俺の計画は完璧だ。
なまえの誕生日を翌日に控えたグリーンは確かな自信を感じていた。

一週間前から考えた誕生日計画に抜け目はない。
用意したプレゼントに、予約したレストラン。
なまえは派手なことはあまり好まない質なので、予約したレストランはそれほど堅苦しい所ではない。

今回はサプライズをするより「なまえの好きなように楽しんで貰いたい」と思ったグリーンは、できるだけいつもは聞かないわがままも聞くつもりでいた。

「なまえ、明日誕生日だろ。どっか行きたいとことかあるか?」

その日、俺は夕食を食べながらさりげなく話をふった。
なまえの言動はいつも突拍子ないから、行きたい場所も見たいものもころころ変わる。

すると、なまえが少し驚いたように食べる手を止めて顔を上げた。
俺はどんなことも聞き逃すまいと内心身を乗り出す。

しかしなまえは、へらりと笑ってあっさりと俺の予想を飛び越えた。

「あれ、そういえば!ううん、別にいいよー。お互い子供じゃないんだし、わざわざ外とか行かなくても」

……あ?
身構えていた肩の力が一気に抜けていく。

「グリーンもいっつも忙しいんだし、たまには家でゆっくりしたら?」

最後に付け足された言葉がとどめになって、思わず言葉に詰まってしまった。

こいつのこういった言動はかなり珍しい。
嬉しいのだが、つんけんした言葉の裏に見える(おそらくなまえにとって精一杯の)気遣いが断りにくさを増していた。
もしここで断ったら「せっかくグリーンのためを思って言ってあげたのに!」とか言って逆ギレしかねない。

「あ、ああ、なまえがそうしたいなら俺は何も言わねえけど……」

必死に平静を保ちながら、ごまかしついでに作り慣れた酢豚を箸でつついた(なまえの好物で、散々作らされたからか高級レストランもびっくりな味になっている)。

「……なんか欲しいもんとかはねえの?」
「いっつも貰いすぎてるくらいじゃん、いいよ」

最後の悪あがきもざっくり切り捨てられ、俺は密かにものすごい沈んだ。

……俺の計画は完璧だった。

(完璧な、はずだったよな?)

悪気がまったくないのがさらに質悪ぃよ。
俺は胸中で静かにため息をついた。


***


「はよ、なまえ。誕生日おめでとう」
「おはようグリーン。やめてよ、もう増えて喜ぶ歳じゃないってー」

翌日。からからと笑うなまえにパンケーキと紅茶を出すと、「さすがグリーン。ヨーロッパみたい!」となかなかいい意見をもらって少しだけ気が晴れた。……普段も時々作っているからプレゼント代わりにはならないが。

(家デートか……)

計画を練り直す暇もなくやってきた誕生日に頭を抱える。
しかし俺がどうするか悩んでいるうちに辺りはどんどん暗くなり、結局ケーキを食べたこと以外は普段と何も変わらない日を過ごしている。


なまえが事の発端となった言葉を呟いたのは、その日の夜のことだった。

「グリーン、私といるのつまんない……?」
「あ…!?」

思わず目を見開いた後で、真意が分からず顔をしかめる。
思えばいつも話しかけてくるはずのなまえが今日は静かだった。

「……どうしたんだいきなり。つまんないわけねえだろ」
「だって、今日ずっとそうじゃん。考え込んでる」

(……ああ、そういうことか)

拗ねたように言うなまえの横顔を見て、長年の付き合いであるこいつ相手に感情を隠そうとした俺にため息をついた。

(なんか俺、情けねえな……)

計画計画って、いくら上手い計画立てたってなまえが喜ばねえと意味ないのにな。

「や、なんでもねえよ。……悪いな、気ぃつかわせちまって」
「ううん。大丈夫ならいいけど……」

どこか釈然としない様子のなまえに手を伸ばしてぽんぽんと頭を撫でる。
なんとなく、そのまま手を引きたくなくて腕をつかんでなまえをぎゅうと抱き寄せた。

「…ぐ、グリーン!?」
「わり、もうちょっとだけ」

最初からこうすればよかったんだ。
構わず腕に力を込めると、しばらくしてなまえはおずおずと俺の背中に手を回した。

勝手に喜ばせようとして勝手に沈んで、我ながら俺って馬鹿だなーと苦笑した。
なまえが楽しそうにしてたら、俺はそれでいいはずなのにな。

「なまえ、これやるよ」
「あ、それって……」

諦めかけていたプレゼントのネックレスを取り出し、なまえにつけてやる。

一瞬驚いた顔をしたなまえはしかし、すぐに柔らかく笑って「ありがと」と呟いた。


For you
「……私、金属アレルギーだけどね」
「ええっ!?」



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るみちゃんからお誕生日プレゼントにいただきました!ヒロインちゃんが私過ぎて嫁が嫁過ぎて本当においしすぎた…!
るみちゃんには感謝しきれません。こんなおいしい話を書いてくれて本当にありがとう…!




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