※現パロ


「……ん…?」

なんかやけに寒いな、と思って身体を震わせながら目をうっすらと開ければ、かぶっていたはずの布団がない事に気付く。
あれ、おかしいな。とごろんと寝返りをうつように身体を回転させれば、すぐ隣には私に背中を向けるようにして眠っているトウヤの姿があった。
ゆっくりと上半身を起こしてトウヤを見ると、二人でかぶっていたのだろう布団を一人占めにして、それを足の間に挟み抱きまくら代わりにしながら規則正しい寝息を立てている。
通りで寒いと思った。もし私が風邪でも引いたらトウヤのせいだからね全く。こっそりとトウヤの顔を覗き込めば、いつも見せる妙に大人っぽい表情とは掛け離れていて。

「…可愛い顔して寝ちゃって」

その無邪気な子供っぽい寝顔に、くすりと頬が緩む。
普段のトウヤからは想像がつかない可愛らしい寝顔に、なんか胸がぎゅーってなる。
トウヤが眠っている事をいいことに、私は彼の綺麗な頬にちゅっとキスを落とした。
気持ち良さそうに眠っているトウヤを起こしてしまうのは可哀相だ(というか寝起き悪いから起こしたら後が怖い)から、そっとしておこう。
私は顔を洗いに行く為にそーっと忍び足で寝室を出た。



「………なっ、なんじゃこりゃあっ…!」

寝室を出た私が洗面台にある鏡に映った自分を見て言った一言が、これだった。
鏡に映った寝起きの私にはいつ付けられたのか知らないけれど、蚊にさされてかいちゃいましたとはさすがに言い訳出来ない赤い点々とした模様が、それはもう首から胸元にかけてくっきりと見事に付いていて。
鏡に映り込んでいる首に点々としたいやらしい赤い模様を付けた自分がなんだか恥ずかしくて、思わずそれを手で隠した。

「〜っ、トウヤのやつ…!」

洗面台から慌ただしく出てバタバタと寝室のドアをバンっと開ければ、トウヤはまだベッドの上で気持ち良さそうにすやすやと寝ていた。コノヤロ…!
さっきまでの気遣いはどこへやら、起きろ!とトウヤが抱きまくら代わりに足の間に挟んでいた布団を剥ぎ取り、寝ているトヤの身体を荒々しく揺さぶる。なんだよ、と眉をしかめながらうっすらと目を開けるトウヤを見て、眉をしかめたいのはこっちだと思った。もうしかめてるけども。

「ちょっとなにしてくれちゃってんのトウヤ!」
「…朝から元気だなー」
「そりゃうるさくもなる!」
「ん、いいことじゃん。寝る」
「寝んな、起きろ!」

とろん、と眠たそうな目をして再び夢の中へ入ろうとするトウヤの身体を、そうはさせるか、とゆっさゆっさと揺さぶる。

「…なに、どーした?」
「コレ!コレなによ!」

自分の首筋に指を差しながら必死に訴えれば、きょとん、とした顔をしたトウヤが言う。

「…分からねーの?どう見てもキスマークじゃん」

トウヤの口からはっきりとそう言い放たれて、恥ずかしさが一気に増した。
堂々と言ってんじゃないよ!なに考えてんの!

「いいい言われなくても分かってるよ!」
「じゃあ聞くなって」
「私が聞きたいのはなんでそれが付いてるかって事!」
「なんでって…口で付けた」
「あー…言葉って難しいね。じゃあどうして!?」
「どうしてってこう…こんな感じで吸って、」
「ちょっと実際にやんなくていいから!離れてよ!」

私の身体をぐいっと引き寄せて、もういくつも赤い痕が点々と付いているそこにまたしても付けようとしやがるトウヤの身体を押し返した。
私が何を聞きたいか分かってるくせに、絶対わざとやってる。

「〜っ…じ、じゃあなぜ!なにゆえ!」
「付けたかったから」

悪い?ダメなの?と視線で訴えてくるトウヤを見て、怒る気力がガクッと消沈した。
良い悪いとか、そういう事ではなくて…こんなの人に見られたら恥ずかしいでしょう!

「…もう、こんなの絶対店長にセクハラされる…」
「は、××セクハラうけてんの?そいつ潰そう」
「真顔で怖いこと言わない!セクハラっていうか…あれだよあれ。言葉のセクハラ」
「…どんな?」

バイト先の店長は、私がちょっと寝不足気味なだけだった時もにやにやしながら『夜激しかったの?』とか言ってくる始末なんだもん。
こんなの見られたら『若いコは大胆だね〜』とか嫌味ったらしく言ってくるに決まってる。

「…なんだそれ、ムカつく」

ちっと舌打ちをするトウヤ。
いや、もしこれで店長から言葉のセクハラを受けたら、トウヤのせいなんだけどね。
自分がした行為を棚に上げるトウヤに苦笑が漏れる。

「…ねえ、なんでこういうの付けたがるの?」

くあぁ、と欠伸をしながら伸びをするトウヤの横顔に問う。
するとトウヤはなんで分からないの?というような顔をしながら手を伸ばし、自分が付けた赤い痕を指で優しく撫でる。
ギシッと小さく鳴ったベッドの音と、首に触れたトウヤの指の優しい感触に思わず私の身体がびくりと跳ねた。

「…××は俺のっていうしるし、だから」

言いながら、にっと綺麗に曲線が描かれたその顔がなんだか色っぽくて見とれていたら、気付いたらその顔は私の首筋辺りに埋められていて心臓が跳ねる。
トウヤの髪からシャンプーのいい香りがして、ふわりと鼻を掠めたそれに少しくらくらした。

「…でも、それなら指輪とか、他にもあるじゃん」
「…どこにでも売ってるじゃん、それは。そんなんじゃ意味がないから」

首元で喋られて、トウヤの口から漏れる吐息がちょっとくすぐったい。心臓もうるさい。

「…でも、これは俺だけが××に残せるしるしだから」

首筋に顔を埋めたトウヤは自分が付けたその赤い痕を、つつっと唇で優しくなぞっていく。
あんまりにも愛おしそうに触れてくるものだから、柔らかい唇のその感触に、ぞわぞわとした何とも言い表せられない感覚に襲われながら身体を強張らせた。

「…他のヤツには絶対同じもん作れねーじゃん」
「……トウ、」

私が言葉を紡ぐより先に、トウヤの唇が私の唇を塞いだ。

……悔しいな、悔しいけど、何も言い返すことができない。
あんなに怒ってたはずなのに、今じゃもう「店長から嫌味くらい言われてもいいや」なんて馬鹿なことを考えて、満たされちゃってる。

トウヤからの長い長い口付けからやっと解放された私は、少し息を荒くさせながらトウヤの首筋に噛み付いた。

このままだと悔しいから、仕返しのつもりで。

「…いってーよ、ヘタクソ」
「なっ、しょうがないでしょ!初めてなんだから…!」

この赤い痕がどれだけ恥ずかしいか、トウヤも自分の身をもって味わうべきだ。
それでトウコちゃんとかチェレンくんからとか、セクハラを受けてしまえばいい。

だけどトウヤは私の思いを知ってか知らずか余裕たっぷりな笑みを浮かべながら、満足そうに私に付けられたばかりの赤い痕を愛でるように指先で撫でていた。


それは、あいのしるし
(トウヤそれ、キスマークじゃないの…!?)
(…あー…羨ましいだろ?)
(…××って、意外と大胆なんだな…)





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