「グリーンさん、見てくださいよこれ!全部グリーンさん宛てになんですよ!」

デスクに散らばる紙切れと睨み合いをしていると、可愛くラッピングされたプレゼントのような物が沢山入ったダンボールを、ヤスタカが持ってきた。
それは、言わずもがな誕生日プレゼントというもので。
ヤスタカにそれを見せられたその時、今日という日が自分の誕生日だったのだということに初めて気が付いた。

「毎回すごい量ですね。持ち帰れますかこれ?」
「や、無理だろ」
「ですよねえ」

ダンボールに入った可愛くラッピングしてあるプレゼントのその殆どは、「ジムトレーナーの皆さんと食べてください」というメッセージ付きのクッキーだったりケーキだったり。
毎年これを何日間かかけてジムトレーナー達と消化していく訳だが、今年は筋トレを去年の倍はやらないといけないかもしれない程の量だ。
そんな事を思いながらダンボールに入ったプレゼントを物色していると、クッキーでもケーキでもない気になるものを発見した。それはイーブイが描かれた可愛らしいメッセージカードで、それを手に取り開いてみれば思わず苦笑が漏れる。
そのメッセージカードに書いてある女の子らしい可愛らしい文字は、何度も見た事がある見慣れた字で。
明らかに××が書いた文字だという事が、ぱっと見ただけで分かった。


『グリーン誕生日おめでとう。

これからもジムの皆と一緒に、私たちトレーナーを引っ張ってください。

トキワジムの立派なジムリーダーとして頑張ってください。

あ、因みに私は引っ張ってもらわなくても一生グリーンに着いて行くので。

そうそう、早くジムの仕事終わらせないとケーキは私が全部食べちゃうよ。』


可愛らしいメッセージカードに可愛らしい文字で淡々と綴られたその言葉が、何とも言えないくらい愛しく思えた。
恐らく、どのメッセージカードにしようだとか、どんな内容の文にしようだとか、悩みに悩んだに違いない。
そんな××の姿を想像してしまって、ゆるゆると口元が緩んでしまう。

「…っとにバカだなあいつ」

照れ隠しの為の、悪態をついた言葉をひとつ。
悪態ついた言葉とは裏腹に、顔の筋肉が緩んでしまってひどく締まりがない表情になっているんだろうというのは、自分でもよく分かる。

「…グリーンさん、どうしたんですか?」
「別に。つーか俺帰るわ」
「え、でもまだ終わってないんじゃ…」
「こんなもん見たら帰らない訳にも行かないだろ?」

ヤスタカにヒラリとメッセージカードを見せれば、ヤスタカはああ、という納得をしたような顔を見せる。
お疲れさん、とヤスタカにヒラリと手を振って、俺はメッセージカードをポケットに突っ込んで歩きだした。

こんな紙切れ一枚に文字を書いただけで、俺を喜ばせる事が出来る××を尊敬する。
…ああ、もう××に会いたくて仕方がない。××に会ったら何て言ってやろうか。

いや、その前に「ありがとう」という想いを込めて、思いっきり抱きしめてやろう。




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