多分、そんなものはない、


ふとNを見ると、日当たりがとても良い場所で今にも眠ってしまいそうになりながら、目蓋をゆらゆらと揺らしていた。さすが身体は大人、中身は子供。子供って暖かい場所に居るとすぐ眠っちゃうからね。

「N、寝るならあっち」
「…寝ないよ、まだ」
「すっごく眠たそうだよ」
「…××がボクと一緒に寝てくれるなら寝るよ、」

ウトウトとしながらも横目でチラリと私を見るN。私は今読書中、眠たくもないし寝たくもない。子供を甘やかすつもりもないの。なんて思いながらも読書中だった手を止めて、タオルケットをNにかける。と、眠たそうな目蓋をうっすらと開けるNと目が合った。

「…また外れた、」
「え、なに?外れた?」
「そう、また外れた」
「なにが?」
「××はね、ボクが予測した数式からことごとく外れてくれるんだ」
「おっしゃってる意味が理解できません」
「××は読めないってこと」
「ふーん…?」
「いつも外れてくれるから、予測する方が疲れるんだ」

なんかよく解らん計算し始めたなコイツ。まあ常に「数式がどうのこうの」ってうるさい人だから、私の行動を予測してみたけどそれが外れたって感じなんだろう。っていうか私からしてみれば、Nの方がよっぽど読めない人だけど。中身は子供なのに頭の回転が早いからか、Nの言葉の意味はところどころ不可解な所が多いし。
タオルケットに身を包んだNは私が髪を撫でている手がくすぐったいのか日差しが眩しいのか、うっすらと目を細めた。

「××って、難しい」
「そう簡単に思い通りにはなりませんよ何事も」
「…そうだね、」
「それにね、私もNのことは読めないよ」
「…うん、」

納得したのかしてないのか、Nは眠たそうに目蓋をこすった。だけど睡魔は途切れないのか眠たそうな目蓋はそのままで。少しばかりの沈黙の後、口を開いたのは私で。

「…っていうかそもそも、」
「?」
「そんな数式ないのかも」
「……、」
「私を表す数式なんて」
「……なるほど、」
「因みにNの数式もね」
「…うん」

今度はちゃんと納得してくれたように頷いたN。そして「だからか…」と何やら物々と一人で呟き始めた。

「…N?」
「やっと解った」
「なにが?」
「だから××と居るのは面白いんだ」
「へえー、そうなの?」
「うん、面白いし、楽しい」

予測する度に外れて疲れるけど、そこが面白いんだ。そう言ったNは満足そうに微笑んで、それはそれはホントに子供のようだった。やっぱり私には、この人の事が読めません。

(…だからこそ、愛しいのかも、)




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