Sランクの過酷な任務で疲れた体を休めようと家に帰ってきたら、家の中で火遁の術でも練習していたんじゃないかっていうくらい部屋のそこら中に燃えたような跡がついていた。あとなんか焦げ臭い。
「…ナマエ、何してたのヨ?」 「な、何って…料理の練習、かな?」
練習かな?ってなんでそこ疑問形なのよ!いやそもそも料理の練習してただけなのに、なんで部屋の中がこんなにも燃え散らかってんのヨ!家の中がこんなにこんがりしちゃってる状況初めてだヨ!通りで任務の帰り道で近所の人たちからヒソヒソ話と異様な視線を感じてた訳だーね。 「カカシ上忍のお家焦げ臭いんだけど大丈夫なのかしらね」っていう視線だったからネーあの目は。 水遁が得意なナマエのおかげか家が全焼するっていう被害だけは免れたけど、部屋の中は焦げ臭いし水でびちゃびちゃだし。これ誰が片付けると思ってんのヨ。俺に決まってるでしょーよ!
「なんで料理の練習?ナマエ料理するの苦手でしょ?」 「だ、か、ら、練習!…私だって乙女なんだからカカシに美味しいご飯作ってあげたいって思ったんだけど…」
なかなか上手くいかなくて、と頬を指でぽつりとかきながらはにかんだように笑って俺を見上げるナマエ。その台詞と仕種はとても微笑ましいもので思わず口元が緩んでしまうけど、背景が燃え散らかっているだけに笑顔が引き攣ってしまう。どうやって練習したらこんな状況になってしまうのかが不思議だ。だけど料理を作る事が苦手なはずのナマエが俺の為を想って苦手な料理を作ってくれようとしてくれたそれが、嬉しくないはずがない。
「…まっ、これだけ燃やしてナマエに怪我がないのが何よりだけど」 「最近綱手さまに医療忍術も教わってるからね!」 「怪我したのね。…全く、あんまり無茶はしないでちょーだい」
任務ではしっかりしているはずのナマエだけど毎回よく解らないところで怪我をしたり(何もない場所でこけたりとかそれこそ古典的なボケをかましたり)するから、心配になって胃が痛くなる俺の身にもなってちょーだい。まっ、そこがナマエの可愛らしいところでもあるんだけどネ。
「ねえカカシー」 「ンー?」 「私の手料理食べたくなーい?」 「うーん…」 「なにその曖昧な返事」
いや、だってねえ。ただ練習してただけでまるで火遁を使ったように燃え散らかした状況になるナマエの手料理でしょ?そりゃ愛しい恋人の手料理とか食べてみたいのは山々だけど、料理が出来上がって食べるというそれにたどり着く前に火事で死ぬんじゃないの俺。それか料理が出来上がっても炭みたいに焦げ焦げになってるか。もうそんなの料理じゃないじゃない。
…あ、そーか。それじゃあこうすればいい。
「ナマエ、今日は俺と一緒にご飯作ろうか?ネ?」 「なにそれ楽しそう!」 「でしょ?じゃあ一緒にお部屋片付けよーネ」 「ラジャー!」
何やら嬉しそうに部屋を片付け始めるナマエを見て自然と口元がゆるゆると緩んでいく。無邪気で可愛い恋人の為、ここは一肌脱ぐとしますか。
*
「ナマエー!」 「カカシのー」 「お料理ー!」 「「じゃんじゃーん!」」
俺は左手におたまを持ちながら、ナマエは右手にクナイを持ちながら昔やっていた料理番組のノリで始まった夕食作り。今日の夕食は唐揚げを作ろうと思うんだけど…うんごめんちょっと待ってちょーだい。ナマエは右手に何を持ってるって?
「…ねえナマエ、」 「なに?早く作ろうよ!」 「いや、うん。作りたいのは山々なんだけどネ?ソレ、何?何に使うつもりなの?」 「え、どっからどう見てもクナイだけど?カカシってば忍のくせにクナイも解らないの?」 「うん。クナイだって見れば解るけどネ、俺が知ってるクナイは人を殺す忍具だからね」 「えっ!クナイ使わないの!?」 「そんな血生臭い忍具で作る料理なんて嫌でしょーよ!」 「そ、それもそうか…!」
ひとつ勉強になった!とクナイを仕舞うナマエ。開始早々酷いボケをかましたナマエを見てこの夕食作りの今後が不安で埋めつくされていく。前途多難だーねこりゃ。
「でもさ、じゃあどうやって野菜とか切ったりするの?」 「この包丁っていう調理器具で…ってナマエ、練習してた時なに使ってたのよ……ってまさか、」 「うん、クナイ使ってたよ。でもちゃんと洗って血は落としたから問題な」 「そういう問題じゃないでしょーよ!クナイの使い方教わる時に野菜の切り方なんて教わってないでしょ!」 「そういえば教わってない…!」
こんな事でナマエと一緒にちゃんとした夕食を作りあげる事が出来るのか?俺の胸の内には不安だけが募っていくままナマエとの夕食作りはまだまだ続く。
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