「ねえ、レッド」
「……?」
「私のこと、好き?」

きょとん、とした顔で××を見れば、××は慌てたようにやっぱり何でもない、と膝に乗せていたピカチュウの相手をし始めた。俺には、分からない。
どうして××がいきなりそんな事を聞いてきたのか。

「…××、」
「ん、なに?」
「もう一回、言って」
「な、なにを?」
「さっきの」
「だから、何でもないってば!気にしないで!」

何でもない何でもない、と繰り返す××。それは慌てているような、動揺しているような。
明らかに話をはぐらかそうと必死だった。それでいて少しだけ、××の頬が赤いような気がしないでもない。

「もう一回、言って」
「しつこいよ、レッド」
「××が言ってくれたら、しつこくしない」
「わ、見てレッド。ピカチュウがすっごい可愛いよ!」
「知ってるから」

本当に、本当に何でもないの。と何度も繰り返す××。何でもないのに、突然そんな事を聞いてきたりするのだろうか。いや、何でもないなら聞かないだろう。何かあるとすればそれは、何か不安な事があるんじゃないかということ。
ふと××を見れば、ピカチュウを抱きしめたり、ピカチュウの頬を突いたりして戯れあってる。2人とも可愛い。
思えば、俺はポケギアという便利なものを持っていないから、もちろん彼女と連絡を取り合うことはない。彼女と会う時は、俺がシロガネ山から下りた時くらいで。
それでも××はいつだって、俺を笑顔で迎えてくれた。それは、今日だって。
××は今まで俺に、一度たりとも不安を口にしたことがない。でもそれは口にしたことがないだけで、もしかしたら感じているのかもしれない。

「××、言って?」
「だ、だから…何でも」
「言わなきゃ、分からない」
「そ、そんなこと…!」

レッドに言われたくない、と続いた言葉は、だんだんと語尾が小さくなった。××はしまった、という風に口を手で押さえて、恥ずかしそうに俯く。
ああ、やっぱりそうだ。××をこうさせてしまったのは、俺だ。××が何も言わない事をいいことに、自分の気持ちは伝わっているものだと、勝手に思い込んでいたのだから。今思えば、「好き」の一言さえ、俺は××に言ってない。
こうして一緒に居ることが当たり前だったから、口にしなくても伝わっているものだと思っていた。

「…ごめん、レッド…」
「なんで××が謝るの」
「だ、だって…」
「…謝るのは、」

××を不安にさせてしまった、俺の方だ。きっと俺は、××が思っている以上に本当に××が好きで。それが××に上手く伝わらないのは、自分の下手くそな愛情表現のせい。
どうすればいいんだろう、なんて考えるより前に、動いたのは俺の身体。ピカチュウを抱きしめながら丸くなっている××を、後ろから包むように抱きしめれば、××の口から小さな悲鳴が聞こえてきた。
その悲鳴すら、愛しい訳で。

「れ、レッド?」
「…ごめん」
「なんで、レッドが謝るの」
「…不安に、させたから」

××の耳元でそう呟けば、××はくすぐったそうに笑う。

「…なんか、嬉しい」
「…嬉しい?」
「うん。嬉しい…」

はにかんだように笑いながら、「よく分かんないけど」と××は付け足した。俺にもよく分からないけど、それでも××がいつものように笑っているのは、少しは不安が拭えたんだろうか。

「じゃあ、改めて聞こうかな」
「…うん」
「私のこと、好き?」

初めて口にするその言葉に、少しだけ走る緊張感。でも××の不安を少しでも拭えるのなら、××を不安にさせない為なら、その緊張感を味わうのも、たまにはいいかもしれない。
君が不安になった時は、俺なりのありったけの想いを込めて、何度でもそれを言おう。

(…好きだよ、)




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