ただ、それだけ。


聞こえるのはお互いの呼吸、すれ違う人々の声、道路を走る車。息を吐き出す度にお互いの口から零れる白いそれは上へと昇っていく。キラキラと輝かしいイルミネーションを眩しそうに見詰める××の横顔を見詰める。とくに会話もなく二人で並んで道を歩いているだけ、ただそれだけなのに満たされていると感じるのは××と一緒に居るからなんだろうとぼんやりと思う。いや、ほんの少しだけ、何かが物足りないような。

「…がーら、」
「…?」
「はい、」

××から差し出された右手に俺は首を傾げた。すると××からは呆れたような溜め息が降ってきて、××の口から吐き出された白いそれが空へと昇る。

「…手がどうかしたのか」
「人肌が恋しいなって。」
「だから?」
「あらやだこの人ったら乙女心ってのが全然分かってないよ全くもう」

言いながら俺の手を掴み半ば無理やり恋人繋ぎをしてきた××は、それを自分の服のポケットに入れるという大胆かつ男前な行動に出た。"人間暖房器"と呼ばれる××の手は暖かくて心地好い。恐らく××は手を繋ぎたかっただけなのだろう。もっと解りやすく言えばいいのに。
だが××のその行動のおかげか、少しだけ物足りなかった何かがすっぽりと埋まったような気がした。

…そうか、俺もそうしたかったんだ。だが俺にそんなスキルはないからできなくて。××の男前な行動に感謝しながらポケットの中で××の手をきゅっと握った。

「寒いね、」
「そうだな」
「今日の夜から雪が降り始めるんだって。明日は雪パーティーだねっ!」
「雪パーティーか。寒そうだが楽しそうだな」
「楽しいだろうね!なぜなら我愛羅と一緒だから!」
「…そうか、」
「我愛羅は?楽しい?」
「……、雪だるま、」
「作る作る!我愛羅と私の雪だるま作ろう!」
「雪合戦、」
「我愛羅には負けないよ!」
「雪うさぎ、」
「それ作った後は冷凍庫にしまわなきゃねっ!」
「全部二人で、やるのか」
「うん!私と我愛羅で!」
「…そうか。それは、すごく楽しいんだろうな」
「うん楽しいよ!絶対!」

手を繋ぐ。二人。俺とお前。一緒。雪。少し先の未来は明るい。

そして傍らにはいつもキミ。

(ああ、なんて幸せなんだ。)




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