こんなに図々しい女、見たことがない。


なんなんだ、この状況は。全くもって理解できない。どうしてこうなった。

「テマリさんテマリさん!ご飯のおかわりいいですか?」
「ああ、ついできてやるからちょっと待ってな!」
「ありがとうございます!…影風さま、早くタン塩食べないと冷めるよ?」

ちょっと待て。なぜコイツが俺の家で最高級タン塩をおかずにご飯を食べているんだ。俺の目の前で。しかもなまえはテマリと今日初めて会ったはずなのに、なぜコイツは実の姉弟である俺よりもこの場とこの空気にこんなにもごく自然に溶け込んでいるんだ。まるで違和感がない。それこそ、ずっと昔からこうだったかのよう。

「ほら、ついできたぞなまえ。ご飯はまだたくさんあるからどんどん食べるといい。我愛羅もな!」
「…ああ、」
「で、お前たちはいつからそういう関係なんだ?」
「は、」
「…付き合ってるんだろ?」
「なんの話だ。誰と誰が」
「やだなあ、影風さまったらそんなに照れなくても!」

え、この女なにを言ってるんだ。寝言は寝てから言え。



「風影さま、昨日はうちの新入りが風影さまに失礼をぶっ放してしまって本当に申し訳ありませんでした!」
「いや、構わない。…その、今日はそいつに用事がある」
「よ、用事ですか?」
「ああ、呼んでくれ」
「ははははい、ただ今!」

昨日の約束通り、俺は最高級タン塩の為にこの店に足を運んだ。まさか二日も続けてなまえとかいうあの変な女に会う事になるなんて、だがしかしこれも最高級タン塩の為だから仕方がない。
店主に呼ばれたなまえは笑顔を振り撒きながら勢いよくこっちへと走ってきた。

「影風さま!まさか私に会いにきてくれたんですか!?」
「なぜそうなった?」
「影風さまノリが悪い。マイナス3点です」
「なんの点数だ」
「ゲームとかによくあるじゃないですか。選択肢によって好感度が変わってくるっていうアレですよ!」
「ここはリアル世界だ」
「はいマイナス5点です!影風さまは私を落とす気がないんですか!」
「ないな」
「即答だ!」

もしなまえの好感度を上げたらどうなってしまうんだ。なまえと付き合う事になるのだろうか。それだけは何としてでも回避しなければ。

「ところで影風さま、私に用事ってなんですか?」
「……は、」
「…え、まさか、本当に私に会いにきてくれたとか…?」

そんな訳があるか馬鹿者。

まさかこの女忘れた訳じゃないだろうな、昨日の約束を。何の為に自らこの店に足を運んだと思っているんだ。最高級タン塩の為に決まってるだろう。この女に会いにきた訳ではない、断じて。

「…覚えてないのか」
「はあ、何をですか?」
「昨日言っていただろう」
「だから何をですか?」
「…最高級タン塩」
「………ああっ!はい、覚えてますよちゃんと!はい!」
「おいお前、今完全に忘れていただろう」
「テヘペロっ!」

うざい。殴りたい。なんなんだテヘペロ。ここ最近の流行りなのか。

「はいどうぞ!ちゃんとお値段サービスしときました!」
「…ああ、」

よし帰ろうさあ帰ろう。なまえの手から最高級タン塩を受け取ったその瞬間「よっしゃああっ!!」という歓喜な雄叫びが辺りに響き渡り、それに驚いて危うく最高級タン塩を地面に落としかけた。今回は咄嗟に砂で拾い上げたから地面には落ちなかったが。なんだこのデジャヴュは。

「うるさ、」
「フラグ立ちましたね!」
「…フラグ?」
「はい、フラグ!影風さまがタン塩を受けとったことでそれのお礼に私をご飯に誘うフラグが!」
「誰が誘うんだ」
「影風さまが!」
「誰を」
「私を!」
「なにに」
「ご飯に!」
「なぜだ」
「お礼に!」
「馬鹿を言うな馬鹿め。大体このタン塩はお前からのお詫びだろう」
「影風さまけっちぃなあ」

やっぱりムカつくこの女。
砂瀑送葬してやりたいがそれくらいじゃ気が済まないような気がする。コイツをご飯に誘うフラグなんて立てた覚えはないし、もし立ったのだとしてもそんなフラグへし折ってくれる。

「なまえちゃんそろそろお昼だから休憩してきなよ」
「はいはい、ちょうど今から影風さまとお昼なんです!」
「ふざけるな」
「ささっ、お昼に行きましょうか影風さま!」

やばい、コイツ本気だ。誰かコイツを何とかしてくれ。



「…で、コレが今日発売された影風さまの初回限定アルバムなんですよ!初回盤だからなんと!影風さまのポスター付きなんです!」

やや興奮気味で俺の隣を歩くなまえは片手に持っている荷物をガサガサと漁り、それを差し出してくる。「じゃじゃーんっ!」と口で効果音を言いながらなまえが差し出してきたのは、影風のアルバムとポスター。この筋金入りの影風オタクめ。
因みにお昼をなまえと一緒に食べる為に歩いている訳ではなく、なまえは俺の後を勝手に着いてきた。着いてくるなと言ってもなまえの家と俺の家の方角は同じだから意味がない訳だが。しばらく心底どうでもいい影風の話を聞きながら歩いていると、家の前にたどり着いた。やっとこの女から解放されると思っていたのになまえは自分の家に帰る素振りを見せない。

すこぶる嫌な予感しかしないのは俺の気のせいか。

「影風さま、お家の中に入らないんですか?早く入りましょうよっ!」

ええっ、まるで自分も入るみたいな口ぶり。咄嗟に帰れという言葉が出てこないのは驚きすぎて言葉を失ってしまったからなのか、それとも。

「、おい我愛羅、玄関の前でなにをしているんだ?」
「、テマリ、」

ちょうど任務から戻ってきたんだろうテマリが姿を現した。この時の俺にはテマリが天使か何かのように見えた。天の助けだ。もう誰でもいいから助けてほしい。

「ん?おいそこの娘、お前は誰だ?初めて見る顔だな」
「初めましてなまえです!」
「なまえか。忍ではないみたいだが…ところでこんな所でなにをしているんだ?」
「今から最高級タン塩をご馳走してもらうんです!」
「誰がそんなこ」
「珍しいな、我愛羅が大好物をご馳走するなんて。ついでだし皆でお昼にしようじゃないか」
「ちょ、待てテマリ、」
「わあさすがテマリさま!人数多い方が食事も楽しいですからねっ!」
「人の話を、」
「なまえの言う通りだな。ほら、我愛羅さっさと家の中に入りな。なまえも。お昼は私が作ってやるよ!」

なにこの流れ。




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