我愛羅くんに嘘をつかれたから、ハリセンボンか針千本のどっちを我愛羅くんに飲ませようかと私は今とても真剣に悩んでいます。

「ちょっと我愛羅くん!」
「えっ、な、なに…?」
「重た過ぎるよこの瓢箪!どうやって持ってるの!?」
「どうやってって、…普通に持ってるだけ、だよ」

しれっとそう言った我愛羅くんは私が全体重をかけて支えていた砂入りの瓢箪をひょいっと持ち抱えた。どうなってるの我愛羅くんの筋力は。あんなに重たい瓢箪、成人男性ですらそんなに軽く持てっこないよ多分。こんなに小さな我愛羅くんが持ってるんだから重たそうにみえて実はそうでもないのかな、なんて思ってたのが間違いだった。
でも我愛羅くんに重たくないのかって聞いたら、普通って言葉が返ってきたんだもん。その言葉を信じた結果がコレだよ。このやろう普通じゃねえよ嘘つきめ。我愛羅くんの普通ってどこまでなの?
でもよく考えたら…そっか。彼の居た世界ではそれが「普通」だったのかも。我愛羅くんの世界ってなんだか色々と凄そうだな。

瓢箪を部屋の隅に置いた我愛羅くんはキッチンに居る私の所まで駆け寄ってきた。そこまではいいとして、駆け寄ってきた我愛羅くんは何かを言いたげな表情をしながら私を見上げてくる。こう、じっと見つめられるとなんだか恥ずかしくなるというか、ご飯作りに集中できないというか。
因みに今日のご飯のおかずは丸○屋の麻婆豆腐だ。冷蔵庫を覗いたら豆腐ともやしくらいしかなかったから非常に焦った焦った。麻婆豆腐の素が無かったら「梅干しとライス」に似たり寄ったりな貧相な食事になるところだった。恐るべし給料日前の冷蔵庫。

「我愛羅くんどうしたの?」
「……、」

多分我愛羅くんは、何かを言いたいんだけど言っていいのかいけないのか解らないんだろうな。きっとどこかで躊躇してしまうんだろう。これを言ったら嫌われてしまうんじゃないか、そんな不安がきっと彼の中にあるんだろう。

「どうしたの我愛羅くん。危ないからあっちの部屋で待ってなよ」
「…、手伝いたい、から、」
「………、」

うわあ。子供に親孝行してもらった時の親の気持ちが少しだけ解ったような気がする。こんな気持ちだったんだ。胸の奥がじんっと熱くなったような気がした。かわいいじゃないかちくしょう。良かったこの子を保護したのが私で。あの公園にあのまま我愛羅くんを放置してたら本物のド変態に連れ去られていたに違いない。大事なことだから2回言うけど我愛羅くんかわいいんだもん。2回くらいじゃ言い足りないな。3回くらいにしとこう、かーわいい。
よし、じゃあここは我愛羅くんの気持ちをありがたく受けとって甘えようじゃないか。

「じゃあ、あそこの棚からお椀とお皿を二つずつ持ってきてくれる?」
「、わかった、」

ぱっと表情を明るくさせた我愛羅くんはパタパタと駆けていってテキパキと動き、お椀とお皿を私の元まで持ってきてくれた。こんなに小さいのによくできた子じゃないですか、本当。私がこの子くらいの頃なんか、鼻水だらだら垂らした勉強が大嫌いなただの馬鹿なクソガキだったよ。親にも先生にも諦められていた日々が懐かしい。
ありがとう、と笑いかけながらお椀とお皿を我愛羅くんから受け取ると我愛羅くんも満足げに笑った。
なにこの子可愛すぎるんだけどぎゅってしたい。

「いい匂いがする、」
「ふふ、お腹空いた?」
「…うんっ」
「もう少しで出来るからもうちょっと待っててね」
「ここで、待ってていい?」
「うん、いーよ。でも危ないから気をつけてね」

私がご飯を作り終えるまで我愛羅くんは私の傍で待っていた。私が動く度に我愛羅くんの目や首が動くから、私はそれを背中に感じながら苦笑する。じっと私を見つめてくるその視線はなんだか擽ったかった。

「じゃ、いただきますしようね。いただきまーす」
「…いただきます、」

照れ臭そうに小さな両手を揃えた我愛羅くんはおずおずと箸を持ちながら私を見つめてくる。え、どうしよう。もしかして麻婆豆腐嫌いだったかな。でも味には自信あるんだよ。素を使ってはいるけど色んな調味料使って自分流に改良したりするの好きだし。

「き、嫌いだった?」
「…違うよっ、」

ぶんぶんと首を激しく左右に振りながら(それはもう首がもげてしまいそうな勢いで)我愛羅くんは麻婆豆腐を箸でつつく。誰かに自分が作った料理を食べさせるなんて久しぶりだからなんだか緊張するなあ。緊張した面持ちで我愛羅くんを見ていると箸を動かしてぱくりとそれを口に運ぶ。マズイって言われたらどうしよう。もうスーパー閉まってるしコンビニ弁当とかでもいいかな。いやこんな小さな子供にコンビニ弁当なんて栄養もクソもないモノを食べさせる訳にはいかない。
そんな思考をつらつらと廻らせていると、我愛羅くんがおずおずと口を開いた。

「…おいしい、ね」

その一言で箸を折ってしまいそうなほど握っていた手の力がガクンッと抜けて箸を落としかけた。

「そっ、か。よかったー」
「……××は、」
「う、うん?」
「…××は僕にたくさんの"初めて"をくれるね、」

今日だけでたくさんの"初めて"を××からもらった。なんだかよくわからないけど嬉しいんだ。照れ臭そうに我愛羅くんはそう言った。
…どうしよう、緩みまくった頬はどうやっても隠しきれそうにないなあ。だって、我愛羅くんに名前を呼ばれたの"初めて"なんだもの。




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