「グリーン、そろそろだよ!」
「おー、もうそんな時間か?」
「そんな時間だよ!早くしないと終わっちゃう!」
「あーはいはい。もうご飯の準備は出来てるっての」

出来上がったばかりの夕食をテーブルの上に置いていく少し呆れ気味のグリーンをよそに、私は少し興奮気味でテレビの電源を入れる。どうして私がこんなにも興奮気味なのかと言うと、なんと今日は「全国のジムリーダー、チャンピオン特集」が放送される日なのです。しかも今日の放送内容はイケメンジムリーダーとチャンピオンの特集だとか。彼氏の晴れ姿を見逃す訳にはいかないよね。イケメンジムリーダーと聞いて「あ、グリーン出るから見なきゃ!」と普通に思ったんだけど、ちゃんとグリーン出るよね?

「グリーン出るよね?イケメンジムリーダー特集だもんね?」
「イケメンジムリーダーっつったら正に俺の事だろ」
「腹が立つけど言い返す言葉が出ないのが悔しい」

テーブルに置かれた食事を食べ進め他愛のない話をしながら二人でテレビ画面を眺める。1番最初に画面に映ったのはジョウト地方のイケメンジムリーダーさんたち。

「さっすがジョウトのジムリーダーはレベルが高いね!」
「そうか?そうでもねえだろ」
「何言ってんの!ハヤトさんとか見てみなよ!」
「電気タイプでイチコロだな」
「マツバさん超イケメン!」
「俺の次くらいにな」

負けじと言い返してくるグリーンだけど、だんだん機嫌が良くない方へ向かっていくのが分かる。これは私のちょっとした意地悪で、グリーンも本気にはしてないけど言われたらそれはそれでやっぱり腹が立つ様子。私だってグリーンがどれだけイケメンか十分承知してるけど、そんなイケメンに嫉妬されるとか嬉しいじゃない。

「ああほら見て、デンジさんもすごくカッコイイね!」
「あー、あのオタクか」
「機械をつけなさいよ機械を」
「いや、でもデンジってむっつりスケベっぽくねえか?」
「アンタが言うなよ」

色んな地方のイケメンジムリーダーが映し出されるテレビ画面、その度に画面に映るイケメンを褒めちぎっているとだんだん静かになって黙々と食事を進めるグリーン。ちょっとやり過ぎたかもしれない、と苦笑を漏らし心の中で反省していると、画面にはカントー地方のジムリーダーが映し出される。

「あっ、グリーンだ」
「そうだな」
「うーん、グリーンってテレビ映りあんまり良くないね」
「本人を前にそれを言うのか。もうちょっとマシな感想が言えねーのか**は」

とても不機嫌そうに言い放つグリーン。馬鹿だなあ。目の前に本人が居るんだから、テレビ画面に映し出されたそれよりも本物の方がカッコイイに決まってるじゃない。その不機嫌そうに歪んだ顔ですら私は大好きなんだよ。なんて、言ったら調子に乗るだろうから絶対に言わないけれど。きっと私やナナミさんくらいにしかそんな表情は見せないんだろうな。でもテレビ映りが悪かろうが画面に映し出されたグリーンもイケメンなのは事実。

「…でもやっぱり、グリーンが1番カッコイイね。」

ついぽろっと出てしまった言葉にあっと思ってグリーンを見れば、食事を進めていた手を止め目を少し丸くさせたグリーンと視線がぶつかる。
それから口元を手で覆い「またオマエは…」とか言いながら目を逸らすグリーンは少し照れているようで、私の口元がゆるゆると緩んでいく。どうしたのグリーン、と顔を覗き込もうとすると「こっち見んな!」と怒られた。可愛かったのに残念。

「これでグリーンの名前が色んな地方に知れ渡って女の子のファンが増えたら、モテモテのウハウハだね」
「モテモテのウハウハって何だよ。っつーか今でもモテてるけどウハウハはしてねえよ」
「ちょっと、今でもモテてるとか地味に自慢しないでくれます?」
「事実だろうが」

確かに事実だけど、グリーンがイケメンでモテモテである限り私は安心出来ない。イッシュ、ホウエンとイケメンジムリーダー特集が終わった番組はいつの間にか終わっていてCMに変わっていた。ああ、これで女の子のファンが増えたら私はまたみっともない嫉妬をするんだろうなあ。だって私は人一倍独占欲が強いから。
この人と付き合っていく限り切っても切れない不安や嫉妬の負の感情、だけどイケメンでかっこよくてモテる所を含めてグリーンが大好きなのは事実。
そんな不安を感じ取ったのかグリーンは苦笑を漏らし口を開く。

「あのなあ、俺は**にだけモテてたら十分なんだよ」

そう言って小憎たらしいけど何処か優しげな笑みを浮かべるその表情も好き、大好き。この笑みも照れて少しだけ赤くなった顔もふて腐れたような顔も、テレビなんかじゃ絶対に見れないファンの女の子達が知らないグリーンの表情を私はたくさん知っている。これってちょっと優越感。私は嫌な女なのかもしれないな。

「またそんなかゆい事言ってくれちゃって…」

言葉とは裏腹に口元はゆるゆると緩むし、なんだか顔が熱くなってきたし。それに気付いてるんだろうグリーンの表情は軽くニヤついててちょっとムカつく。ムカつくけど好きっていうそれは強くなる一方。これはきっと、私がさっきグリーンを照れさせたからグリーンからのささやかな仕返し。

「照れてんのか?」
「んな訳ないでしょ」
「我慢は身体によくねえって。ほら正直に言ってみろよ」
「うううるさいっ!」


そんなキミが、大好き。
(なあさっきの録画してんだろ?)
(当たり前でしょ。後でグリーンのとこだけ100回見直すんだから!)
(勘弁してくれ)



イケメンジムリーダー、チャンピオン特集の視聴率が気になる




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