「ねえ我愛羅くん、」
特に用事はないんだけど、我愛羅の名前を呼んだ。用がないって分かったら、我愛羅はきっと怒るんだろうな。 でも、呼んだ。なんか呼びたくなったから。
「…なんだ」 「…呼んでみただけー」 「用がないなら呼ぶな。」 「いや、呼びたい」 「黙れ」
ほら怒った。そんなに怒らなくてもいいのに。砂肝ばっかり食べてるからカルシウム足りてないんじゃないの? 風影さまのお仕事が忙しいのは分かるけど、毎日毎日そんなに眉間にシワ寄せて仕事してたらいつか禿げるよ、我愛羅。あのバキさんだってね、最近私に頭皮の悩みを打ち明けてきたんだよ。その時のバキさんったらもう、そりゃあ深刻そのものだったよ。
「……、ナマエ。」 「、はいっ!」 「…呼んだだけだ」 「えっ、用事は?」 「特にない。」 「なにその期待させといて落とす的なプレイ!」 「お前も俺に同じ事をした」 「…期待してたの、我愛羅」 「…、別に」
無心そうに見える我愛羅の瞳は、一瞬泳いでからまた報告書へと戻された。我愛羅の瞳が泳ぐのは照れている時の癖なんだけど、気付いてるんだろうかこの人は。期待してたとか、可愛い奴め。
入れ替わり立ち替わり、任務を終えた忍たちが続々と風影の元へ報告書を届けに来る。 その間、私は忙しそうな風影さまを見つめたり「今日もいい天気だ」なんて空を眺めたり、ああやって意味もなく我愛羅を呼んでみたり。言ってしまえば暇だし我愛羅の仕事の邪魔をしてると思われても仕方ないけど、ゆるゆると流れていくこの時間が非常に心地いい。この、イチャつく訳でもないふわふわとした時間がとても好きなのだ、私は。
「ナマエ、」 「なーに?」 「そろそろ時間だ」 「今日は終わるの早いね」 「そうだな」 「じゃあ帰ろう、お家に」 「ああ、」
報告書を片付けた我愛羅は椅子から腰を上げ、私の方へ歩み寄ると手を差し出す。差し出されたその手を取って、私は自分の指を我愛羅の指におずおずと絡ませた。 普段の我愛羅は世の中の恋人同士がやるような行為を滅多にしない。だから、ふとした時に訪れるこういう時間がとてつもなく恥ずかしく感じる。こうして手を繋ぐそれだけでもくすぐったくて恥ずかしい。でもその、恥ずかしいくらいが私たちには丁度いいんだと思う。普段は無表情に近い我愛羅が私だけに優しげに微笑む。繋がれて絡まったお互いの手の温もりは、恥ずかしさで体温が上がってしまった私たちにとって少し熱いくらいだけど。
「…我愛羅、」 「?」 「……好き、」 「………ああ」 「…大好き、」 「…ああ、知ってる」 「大大大好きです、」 「しつこいな、」
恥ずかしいのか顔を背ける我愛羅は、私の告白のお返しと言わんばかりに繋がれた手にぎゅうっと力を込めた。絡み合う指のその熱いくらいの温もりが、普段は無口な我愛羅から感じ取れる愛情。
(…手がべたべたしてきた) (…離すか) (やだよ、このべたべたも我愛羅からの愛情だから離したくないっ)
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