる。

「肉球があったらガキのおもちゃにされるのか。ついでに体中毛だるまになってなくて良かった」
「確か、猫って喉のあたりを撫でると、気持ち良いんでしたっけ」
「おい、やめ、」

 ろ。とまでも言わせてやらぬ。エレンの指が手のひらが、喉の付近を撫でるとリヴァイの喉から意図しないくすぐったさがせり上がり、ごろごろと鳴いた。

「どうです? 気持ち良いですか? 兵長」
「ぅ、……むぅ、うぅ……っ」

言葉が上手く発せないのは猫化のせいだろう。気持ち良いというより心地好い。リヴァイの喉はごろごろと音を立てるばかりだった。なぜ体毛は猫化していないのに喉が心地好いのだ。腹の立つ。

「は、ッ……ふ、ぅう、ク、ソ野郎がっ……さわ、るな……ッ」
「そんなに気持ち良いですか?」
「自然、現象だろ……っ、生理と、お、なじ、だっ」
「ふうん……」

 しかしだいぶ気持ち良さそうにエレンには見える。躰ごとそっぽを向き、エレンに背を向けていた筈のリヴァイの躰は、いつの間にか少しづつ、少しづつ、エレンのほうへと向きを変えようと、自然にずれて、とうとう腹を上にして、仰向けになってしまった。

「所謂、服従のポーズですね、猫の」

 嗤うな、と当初リヴァイに言われたものの、面白くてエレンは小さく笑ってしまう。それがますますリヴァイには面白くない。

「てめえ……ッやめ、ろと言っ……たろう…………っ」
「お腹、毛は生えてねえけど気持ち良いんですかね? どうです?」
「……っあ、ふ、」

 エレンの手が、リヴァイの喉元を撫でながら、毛のない腹をもさすりだす。リヴァイは躰をよじろうとするが、猫の野生的習性にはなかなか簡単には、勝てないようだった。されるがままになっている。喉はずっとごろごろ言っていて、腹はただあたたかい。それが面白くて、エレンはやめられずにいた。が、リヴァイは意を決したように、突然、エレンの上に乗っかってきた。ギョッとしたエレンに、しかしリヴァイの腕力に適う筈もない。

「うわっ!」

 突然のそれに驚いたエレンが声を上げるが、リヴァイはエレンの両腕を押さえ込み、猫のように金色になった双眸をぎらつかせる。重い、痛い、知ってはいたが、リヴァイのよく鍛えられた躰はとても筋肉質で、エレンのほうが身長は10cmも高いと謂うのに全然抵抗が出来ない、ばかりか、エレンは自らの躰を手放されてしまったかのように微動だにしなかった。出来なかったのだ。間抜け面で驚く以外には何も。

「……おい、エレンよ」
「…………はい」
「よくもおまえ、好き勝手やってくれたな?」
「ええと」
「下心が、てめえだけにあると思うなよ。クソガキ」

 もしかして俺、殺される!? とエレンは漸く己の危機を感じたが、時は既に遅し。リヴァイにはエレンを殺す気までは当然ないのだが、これ程羞恥を晒されたのだ。手加減する気は失せていた。

「っ……!?」

 エレンの唇を、リヴァイは甘く齧る。直後、これはキスを要求されているのだと気付いたエレンが自ら唇をあければ、ガフッ! と噛み付くようなキスが降りてきた。

「!?!??」

 リヴァイに牙はない。ついていない。なのにエレンが物凄く違和感を感じたのは、リヴァイの舌が絡みついてきてからだった。ざらついているのだ──とても。上等なヴェルベットのようだった筈の、リヴァイの舌が、紙やすりのようにざらざらしている。まるで猫だ。猫の舌はざらついていると聞いたことがあった。痛い。痛い、とさえ声に出来ぬ程そのキスは激しく、エレンの口内を舐めまわしてきて、思わず涙目になる。痛い、痛くて乱暴で、且つ粗暴だった。

「んんんッ……む、ゥ、んん──!」

 呼吸も上手く出来なくて、エレンは水のなかに放り込まれたかのように己はこのまま窒息死するのではあるまいか、と云う恐怖にすら駆られていた。痛い、苦しい。苦しい。

「んく、んんっ……ゃ、へ、い、ちょっ…………ふん……っ!」

 酸欠で真っ赤になった顔で、泣きながら、リヴァイの舌から逃げようとする。けれどリヴァイはそんなもの意に介さずに、追い掛けてきてはエレンの舌を絡め取っていく。エレンは抵抗を示し、リヴァイの胸を必死で叩くがびくともしない。

「んん、……んッ! はぁ、あっ……ああ、はっ……!」
「ふん」

 リヴァイのほうから唇を離し、苦しくて痛いだけだったキスは終わりを迎えた。が、しかし、刹那にはエレンのシャツがたくし上げられ、顕わになったふたつの乳首の左側を舌先で──右側は指先で、リヴァイの良いように転がされる。

「ぃ、や、だ……兵長っ……な、んでッ……?」
「先に調子に乗りやがったのはおまえじゃねえか、エレンよ。おまえ、覚悟しろよ?」
「やっ……あああっ!」

 エレンはほんのちょっとだけ猫化したリヴァイを構っていただけだと謂うに、こんな仕返しはないだろう。くりくりと転がされる右側の乳首、それはいつも通り甘美なものではあったが──問題は左側だ。あのざらついた舌が乳首をあちらこちらから攻めてくる。痛みと違和感しか湧かずに、エレンは困惑していた。痛いのに、気持ちが良い。吸われ、嬲られ、押し潰され、その度に小さく悲鳴が上がる。我慢が出来ずに、エレンはぽろぽろと涙を流していた。猫耳としっぽだけだと思っていたのに──。肉球も体毛もないくせに、舌も猫だなんて聞いていない。狡い男だ、リヴァイは。乳首を通り過ぎたら、徐々に脇腹にずれ、下へ下へと微妙に移動していく。散々嬲られたエレンの乳首は赤く腫れ、ぷっくりと勃ち、膨らみなど全然ないのに、女のそれと変わらない程、男を求めた結果のような気にさえ陥ってしまう。そのようなときだった。

「なっ……何です、かっ……そ、れ…………」

 最早疾っくに床に落とされた毛布と、リヴァイのシャツがたくし上げられたせいでよく見える。見たくもないものが見える。勃起したリヴァイのペニスが、いつもより赤黒く、太く、その表面には夥しい程グロテスクで恐ろしいものが覗いていたのである。

「これか? 俺のちんぽだが」
「そんな筈ないでしょう! 短い人生でそんなもの俺、初めて見ましたよ!」
「喧しいガキだな。知らねえのか、発情期の雄猫は雌の排卵を促して、ほぼ100%妊娠させるために、こういうトゲが付いてんだよ」
「!? は、発情期……?」
「おそらくハンジに盛られたワインには、猫化だけじゃなく発情期になる成分も含まれていたんだろう」

 いたんだろう──じゃあねえですよ! エレンは余っ程そう叫びたかったが、恐ろし過ぎて絶句してしまった。

「ま、まさか……、まさかとは思います、が、それを、お……俺に、突っ込んだり、なんて…………」
「する気だが?」
「無理無理無理無理無理無理無理!」
「おまえいつも巨人化するとき、自分の手の甲噛みちぎるじゃねえか、それよりは痛くねえだろ。たぶん」
「そういう問題じゃねえ!」
「余裕そうで何よりだ」

 リヴァイは目を細め、微かに笑った。それが余計に妖しく、エレンを戦慄させる。そうこう問答をしているうちに、エレンはうつ伏せにひっくり返され、スラックスと下着をずり下げられた。現れた尻の割れ目にヒヤッとした香油を垂らされ、て、エレンのナカにゆっくりと、リヴァイの指が挿入されていく。

「っ……う、」
「まだ痛かねえだろ」
「う、あ、あっあっ……」

 何が小声で話せだ。最初からそのつもりだったのだ、リヴァイは。そうでなければ朝っぱらから、円滑剤代わりの香油など持ち歩く理由がない。

「あぁあ……、…ん、ふ、あ……っ」

 人差し指、中指、薬指と──1本ずつリヴァイの骨ばった長い指が、エレンの尻穴に差し込まれていく。ひんやりとしていた香油は、摩擦熱とエレンの体温に溶けて、あたたかで。寧ろ熱いくらいであった。

「ふ、ぁ、あ、あ、あぁ、」

 前立腺を押し潰され尿意がせり上がってくる。リヴァイの指の動き、感触、そのすべてにエレンは翻弄され、幼い子供が密かに泣くように、健気にも喘ぎを上げ続けた。最早慣れたものだ。エレンのナカはうねり、吸い付き、リヴァイの指を締め付ける。この先にある悦楽に、無意識にも期待が高まり、だが同時に、先程見てしまった凶器を思い出し、恐怖に泣き喚きたくもなる。それでも指でひらかれるナカは只管気持ちが良かった。

「んん、ぁ……」

 指だけでは物足りない。香油がぐちゃぐちゃと音を立て激しく動く指の感触に気を取られていても、本能は囁くのだ。もっと奥、結腸に届く程の刺激を、欲しい、欲しい、と。快感に貪欲になったエレンの奥底を、理解しているのはリヴァイだけだった。そういえば初めてセックスしたときも──殆ど強姦のようなものだった。初めてひらかれた菊の花は痛い痛いとエレンに相当叫ばせた。だがそれはほんとうに最初だけであった。そこに快感を見付けたときには既にエレンは出来上がっていて、まだ15の若い躰は悦楽をすんなり学習してしまったのだった。

「ん……、へいちょう…………もっと……っ」

 いつもの癖で、舌っ足らずで強請ってしまえば本格的に官能に火が着く。そんなエレンの様子に促されるように、リヴァイも年甲斐もなく燃え上がる。

「エレン。じっくりゆっくり痛いのと、一気にガツンとくる痛み、どちらか選べ。おすすめは後者だが」
「んん、っんん、……へいちょうの、お好きなほう、で……っ」

 馬鹿みたいな確認だ。どちらにせよ激痛を受け止めねばならぬのはいつだってエレンのほうだ。だがもうやめてはやれぬ。リヴァイはグロテスク過ぎるペニスの先端をエレンの入口に宛てがい、兵士にしてはまだ細いエレンの腰を両手で持ち上げ獣のようなバックの体勢にしてやる。

「怖えか?」

 どんな回答が返ってきても変わらぬのに、抱き潰す前に一応尋ねる。

「怖い……です。そりゃあ。だけど、俺は……貴方にならどうされたって良い」
「っ……、ガキのくせに、煽ってんじゃねえ、よッ」
「───!」

 がつん、と奥まで一気に捩じ込まれた、リヴァイのペニスにはトゲがびっしりと付いていて、エレンの柔らかくデリケートなナカを、表皮を削り取る程の痛みと共にぶち込まれる。悲鳴を──あげてしまった。

「あああああああああッッ!!!」

 柔らかな内部の肉が、残酷にも削がれ、捲り上げられるのが判る。エレンは元々大きな両眼をこれ以上ない程に見開き、ぼろぼろと生理的な涙を溢れさせた。体中を激痛の電気信号が駆け抜ける。もう、無理だとか、痛いだとか、抜いて欲しいだとか、そのような理性的な言葉は一切出てこない。ひいいいいいい、に濁音を付けたただの悲鳴なのか、万が一にも喘ぎなのかすら、判らないくらいに。喉は開きっ放しで、その唇から発せられる言葉は言葉の意味を微塵も成していない。
 ぐちゃぐちゃ、ぐちょぐちょ、と、上下にペニスを叩き付ける度に、めくれたエレンの肉がリヴァイのトゲに絡みつき、その感触にリヴァイはつい眉を顰めた。エレンがあまりに無体であったからだ。可哀想なことをしている。という自覚くらいリヴァイにだってある。だが途中でやめてやれる程度であれば、初めから今日は地下室に来なかったろう。

「もっと、欲しがれ……っエレン!」

 うっかり零れた言葉はリヴァイの本心だった。もっと欲しがれ、俺だけを、おまえにこんな無体を働く非情な上司を、それでも、すべて欲しがってほしい。もっと、もっと、もっとだ。それは最早リヴァイの独り善がりだ。それでも──だ。

「俺の、すべてを、おまえにやろう、」

 代わりなぞ居ない。必要ない。エレンにならば自分のすべてをくれてやりたい。イコールそれは、エレンのすべてが欲しいと同義語だ。自分でも信じられない。エレンを抱くまで知らなかったのだ。こんな感情、否、激情を。大人気ないにも程がある、リヴァイはそれさえ知りながら。

「エレン、呼べ。俺の名を──」

 リヴァイの懇願は、叫びっ放しのエレンの耳に、きっと届かない。届いていない。おそらく、何れだけ抱こうとも、届くことはないのだろう。それで良い。己のへどろのようなみっともなさも、エレンの絶叫は掻き消してくれる。だが。

「リヴァ……イ、へい、ちょ、う」

 もう出して。
 そんな世迷いごとが聞こえた気がした。リヴァイは繰り返しピストンしていた血塗れのエレンの尻の奥で、扱くようにして達っする準備に入る。途端、エレンの入口がきゅう、と狭まり、ぶるりと大きく全身で震えたあとで、シーツに若い精液が放たれた。そのすぐあとだ。リヴァイもエレンの奥で吐精した。エレンが仮に雌猫化か女体化か、していれば、確実に孕んだだろう。それくらい、濃く、長い、放出だった。

「んッ、んぁ、痛くて……死ぬ…………うっ」

 叫び過ぎて枯れてしまったエレンの声が呟く。リヴァイは咄嗟に我に返り、勢いよくペニスをエレンの穴から抜いた。

「あああッ!!」

 抜かれたペニスのトゲが、エレンの内側を抉り取り、エレンは最後の悲鳴をあげる。どこもかしこもまるで嘘のように血塗れだ。どうしようもない。ほんとうにどうしようもない。
 こぷ、と音を立て傷だらけの穴のなかからリヴァイの精液が垂れてきた。それはエレンの血液と混じり赤い色をしており、この惨状を目に見える形で顕わとなった。リヴァイは後ろからエレンを抱き締め、痛い思いをさせて悪かった、と謝罪の言葉を吐き出した。ふう、ふう、と発せられたエレンの大きな溜め息、で地下室は完全に、現実に引き戻される。

「わ、るかった……なんて、似合わない……セリフ…言うくらい、なら、しないで……くださ、い」

 リヴァイに1番似合わない言葉だ。悪かった、だなんて。そんな。
 リヴァイからしてみれば、エレンの処女を奪ったとき以上に、異常な出血が見るに耐えないからであったが、確かにそう言われれば謝罪などエレンにとって、屈辱でしかないだろう。リヴァイは好き勝手にしたのだ、エレンの躰を労りもせずに。そしてそれ以前に、エレンが好き勝手したのだった、リヴァイの危機的状況を無視して。けれどお互いさまだと言い切るには、あまりにもエレンの負担が大き過ぎた。エレンは寝返りを打ちたくて、体勢を変えようとし、激痛に耐えられずベッドにそのまま突っ伏した。悲鳴はもう上がらなかったが、己の躰が、己の言うことを聞かない、そのような状態で、悪態のひとつもついてやりたいけれども、それさえ上手く出来そうにない。

「んん……っつう…………」

 うっかり零れたそれは言葉ではなく、単純に呻き声でしかなかった。

「う、んっ、んっ、んっ、んぅっ……」
「暴れるなよ、すぐに楽にしてやる」

 リヴァイの指がまたもや挿入され、エレンのナカに溜まってしまっている大量の精液を掻き出していく。繰り返される。幾度も。幾度も。

「あっあっあっ……ふ、ぅ、ンン」

 その都度エレンから零れる小さな声は、まるで嬌声にも似て。エレンの躰はぴくぴくと痙攣し続ける。
 リヴァイの指は放ち終えた精液を掬い、ついでとばかりに前立腺を軽く押してやっていた。この分だとまだ大丈夫そうだ。エレンも、満身創痍の躰に僅か、出来得るだけ力を入れて、奥に溜まっている精をぶちゅ、ぶちゅ、とリヴァイの指に届くまで追いやっている。

「はぁ……はぁ……はっあっ……」

 全部とは云わぬがある程度ナカから搾り出し、幾分、腹は楽になった。あとは仕上げにシャワーでも突っ込んで洗浄してしまえば、エレンの躰は清潔に保たれることだろう。ただ、精液を掻き出し終えても、しつこい痛みと共に血液は流れ出る。これはどうすれば良いのだろうか。エレンは未だ涙でぐちょぐちょになっている顔だけをリヴァイに向けて、不安げに、兵長、と、ひと言口にする。リヴァイは、大丈夫だ、とエレンの頬に軽く、1度きり、ふれるだけのキスを落とすと、シャツのポケットから小瓶を取り出した。

「…………何、ですか……? それ……」
「血止め薬だ。おまえのケツのなかに塗る」
「血止め……?」

 随分と用意の宜しいことで。矢張りリヴァイは初めから、猫化したペニスでエレンを犯すつもりでここへ来たのだ。リヴァイは小瓶に指を突っ込むと、軟膏のようなテクスチャの白い薬をたっぷりと取り出し、エレンのナカへその指をゆっくりと差し込んだ。

「……んぅ、」

 何だがぬるりとベタつく、その薬は、優しくエレンの傷を滑るように塗り込まれていく。

「あっ……、ふっ……」

 痛みはなかった。逆に、このぬねりが善いくらいだ。更にその冷たさは、火照った躰を鎮めてくれる。

「あまり喘ぐんじゃねえよ、またシたくなっちまうだろ」
「……断固拒否、です!」

 喘いでいるつもりはエレンにはない。また、だなどと恐ろしいことを言われた。
 くるくると撫でるように指で薬を塗られ、少々安堵した吐息が漏れてしまう、だけだ。血止め薬のおかげで、出血は治まってきたようだが、傷自体はまだまだ治りそうにない。不安げな、エレンの眼差しを察し、リヴァイは塗り終え蓋を閉じたその薬をエレンに寄越した。

「クソする度に塗り直せ。放っておくと切れ痔になる」
「へいちょうって…………いえ、何でもないです……」

 デリケートな思春期の少年相手に、デリカシーの欠片もないに等しい。しかしそれこそがリヴァイである。この人には何も期待してはいけない──エレンは大人気のない上官を、はやく追い抜かねばなるまいと心に決めた。無理であろうことならば理解しているが。少年よ、大志を抱け。
 リヴァイはと言えば、血だらけのシーツを引っ張り、もっと血だらけになっている自身のペニスを拭っていた。それを見て、エレンはいろんな意味で肩を落とす。あれ程までに夥しかったリヴァイのペニスが、今はもうすっかり、人間のものに戻っているのだ。なぜだ。謎のワインの効果が切れたのか。頭に生えていた猫耳も、尻から覗いたしっぽさえも、何事もなかったかの如く綺麗さっぱり消えている。うっかり、あれは全部白昼夢だったのではないかと。あのざらついた舌もまた、上質なヴェルベットのようにおさまっているのではないか。時間制? ──いや多分、リヴァイが射精し終えたからだ。自身の精液と、エレンのナカを抉り削いだ血を、執拗に拭いながら一向に視線の合わぬリヴァイをねめつけ、エレンは確信した。

「──兵長、全部、知ってたんでしょう?」
「知らん」
「ほら! そこで“何を?”とならないのが確たる証拠です」
「……知らんと言ったら知らん」

 昨夜、謎のワインを呑んでしまったときはほんとうに知らなかった。朝、起きて、躰の異変に気付き、発情していることには、はっきりとは判らないが何となく自然とすんなり理解したのだ。体内が熱く、吐精したくて堪らぬ、雌を求める本能が駆け巡っていることについて。だったらひとりきり自慰でもして、勝手に鎮めれてくれば良いものを──、とエレンは思うが、そういう単純なものでもなかったのだろう。エレンは巨人にはなれるが猫になったことはない。し、発情期がやってきたことはもっとない。ゆえに解らないのである。

「元に戻って良かったですね、兵長」
「そうだな。まァ俺は、猫の姿も悪くなかったが、おまえには悪いことをした」
「そうですね」

 俺は足腰ろくに立たなくなりました。──と副音声を入れて、悪戯好きの迷惑なマッドサイエンティストを靜かに恨んだ。

 取り敢えず解ったのは、猫はあのサイズだから可愛らしいだけなのだ。気紛れに引っ掻かれても、ちょっと痛いと思う程度で済む。それに比べるまでもなく、160cmの筋肉のかたまりはただただ恐ろしいだけだ。触らぬハンジに祟りなし。祟られたリヴァイにも触らぬが祟りなし。とは言ってみても、今回のように腕力で抑え込まれればエレンにはどうしようもない。筋トレ頑張ろう。とエレンは深く切実に思う。そんな悲壮感からくる決意も虚しく、リヴァイはエレンを抱き締める。

「んッ……、」
「トゲはもうついてねえんだ。2ラウンドめといこうじゃねえか」
「いや、もう無理です……今日は……」
「明日なら良いのか?」
「当分しなくて大丈夫です! 俺は!」

 俺は足りねえんだが。と囁いた低い声がエレンの耳許で発せられると、間髪入れず、ヴェルベットのような舌と唾液で、リヴァイは耳を舐めてくる。敢えて優しく甘い愛撫を与えられて、矢張り自分はまた流されるのだろうと思いながら。

『…………猫の日、もう終わっちゃいましたよ』

 と呆れて呟く第3者の声をふたりは聞いた気がした。どこからやってきた声なのだろう。辺りを見渡してみても、自分たちふたりしか居ないのに、不思議な幻聴もあるものだ。
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -