「…ねえ××。なんでさっきからそればっかり食べてるの」
「えっ!いや、別に…あっ、レッドさんも食べる!?」
「……うん、食べる」

何かをごまかすように手に持っていたそれを差し出す××に首を傾げながらも、レッドはそれを受け取りぽつりと食べ始める。××が手に持っていたそれは、子供から大人まで幅広く人気を得ているポッキーというお菓子。
すんなりとポッキーを受け取り口に運ぶレッドの口元に、××の視線が集中する。

「…××、何見てるの」
「うわわわ何でもない何でもない!気にしないでっ!」

ぶんぶんと首と手を激しく横に振る××に、レッドはポッキーを口に運びながら首を小さく傾げるばかり。

(なに、もしかして私意識とかしちゃってる…!?)

何を考えてるんだ、と激しく首を横に振ってみるも、ちらりとレッドの方へと視線を移せば何故か口元にばかり目がいってしまう。
まさか自分がこんな事を考えてしまうなんて、と××は顔を赤くさせる。

(グリーンが余計な事言うから…!)

そもそも××がこんなにも挙動不審になっているのも、手元にポッキーがあるのも、全ては数時間前にグリーンと鉢合わせてしまった事から始まった。



「あれ、グリーンだー」
「よう、××じゃねえか」

遡ること数時間前、シロガネ山に向かう途中だった××は、麓にあるポケモンセンターでグリーンと鉢合わせた。
どうやらグリーンもレッドに食料を届ける為に、シロガネ山へと向かう途中だったらしい。

「…で、なにゆえポッキー?」

食料が入った荷物とは別に、ポッキーが入った荷物が××の目にふと入った。

「おっまえそれでも女かよ!今日はポッキーの日だろ?」

グリーンのどや顔と暴言に若干イラついて握り拳を作った××だったが、イライラするのは体に良くない、とその場は軽くスルーを決め込む事にした。
というか、そんな乙女的な思考を持ち合わせてわざわざポッキーをレッドに届けようとするグリーンに、××は若干引いた。
そもそもポッキーの日だからといってそれをレッドに届けて、グリーンはレッドと一体何をするつもりなのかと。

「……ちょ、グリーン!レッドさんは私の彼氏だからね!?」
「だーもう!お前なら馬鹿な勘違いしてくれると思ったぜ!」

お前らがいつまでも進展しないから俺がこうして動いてるんじゃねえか、と頭をかきながら激を飛ばすグリーン。

「…え、それってさあ、」
「ま、そういう訳だからこれ持ってレッドとポッキーゲームでもしてこいよ!」
「は?ちょっと、」

××の呼び止める声も聞かずに、じゃあこれ頼んだ、と食料が入った荷物とポッキーが入った荷物を無理やり××に押し付けて、素早くピジョットの背中に跨がり逃げるように颯爽と去っていくグリーン。
その直後に、小さくなるピジョットの姿を目に捉えながら荷物を抱え突っ立っている××のポケギアが、けたたましく音を鳴らした。そのお相手は、ついさっきこの場から颯爽と逃げ出していった張本人で。

「健闘を祈る」

なんてふざけた事を言いのけたグリーンを軽く殴ってやりたい衝動に狩られながら、××は何も言わずにポケギアの通話終了ボタンを連打した。

そして、今に至る。

グリーンと鉢合わせ「ポッキーゲーム」の話をしてから、そんな思考ばかりが××の頭の中をぐるぐると廻る。
そしてそれを密かに期待している自分がいる事を、否定出来ない事がなんだか悲しい。
××がそんな複雑な思いにふけっていると、ぽりぽりとポッキーを口に運ぶレッドが口を開く。

「…××、聞きたいことがあるんだけど」
「ど、どうしたのレッドさん」
「…ポッキーゲームって、何」

レッドの口から出た言葉に、鈍器で頭を殴られたかのような感覚に襲われた××。
レッドさんポッキーゲームって知らなかったのか、知らないゲームなのに名前は知ってるのか、というかその情報源は何処から…ぐるぐると廻る思考の中で、レッドへポッキーゲームの情報を提供した人間だけは、何となくだが予想がついた。
きっと、グリーンしかいない。

「そ、そんなに面白いゲームじゃない、よ…!」
「ポッキーゲームって何」

どうしても教えなきゃいけないのだろうか。
でも教えるまでこの人は「ポッキーゲームって何」と延々と繰り返すに違いない。
何とも言えない恥ずかしさに襲われながらも、××は諦めたように口を開く。

「あ、えっと…ポッキーゲームっていうのは…」
「…うん」
「これをこっちとそっちから食べ進めるという、」

ポッキーを口にくわえながら説明をする××に、レッドは軽く頷いてから「こう?」と××がくわえているポッキーの反対側を口にくわえる。
一体何が起こったのか理解するのに時間がかかったのは、レッドとの近すぎるその距離に思考が飛んでしまったからで。

「れ、どさ…」

耐えられないほどの恥ずかしさから××は咄嗟にレッドとの距離をとろうとするも、それはやんわりとレッドの手に制されてしまって、距離をとるはずが腰に回されたレッドの腕にぐいっと引き寄せられ、更にレッドとの距離が縮む××の身体。
それからはもう、身体を強張らせた××に構うもんか、とレッドはゆっくりと口にくわえたそれを食べ進める。
徐々に近付いてくるレッドのその唇に鼓動が早くなるのを感じながら、レッドの服を握る手にきゅっと力が入る××。
柔らかい感触が唇に触れたそのすぐ後に、ちゅっというリップ音が××の耳に響いた。

ゆっくりと離れたレッドの唇は口角を上げて、ふっと小さな笑みを零し、

「…おいしい」

そっと耳元で呟かれた言葉に顔に熱がともったのを感じ、××が瞳を潤ませながらレッドを見上げれば、レッドはもう一本ポッキーを取り出してそれを口にくわえながら口を開いた。

「…次は、××からね」


これなんて罰ゲーム?
(ムリムリ、絶対ムリ!)
(ムリじゃない。××なら大丈夫)
(その根拠はなに!)




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