画面から流れてくるピコピコというゲーム音、見事な指さばきでカチャカチャと奏でられるコントローラーの音が部屋中に響き渡る。
集中してコントローラーを動かすその人はトウコちゃんから差し入れに貰ったバウムクーヘンを口に頬張りながら画面に夢中で、私なんて眼中にない。そんな彼をバウムクーヘンを頬張りながら隣で見ているだけの私、ぶっちゃけ暇で仕方がない。

「………ヒマ!」

見ているだけの状況に飽きた私は、本音をぶっちゃけて視線をトウヤにちらりと移す。それでもトウヤの視線はテレビ画面にしか向いてなくて、トウヤからはただただやる気のないけだる気な「ふーん」という返事をもらった。それからはただ、トウヤが動かすコントローラーの無機質な音が会話のない部屋に響き渡るだけで虚しさが募る。このアウトオブ眼中な状況は一体いつまで続くのか。
なにこの酷い扱い。私めげそうだし泣きそう。

でも諦めるにはまだ早い!

「ねえトウヤ、ヒマ!」
「そ、俺は忙しい。」
「出かけませんかトウヤくん!」
「行きません。」
「即答!少しは考えようよ!」
「るっさい。そんなの考える時間があったら俺はこのゲームをクリアする事を考える」
「ちょっと酷くないですか!」
「…××、人生は短いんだからやりたい事はやっておかないと悔いが残るだろ」
「私よりゲームかこの野郎」
「あっぶねー。早く回復かけねーと仲間がやられそう」
「ね、私の話聞いてる?」
「…ん?××今なんか言った?」
「トウヤのアホ!」
「頭悪そうな悪口言ってくる××より100倍マシ」
「いちいち酷い!」

なんだコイツ、彼女の扱いが酷すぎる!ここまで言われると心が折れそう。くじけそう。でもまあ、この人は付き合う前からこんな感じで、最初からこういう人なんだと分かってて付き合っているんだけど。でももう少しだけ、私に構ってくれてもいいんじゃないの。彼女という存在の私と一緒に居る時間を過ごしてるのに、一人だけゲームをやって楽しんでるっていうこの状況って彼氏としてどうなの。

思えばトウヤと過ごす時間は毎回こんな感じで、トウヤはゲームをしているかポケモンの相手をしているかで、基本私は放置プレイ。
…というか、本当はただ私が構ってほしいだけで、別に出かけたいとかそういう訳じゃない。でも、そんな事は恥ずかしくてとても言えやしなくて。

さて、どうしたものか。

「…××、ココア飲みたくなった」
「自分でやってよ、それくらい」
「…すねてんの?」
「すねてない!」
「すねてんじゃん」
「すねてないってば!」
「すねんなって××。ほら、バウムクーヘン半分やる」
「わっ!やったね!」
「………単純バカ、」

言いながらふっと目を細めて笑みを浮かべたトウヤは、バウムクーヘンを口に運ぼうとする私の頭をくしゃりと撫でる。その手はそのまま下へ延びて、コントローラーを握っていたはずのトウヤの手は私の背中に回されきゅうっと抱き寄せられた。さっきまでゲームに夢中だったのに、不意にこういう事をされると反応に困ってしまう。

ずっとこうしてほしくてサインを出し続けていたんだけど、スルーの嵐からまさかのこの抱擁。それは嬉しいはずなのに素直に喜べなくて、突然の抱擁に戸惑いながらトウヤの表情をちらりと伺うと、トウヤの口の端が上がっている事に気付く。

「…と、トウヤ、なに?」
「……んー、こうされるの嫌だ?」
「嫌じゃないけど…、」
「けど、なに?」

なんだか妖艶な笑みを浮かべるトウヤの整った顔の近さに思わず胸が一際大きくドクリと鳴って、逸らそうとしても顎をがっちりと指で掴まれて叶わない。どちらかが動けば唇が触れてしまうこの状況に、私の鼓動は早くなって顔にはほんのり熱が点る。うっすらと笑みを浮かべるトウヤの唇を見ると、私の反応を見て面白がっているんだろう。トウヤはホントにイイ性格をしてると思う。

「…××。けど、なに?」
「なんでそんな意地悪するの?」
「××の困った顔がかわいいから」
「なにその恐ろしいドS発言!」
「そんな俺から離れない××はドM確定だけどな」
「…そう、かもしれないね」
「かもじゃなくて、そうだろ」

うっすらと笑みを浮かべたままのトウヤの綺麗な形をした唇が、私の髪にひとつキスを落とす。そんな姿がまた絵になっちゃうイケメンなんだよね、トウヤは。
ドSで意地悪でイイ性格をしている彼、何処がいいのか毎回不思議に思うところだけど、それでも私がトウヤから離れられないのにはきっと理由があって。

それは、こんな彼が好きだから。

ただ、こんなトウヤが好き。愛しくて愛しくてたまらない。だから私はトウヤから離れられない。きっとそれ以外に理由はない。

「なんでこんなに好きなんだろ」
「それ俺が1番知りたい」
「わかんないけど好きなんだもん。…多分、これからもっとトウヤを好きになるよ」
「…あ、そ。変な××」

素っ気ない言葉を吐きながらもトウヤは満足そうに微笑み、その緩んだ唇を私の額に押し付ける。優しく触れたその唇はゆっくりと離れて、今度は唇と唇が触れる。何度も重なり合う唇はまるで愛を確かめ合っているかのようで、名残惜しそうにその唇はゆっくりと離れた。

深い口づけの余韻に浸っていると、トウヤが私を抱き寄せたまま静かに口を開く。

「…××、」
「ん?」
「……好きだよ、」
「う、ん。…知ってるよ」
「知ってるなら、もう言わね」
「すぐそうやって意地悪言う!」
「ふはっ、冗談だって。いちいち本気にして可愛いな××は」
「だってトウヤが…!」
「だーから冗談だって。…××のこと、すげー好きだよ。」
「、うん。」
「…なに、照れてんの?」
「だ、だって、」

トウヤの口からは滅多に吐き出されないだろう耳元で囁かれた言葉に、どうしようもない嬉しさと恥ずかしさを感じる。照れ臭いのと赤みを帯びた顔を見られたくなくて、トウヤの胸元に顔を埋める私に更に追い打ちをかけるように降ってきた、可愛いなという言葉にじわりと体温が上がる。私はいつだって、トウヤの思うがまま。認めたくはないけれど、それでもこんなトウヤから離れられない私は正真正銘のドMなんだろうと思う。

きっと認めたら最後。私はずっとトウヤから離れられないんだろうな。まあ、どれだけ嫌がらせだとか意地悪されてもトウヤから離れるつもりなんて全くないんだけどね。


ドMの称号ゲットだぜ!

(…××ってホントにドMだよな)
(どう言われようと絶対離れてやんないから!)
(まあ、離すつもりもねーし)
(…トウヤはホントにただのドSだよね)




- ナノ -