「…また、来たの」
「そりゃあレッドさんに勝つまで挑戦し続けますよ!」
「………そう」

レッドさんとバトルをしたのは、これで何回目だろうか。
幾度となく挑んでは、もうかれこれ20回くらいは返り討ちにあっているかもしれない。
最初の頃は初めてバトルに負けた事が本当に悔しくて悔しくて、絶対に勝ってやると意気込んでレッドさんに挑戦していた。
だって一度もバトルに負けた事がなかったんだもの。
ポケモンリーグチャンピオンのワタルさんにだって、カントー最強の砦であるトキワジムのジムリーダーのグリーンさんにだって負けなかったこの私が。
初めてレッドさんとバトルをしたあの時、レッドさんの圧倒的な強さの前に私のプライドはズタズタにされてしまった。
それが悔しくて幾度となくこのシロガネ山に足を運んで、レッドさんに挑戦し続けてきた。
まだ一度もレッドさんに勝てた事はないけれど、何度か挑戦していく内にその悔しさは違うものへと変わっていった。

レッドさんのバトルセンス、ポケモンへの的確な攻撃指示や瞬時に戦況を見分けるその様に、あれよあれよと圧倒されて。

こんなバトルをする人が、いたんだ。と、日を追う毎に私はレッドさんに魅了されていった。悔しくて挑戦していたそれはもう、今ではレッドさんのその様を見たいが為にこの場所へ足を運んでいるんだと気付いてる。
もちろん、バトルに負けて全く悔しくない訳ではないけれど。

ただただ、レッドさんの強さに惹かれていく。

もう私は、貴方の虜。

だけど彼の強さに惹かれていく度に、彼がひどく遠い存在なのだと感じてしまうの。
手が届かない。きっと貴方には、私みたいなちっぽけなトレーナーの姿なんか見えちゃいない。そんな気がして。
それでも彼に挑戦し続けてしまうのは、そんな彼の姿をこの目で見ていたいから。
レッドさんの圧倒的なその強さをこの目に焼き付けて、見せ付けてほしいから。
それなのに、どうしようもなく胸が苦しいの。この想いもトレーナーとしても、貴方には届かないと分かっているから。

貴方には、貴方のその瞳には、

私の姿が映ったことなんて、きっと一度たりともない。

「シャワーズ!アクアテー…」
「…ストップ」
「…え、レッド…さん?」
「ねえ、喧嘩売ってる?」
「な、なに言って、」

突如口を開いたレッドさんの言葉に、私は目を丸くする。
ふっ、とため息混じりにピカチュウを呼ぶと、「今日はもういい」とレッドさんは帽子を深くかぶり直した。
ポーカーフェイスはそのままに、だけどもピリッとした雰囲気がレッドさんから醸し出されているのが分かる。

「れ、レッドさん…」

何故いきなりこんな事になったのか分からないまま、恐る恐るレッドさんを見上げる。
するとレッドさんは、肩に乗ったピカチュウを優しく撫でながら口を開いた。

「…なまえが何を考えてるのか知らないけど、バトルの時はバトルに集中して」
「……っ、」
「…俺は、なまえとのバトルが好きだから」

他の誰とのバトルよりも、なまえとのバトルが好きだから。
その言葉はまるで魔法みたいに放たれて、私の心を強く強く突き動かして。
どくん、と一回大きく跳ねてから、どくどくと小刻みにその回数を刻んでいく。
そんな事を言われたら、勘違いしてしまうじゃないか。

レッドさんの瞳の奥に、今にも泣いてしまいそうな情けない私の姿が映っている。

彼の瞳が、私の姿を捉えた。

それはまるで、全てを見透かしているような鋭い視線。

…ねえ、レッドさん。これは私の思い過ごしなのかな。
もしかして貴方も、私のことを見ていてくれてたの?

貴方のその瞳に、私を映してくれていたの?

「わ、私も、好き…!」
「…俺とのバトルが?」
「ば…バトルも、レッドさんもっ…!」

涙目になった私の姿をレッドさんはその瞳に映しながら、ふわりと笑みを浮かべた。

「…うん。知ってる」

だって、俺もそうだから。

ふわりとした笑みを浮かべるレッドさんは私の頬に手を伸ばし、知らず知らずの内に頬を伝っていた私の涙を指で拭う。
ふわりと触れたレッドさんの指先は優しくて、初めて触れたその温度はひどく暖かい。
その温度は、ひどく遠いと感じていた彼との距離が、少し近付いた事を示していて。

彼のゆらゆらと揺れる瞳には、泣きじゃくる私の姿が映っていた。

その瞳に映して、
きっとこの先も、私の瞳には貴方の姿しか映らない。


―――――――――――――
るみさんへ相互記念!切甘という事でしたが、何やらよく分からない事になってしまい…申し訳ありません。




- ナノ -