それは何よりも怖い、


「…ナマエ」
「ん、どうしたの我愛羅!」
「お前も、いずれは俺の前から居なくなるんだろうな」
「…え、ちょっとなに言ってるかわかんないです」
「居なくなるのだろう?」
「いやー…そんな予定は全くないんですけど…」

頬をかきながら苦笑を漏らすナマエ。どうしてそんな事が言えるんだ。人間なんだから俺もナマエも、遅かれ早かれいつかは死ぬだろう。
ナマエが居なくなってしまったら、俺はこの世界でどうやって生きていけばいい。
ナマエが居ない世界なんて生きてる意味がない。ナマエが居ない時俺はどうやって生きてきただろう。
独りはいやだ。もうあんな思いはしたくない。したくないんだ。不意に視界がぐにゃりと歪んだような気がして、掌に力を込めた。

「がーらー!」
「…なんだ」
「ぎゅーしてあげよっか?」
「………、」

聞いてきたくせに、ナマエは俺の返事を聞かず俺の身体を抱きしめる。死んだら、もうこうする事も、ナマエに触れる事も、ナマエの笑顔を見る事も出来ない。
過去にあれだけの事をしておきながらこんな事を思うなんて、俺はどうかしてる。ナマエの匂いが鼻先に触れて俺の中はナマエの存在で溢れ返った。同時にナマエが頭を撫でるものだから、我慢をしていたのにじわりじわりと視界が歪んでいく。それを隠すかのようにナマエは俺の身体を強く抱きしめ直した。

「ほらほら泣かないのー」
「、泣いてなどない」
「いい子だねー我愛羅は」
「あやすな、」
「はいはいよしよし」

ああなんて情けない。
これが里の長を務める者の姿なのか。だが風影である前に俺はひとりの人間だ。

「、ナマエ」
「んー?」
「…俺を、」
「、?」
「……置いていくな、」

自分の口から出たとは思えないくらいの情けない震えた声を吐き出した。ナマエは俺の声がどれだけ小さくてもそれを拾う聴覚を持っている。これを最初に知った時はこいつ本当に人間なのかと疑った。

「置いてかない置いてかない。だって置いてったら我愛羅が泣いちゃうから」
「、だから泣いてなどない」
「我愛羅ってさーホントに甘えたさんだよねー」
「…、」

ぐしゃぐしゃと少し荒めに俺の頭を撫でるナマエの手は暖かくて心地好い。
あまりにも心地好いものだから、また視界がぐにゃりと歪んで水がぽろりとナマエの肩にこぼれ落ちた。お前は俺を置いていくな。お前は俺より先に死ぬな。お前はいつもふざけて馬鹿をやって、俺の隣で笑っていろ。そしてたまに、こうして俺の泣き顔を隠してくれるだけでいい。

それだけでいいから、


(自分が死ぬのは怖くない。だが、お前が死ぬのは何よりも怖い、)

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