「じゃあ××、まずはこの鶏肉を食べやすい大きさにぶつ切りしてちょーだい」
「よしAランク任務きた!見よ私のこの包丁さばきを!」
「いやこれDランクくらいだけどネ。指は切らないでちょーだいよ」
「分かってるってばよ!」
「どこのナルトなのヨ」

冷蔵庫から取り出した鶏肉をまな板の上に置き鶏肉は××に任せる。
今度はどんなボケを披露してくれるのか(××がボケをかます前提で)見ていると、××はまな板に置いた鶏肉から少しずつ遠ざかっていき包丁をダーツのように掲げた。うん、もう何もかも間違いだよ××。包丁をダーツのように掲げる乙女とか生を受けて20何年間と生きてきた中で初めて見たし、狙いを定めてるのか片目閉じてるけどそんな狙って切るもんじゃないよ唐揚げの鶏肉って。なんでそんなにハンターみたいな鋭い目しちゃってるのヨ。恐いよ××!どこぞの砂隠れの里長みたいだヨ!

「どぅるるるる…」
「はいドラムロールストップ!」
「止めないでよカカシ、気が散るじゃない!外れてたわしになっちゃったらどうすんの!」
「俺はこの状況どうすんのだヨ。たわしって何よソレ!今は唐揚げ作ってるの!ダーツもなけりゃたわしもないでしょーよ!」
「ご、ごめん…ついノリでやってみたくなっちゃって…てへっ!」

くっ、舌だしなんてそんな可愛らしい行動でごまかそうったって…いやー全く、××はどんな仕種も可愛いから困っちゃうよネ。…いかんいかん、危ないよごまかされてるよこれ!

「てへっ!じゃないでしょーよ!いーい××?包丁は調理器具だけど一歩使い方を間違えたらそれこそクナイみたいに危険な凶器になるんだヨ!だからふざけないでちょーだい!」

分かった?と一喝してやると××は反省したのか小さく「はーい」と返事をして、しゅんっと大人しくなった。少しきつく言い過ぎたかな、だけど××に怪我をさせたくない俺の気持ちも分かってちょーだい。なんて思いながら××に包丁の本来の使い方を教えていく。

「左手はネコの手だヨ」
「こんな感じ?」
「そうそう。ちゃんと出来てるじゃない。それで右手に持った包丁で鶏肉を切る!」
「切る!」

まさか夕食作りで包丁の使い方から教える事になるとは。子供向けの料理教室でも開いているかのような気分だ。それでも楽しそうに手を動かしている××を見ていると俺まで楽しくなる訳ですよ。たまにはこういうのも悪くないかな、なんて思ったり。若干ツッコミに疲れるけどネ。

「カカシー次はー?」
「鶏肉に下味をつけてから衣をまぶして揚げるんだけど、油使うし危ないからここは俺に任せなさい」
「了解です!じゃあ私は鶏肉に下味つけて衣つけるね!」
「ン、頼んだヨ」

これまたどんな酷いボケをかましてくれるんだろうと××をじっと見ていると、意外にもすんなりと下味をつけて鶏肉に衣をまぶす××。やれば出来るじゃないのよ、うん。次々に鶏肉に衣をまぶしていく××の表情は真剣そのもので、誰にでも出来るような作業を真剣に取り組む××のその様子が可笑しくて苦笑を漏らした。部屋を燃え散らかしながら料理の練習をしていた時も××はこんな表情をしていたんだろうか。
苦手な料理を作ろうとしてくれるほど××に想われていたなんて、自分が思っていた以上に俺は××に想われているようだ。そして自分が思っていた以上に俺は××を想っているんだという事を知る。
××が衣をまぶした鶏肉を揚げていると食欲をそそる香りが辺りに広がり、××は待ちきれない様子で俺の周りをうろうろとする。揚げ終えた唐揚げをお皿に盛り付けると「カカシ天才!男前!さすがコピー忍者!」と意味が解らない褒め言葉を嬉しそうに叫ぶ××を見て、少し呆れながらも口元はゆるゆると緩む。

あー、口布してて良かった。

最初はどんな酷い夕食になるのかとヒヤヒヤしたけど思っていたよりも美味しそうな唐揚げが出来たのは俺のおかげだと思う。やっぱり俺ってすごい。さすがコピー忍者だよネ。こんな自分を褒めたたえてあげたい。

「早く食べようカカシ!」
「はいはい。じゃあいただきますしようか××」
「はい!いただきまーす!」
「ン、いただいちゃって」

ぱくり、と同時に唐揚げを口に運ぶ俺と××。××がクナイで調理をしようとしたりダーツをし始めたりと途中良からぬ事態が起きながらも何とか作りあげた唐揚げは、なかなかにいい味をしていて俺と××は顔を見合わせた。

「おいしい、ね」
「…そーだネ」
「まあ、全部カカシが作ってくれたような感じだけど」
「なに言ってんの××。二人で一緒に作ったからこれだけおいしいのが出来たんでしょーよ」
「そっかあ…そーだね。このご飯には私とカカシの愛がてんこ盛りだね!」
「そ。そーゆう事。」

自分で作った料理も美味しいけど、二人分の愛がてんこ盛りに詰まった料理は更に美味しくなる訳だ。

やっぱり料理は"愛情"という名前のスパイスが決めてだネ、うん。

もしこの先××が俺に料理を作ってくれたその時は、どんな真っ黒焦げな料理を出されてもちゃんと食べよう。××の愛がたくさん詰まった料理だから、見た目が悪かろうが美味しいに違いない。


(××、これで唐揚げは一人でも作れるでショ?)
(えっ?いや、私作る側じゃなくて食べる側専門だって気付いたから)
(………あ、そうなの…)




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