我愛羅くんと過ごし始めてから二週間目を迎えた。特に何事もなく過ぎた二週間。二週間ともなるとお互い何処かよそよそしかったそれも無くなり、今では逆にお互いの存在が当たり前のようになっていて。私が仕事に行ってる時間を除けば"おはよう"から"おやすみ"まで我愛羅くんと一緒に居るのだから、お互いの存在が当たり前になってくるのも当たり前。
仕事の合間は手先だけをキーボードに集中させながらも頭の中では「我愛羅くん寂しがってないかなあ」とか、「今頃本とか読んだりしてるのかなあ」とか思考の約7割が我愛羅くんの事だったり残りは夕飯の献立とか見たいドラマの事を考えてたりする。因みに本は私が仕事に行ってる間あまりにもやる事がないだろうと思って、ちょっとした暇つぶしになればと買ってきた子供向けの本。

結構あっという間に過ぎた二週間だったけど、我愛羅くんが元の世界へ帰ってくような兆しはまだまだ見えてない。いつになったら我愛羅くんは帰れるんだろう。そもそもどうやって我愛羅くんがこの世界に来たのかも解ってない。彼が言うには「家の近くの公園にいた」っていう話だけど、私が彼を見つけたのは私の家の近くにある公園だから本人も気付かない間にこの世界に来てたって事だよね。私自身あんまり頭が良くなくて難しいことを考えるのは非常に面倒だから、「どうやって来たのか」とか「なんで来たのか」とか考えるのはやめた。来ちゃったもんはしょうがない。我愛羅くんが帰るその日まで私が彼のお世話をする。ただそれだけ。このまま我愛羅くんがこの世界にずっと居るという事はまずないだろう、多分。「来た」んだから「帰る」というのが自然の道理だと思う。でも、元の世界に帰る事が出来ても彼はまた独りになったり、辛い思いをしてしまうのかな。最近はそれが気掛かりで、そんな事になるんだったらこのまま我愛羅くんとずっと一緒に居る事が出来ないものか、と考えたりもする。

そんなの無理、だよねえ。多分。でもこのまま我愛羅くんと一緒に居ると、私が彼から離れられなくなってしまいそうで恐い。それくらい我愛羅くんの存在が私の中で大きくなりつつあった。

現に今の私は、我愛羅くんが帰った後のことを考えられない。というより、考えたくないのかもしれない。



「…あ、今日この近くでお祭りやってるんだー」

お祭り、それは夏の風物詩とも言える。アイスが食べたくなったから我愛羅くんと二人でコンビニへ向かった帰りの途中、商店街へ続く道のりが出店の準備で忙しそうな大人たちで賑わっていた。私からしたらお祭りなんて暑い、人混み、金が飛ぶ、の三重苦にしかならない訳だけど。でもお祭りが嫌いな訳じゃない、むしろ好きだ。好きだからこそ思う。全く人が居ないお祭りってないのかな。そんなのもうお祭りじゃないような気もするけど。

「、おまつり?」

私を見上げ完璧な角度で首を傾げる我愛羅くんに、毎回キュンッてするこれは何て言う病気?あえて言おう、私はショタコンじゃない。

「そ、お祭り!色んな食べ物のお店があったり遊べるお店があったり…行った方が早いかもね」

ふと我愛羅くんを見てみるとお祭りに興味があるのか目をぎらっぎらさせていた。いい目してるなあ我愛羅くん。やっぱり子供ってのはこうでなくっちゃね。

「行ってみる?今日から3日間はやってるけど、明日と明後日は私がお仕事だし…今日の夜にでも!」
「、行きたい…っ!」
「ふふ、了解!じゃあ夜のご飯はお祭りで食べようね」

うん、と満足げに頷いた我愛羅くんの頭を撫でると擽ったそうに目を細めた。なんかこう、我愛羅くんの笑顔を見てると苦手な人混みも克服出来るような気がする。気がするだけで出来ないけど。

「あら××ちゃん、今日お祭り行くの?」

声の主に振り返れば、色々くれたり良くしてくれる近所のおばさんがいた。ここ二週間の内に分かった事だけど我愛羅くんは環境のせいなのか性格なのか、若干人見知りが激しい。今も私の手をぎゅっと掴みながら後ろに隠れ気味だし。おばさんには何回かこうして会ってるんだけど、なかなか抜けない我愛羅くんの人見知り。初めて会った時なんかは私にも人見知りを爆発させてたけど、その日の内に手を繋いだりしてくれたんだけどなあ。大丈夫よ我愛羅くん、このおばさんとってもいい人だから。いくら我愛羅くんが可愛いからって取って食おうなんてしないから。

「今年は去年よりも大きな花火がたくさん上がるそうよ」
「へえそうなんですか!楽しみだね我愛羅くん!」
「、はなび?」

我愛羅くんやめて!その完璧な角度で首を傾げて私を見るのはやめて!私の心臓がそろそろ壊れちゃう!

「花火ってのはねえ…なんか綺麗!とにかく綺麗!」
「、そんなに?」
「うん、見たら分かるよ!」

べ、別に説明が面倒になったとかじゃないんだからね!

「あら、坊や花火見たことないの?それなら尚さら見せてあげなくちゃねえ。そうだ××ちゃん、せっかくのお祭りなんだしその子に浴衣着せてあげたら?」
「いいですねえ浴衣、夏って感じで!まあ持ってないんですけど」
「そんなの私が貸してあげるわよー!息子が小さい時に着てた浴衣でよかったらね!」

我愛羅くんの浴衣姿か…そろそろ携帯のデータフォルダが我愛羅くんで一杯になる頃だから、我愛羅くんの画像以外は後で削除しておこう。なんて考えながら近所のおばさんの申し出を有り難く受け取る事にした。やった、新しい待ち受けゲットだぜ!




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