完璧。彼にはまさにこの二文字がとてもよく似合う。何をさせてもなんなくこなしてしまう、それが私の彼であるグリーンだ。その上イケメンだなんて。出来すぎくんだよね。っていうかもう、出来すぎてるくんだよね。
もちろんご飯もグリーンが作ってくれたりする。グリーンと付き合ってから、私が料理を作ろうと包丁を握ったことがあっただろうか。キッチンに立ったことがあっただろうか。グリーンがキッチンに立っている所は何十回と見たけれど。
作ってあげたいとか食べさせたいという気持ちがない訳ではないけど、悲しい事に自分が作ったものよりもグリーンが作った物の方がおいしい事は解りきっている。この状況、彼女として大丈夫か。いやそんな事よりも、まず女子という性別として大丈夫なのか。
彼氏より女子力が劣ってるって女子という性別として非常にやばくないか。

「ぜったいヤバい」
「何がだよ?」
「グリーンに勝てる気がしない」
「なんの話だか知らねえけど××に負けるつもりはねえよ」
「少しは手加減しようよ」
「だからなんの話だよ」

怪訝な表情を見せるグリーンを前に、カレーを一口掬って口に運んだ。おいしい。もちろんこのカレーもグリーンが作ったもの。彼は前に一度テレビで見た作り方でカレーを作ってみたかったらしく、すり下ろした林檎を大量に加えそれに自分なりのアレンジをプラスしてこのカレーを作ったのだ。きっとグリーンには大袈裟過ぎんだろ、と笑われるんだろうけど、これがまたホントにおいしくて。
彼はひとつの事に集中するとそれしか見えなくなる傾向があるから、このカレーもどう調理したらおいしくなるか追求に追求を重ねて作ったはずだ。
グリーンに何をさせても完璧にこなしてしまうのは、その重ねてきた努力の賜物なんだろう。

私には到底真似できない。

「私って何なんだろ?」
「だーから何がだよ」
「私ってグリーンのなに?」
「彼女だろ」
「私彼女らしいことなんて何にもしてないのに。どっちかっていうとグリーンが彼女だよね」
「なんだそれ」

グリーンはカレーを一口運ぶ。同時に私もカレーを一口運ぶ。何度も言うようだけど、やっぱりおいしい。こんな出来すぎてるくんの彼女が私のような何も出来ない女でいいのだろうか、と少々の不安が襲い掛かってくる。
だってこんな女、いつ捨てられたっておかしくはない。グリーンはモテるから、私の代わりになるような女の子が周りにいくらでも居るはずなんだ。考えれば考えるほど私とグリーンは不釣り合いだと実感する。

「…××、お前またバカな事考えてんじゃねえだろうな」
「またって何。私がいつもバカな事考えてるみたいに言わないでくれる?」
「いっつも考えてんだろバカ。××のバカさ加減なんか解りきってんだよばーか」
「今2回もバカって言った!」
「××には足りねーくらいだろ。つーか3回だしな」
「ひ、人が真剣に悩んでるのにそこまで言う!?」
「それが無駄なんだっつーの」

グリーンは呆れたように頭をかきながら食べ終えた自分のお皿を流し台へと持っていき、しばらくして戻ってきたその時には私と自分のお茶が注がれたコップが手に握られていて。しかもさっき流し台へ持っていったお皿はもう洗ってあるに違いない。なんなの。コイツ彼女の私より女子力が高いとかどういう事なの。少しくらい分けてほしいよその女子力。

「…あのな、世の中には俺より料理が上手くてお前より可愛い女が確かにたくさんいるだろうけどな、」
「恐い、私の思考がつつぬけ」
「ったりめーだ。…ま、××は××だろ。××の代わりになるような女は他にいねえよ」

俺が作ったメシをこんなに美味そうに食うヤツなんて、××くらいのもんだろ。むしろ××のその顔が見たいが為に作ってるようなもんだからな。いつ見ても腹が立つあの得意げな顔をして、グリーンが言う。そんな事を言われて嬉しくないはずがない。

「美味しいんだもん、グリーンが作ってくれるご飯」
「当たり前だろ。そうなるように作ってんだから」
「私以外に食べさせないでよ」
「はいはい分かってるって」

××だから「こうしてやりたい」ってなるんだよ、分かったかばーか。
にっと憎らしい笑顔を浮かべて私の頭を少し豪快にくしゃっと撫でるグリーンの手が心地好い。そう言われてしまえば、もう私は何も言えやしない。

後悔しないでよ、グリーン。

私が彼女らしくない彼女になっちゃったのは、できすぎてるグリーンのせいなんだからね、全部。だから最後まで責任取りなさいよ、ちゃんと。


未来は約束された
(グリーンは私の嫁!)
(まあ、お前と一緒に居れるならそれでも構わねえけど)
(…グリーン、あんたクソ高いプライドどうしちゃったの)
(んなもんお前と一緒に居る為なら捨ててやるよ)





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