幼い頃、俺とレッドの後ろを必死に着いてきた少女は今ではその頃と全く別の姿に変わった。
幼い頃はいつも恥ずかしそうに顔を俯かせていた少女は、今ではいつも凛と顔を上げていて。
はにかんだような笑顔が可愛らしかった少女の表情は、今ではすっかり大人びた表情になって。少し臆病でやや控えめだった性格は、今ではやたら勝ち気でクールな性格になり。
そんな「思い出の中の少女」を思い返しながら、その「思い出の中の少女だった」彼女にちらり、と視線を向けた。
彼女は俺の視線に気付いているのかいないのか、真剣な眼差しを雑誌に向けながら、俺に向かって一言、

「グリーン、お茶。」

…おい、人に物を頼む時くらいこっちを見ろ。

「…お前な、」
「あ、紅茶でもいいよ。いや紅茶にして」
「自分でやろうって気は?」
「聞く事が間違ってるよ」
「ああそうかよ」

一体誰が、彼女をこんな姿にしてしまったんだろうか。
いや、犯人は恐らく俺なんだろうけど。幼い頃から彼女が可愛くて可愛くて仕方がなかった俺は、愛故に××を甘やかしてしまったのだ。
それは現在進行形で、たった今××に頼まれた紅茶をいれるというそれも、俺は大人しく聞いてしまっているんだ。
××の頼みは断れない。というか、断るつもりは毛頭ない。
ほらよ、と熱々の紅茶をいれた湯気が立つマグカップを××に渡せば、××から降ってくるのは「ありがとー」という言葉とつい見とれてしまう微笑み。はにかんだような可愛らしいその笑顔だけは、いつまで経っても昔と変わらない。

「…お前、変わったよな」
「何が?」
「まあ色々と」
「…そうかな。でもグリーンはあんまり変わらないよね。昔から優しかったもんね」

昔を思い返すように笑いを含ませながらマグカップを口に運び、××は言葉を続ける。

「…グリーンが優しいから、私がこんな風になっちゃうんだからね?」

グリーンが優しすぎるから、私はグリーンに甘えたくなるの。
そう言った××は微笑みながらも恥ずかしかったのか、少しだけ頬を赤く染めていた。
…ああもう。そんな可愛い顔しながら可愛いこと言ってんじゃねえよちくしょう。
でもな、××。それは違う。違うんだよ。
俺が優しいから××が甘えたくなるんじゃなくて、俺が××に優しくするのは、ただお前に甘えてほしいからなんだ。
なんて、口が裂けてもそんな事は言えやしないけど。

「…まあお前を甘やかすのは、俺の特権だから」

呟くようにそう言えば、××は驚いたように目を丸くさせて、見る見る内に頬の色が淡い赤に染まっていく。

「…だから甘えるのは、俺だけにしろよ」

耳元でそう囁けば淡い赤に染めた頬を緩ませて、××はふわりと笑った。

「…甘やかすのは私だけにしてね?グリーンに甘えるのは、私の特権なの」

…全くこれだから、××を甘やかすのは止められない。
きっと俺はこれからも、こうして××を甘やかし続けるんだろう。××みたいな我が儘な女の言う事を聞く男なんて、きっと俺くらいのもんだから。
俺が責任もってお前の言う事をいつまでも聞いてやるよ。


二人の特権
甘やかすのも甘えるのも、キミじゃなければ意味がない。




- ナノ -