見られてる。すごく見られてるよ。もう全身に穴があいてしまいそうなくらい彼に見られてる。しかも無表情で見てくるからかなり恐いんですけど。でもずっと見てくる割には話し掛けてくる要素はどこにもない。
ただ、ひたすらずっと見てくるだけ。何なんだろうなあ。自意識過剰?いやそんなんじゃない。視線を合わせたら合わせたでばっと逸らされてしまうし。意味がわかんない。誰か教えてくれ、マジで。



席替えをしたら我愛羅くんの隣の席になってしまった。嫌ではないけどわたしをじっと見てくる意味がわかんないから困った。だってこれから一ヶ月、隣の席から真横からあの視線を注がれることになるんだよ。授業に集中できないじゃないか。元々集中なんてしてないけどさ。
とりあえずどうしよう。社交辞令で一言くらい我愛羅くんに挨拶でもしてみようか。

「えーっと。我愛羅くん、」
「…ああ、」
「これからよろしく」
「…、ああ」

はい、とても素っ気ない返事をいただいて会話終了。何なんだよホントに。会話終了したんだからこっち見ないでよ、わたし我愛羅くんに何かしたかなあ。いやそんな覚えは全くない。喋ったのだって今のが初めてだし。そうだ、クラスメイトなのに我愛羅くんと喋ったの今のが初めてだ。喋ったのが初めてなら我愛羅くんとの会話が盛り上がらないのも仕方がないね、うん。
あ、チャイム鳴った。次の授業はカカシ先生だから寝てしまおうかな。

「オレの授業で寝ちゃった人はチョーク手裏剣の刑だヨ」

絶対に寝ちゃだめだ。チョーク手裏剣とか名前からして痛そうだもん。仕方なく教科書とノートを机の上に並べていると前の方の席からガスッという音が聞こえてきたと同時に、痛々しい呻き声が聞こえてきた。今のはうずまきナルトくんの声だ。あはは、チョーク手裏剣くらってやんの。
クラスメイトの笑い声やナルトくんの痛々しい呻き声が響く教室の中で、やっぱり我愛羅くんの視線はこっちに注がれてる。今注目されるべきはチョーク手裏剣をくらったナルトくんだってのに。ホントに意味がわかんない。
とりあえずチョーク手裏剣くらうの嫌だからノートとろう。ノートを開いて筆箱からシャーペンと消しゴムを取り出すと、消しゴムがコロコロと転がり落ちてしまった。我愛羅くんの足元に。
一瞬固まって引き攣った笑顔を浮かべながら「足元しつれい」と転がり落ちた消しゴムを取ろうとしたその時、それはコロコロ、とまた遠くへ転がっていった。いや、消しゴムがひとりでに転がっていくなんてあるもんか。
今、この人わたしの消しゴムを足で蹴った。蹴ったよね。わたしの消しゴム蹴ったの間違いなく我愛羅くんの足だったよね。何してくれるの。
ぽかん、と口を開けたまま我愛羅くんを見上げると無表情な彼と視線がぶつかった。なにスカした顔してんだよこの野郎。わたし嫌がらせされてるの?え、何これイジメ?
とりあえず消しゴムを拾うのは諦めてわたしは何事も無かったように椅子に座り直した。すると隣からガタガタッという音が聞こえてきてそれに目を向けたら、我愛羅くんが自分の机を動かして少し隙間があいていた机と机の間の距離を埋めていた。
わたしと我愛羅くんの机は隙間なくピタッとくっついて、無表情な我愛羅くんから差し出されたそれは、

「…これを、」
「ああ、うん。消しゴム!」
「使うといい、」

いや、蹴ったのお前だろ。

喉まで出かかっていたその言葉を飲み込んで、ありがとう、と伝えて我愛羅くんから消しゴムを受けとった。ふと我愛羅くんの顔を見てみると口の端が上がってた。
あれ、我愛羅くん無表情じゃない。笑ってる。笑ってる我愛羅くんを見たの初めてだ。しかも我愛羅くんってば、かなり素敵なスマイルを持ってらっしゃる。なんだかよく解らないけど初めて笑った我愛羅くんを見れたことが嬉しくて、わたしの胸はきゅんっと小さな音を立てた。

ん、なんだ今の?

「我愛羅くんチョーク手裏剣くらったことってある?」
「…ない、」
「わたしもないんだけどさ、寝たいんだよねー」
「なら寝ればいい」
「チョーク手裏剣がわたしに向かって飛んできたら?」
「その前に××を起こせばいいのだろう?」
「…、我愛羅くんおやすみ」
「ああ、」

なんか、想像と違う。あんまり人を寄せつけない人なのかと思ってたのに、普通に話してくれるし優しいし。わたしをじっと見てくるのは謎だけど。っていうか我愛羅くんが私の名前を知っていた事に驚いた。さっきまでは「何故か知らないけどわたしを無表情でじっと見てくる何考えてるか解らない恐い人」だったけど、今この瞬間から「なんだかんだ優しくてスマイルが素敵なよく解らない人」になった。我愛羅くんとはもっと仲良くなれそうな気がするなあ。消しゴムを蹴られたのがすごく謎だけど。まあいっか。
これから一ヶ月をかけて、我愛羅くんの事を少しずつ知っていこうと思います。

(意味がわからないだけだった彼の視線は、日を追う毎にくすぐったいものになる)

「27番かー、1番後ろの席だから授業中に寝てもバレないってばよ!」
「…ナルト、」
「おっ、我愛羅!どうしたんだってばよ?」
「席を交換してほしい」
「えー?お前の席1番前だから寝れねーってばよ…」
「今日から一週間…いや一ヶ月分のお前の昼食は俺が奢る一楽のラーメン、」
「よし我愛羅!持つべきものは友達だってばよ!」

(××と話せるのなら、きっかけなんて何でもよかった)




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