「じっさま、じっさま! おい起きろよじっさま!」
物見の塔の爺やと呼ばれた老人は、胡坐を掻いて眠っていた。下向きの獣の耳に猿の尾を生やしたこの老人は自警団創設期からこの街を見ていた非戦闘団員だ。簡単にいうと伝達係という役職についている。
レイノルドがやれやれと呆れたように肩をすくめ、降参のポーズをチェルシーに見せた。
「駄目だ。じっさまは完全に夢の世界にいっちまってる」
「爺やったら・・・」
チェルシーは苦笑を浮かべると同時に、物見の爺やの脳天に拳骨を食らわせた。
「ぷじゅるる・・・ふンごっ!!」
「爺や、お起きになって?」
ニコニコと笑顔を浮かべるチェルシーと、苦悶の表情で脳天を押さえる爺や。対照的なその構図にレイノルドは冷や汗と苦笑を浮かべた。
「なんじゃ、チェルシーの嬢ちゃんかい・・・そんな乱暴な起こし方せんでもええじゃろう・・・」
「勤務中にお昼寝なさる爺やが悪いんです。 爺や、南通りのルーシェと東街道のネルアの行方がしれないのだけれど、見ていた?」
「ルーシェ坊とネルア嬢かい・・・・・・」
顎をさすさす、爺やは思い出すような仕草をする。そして、苦虫を噛み潰したような表情へと変わった。
「その二人なら一昨日の晩、獣人狩りに遭ってたのう」
「そう・・・・・・分かったわ。ありがとう爺や。 お昼寝なさらないでね」
チェルシーは唇を噛むと爺やにそう言い残し、塔を後にした。レイノルドは何か言いたげに爺やを見たが、やがてチェルシーの後を走って追っていった。