昼食を食べ終えてからしばらくの間ショッピングモール内をうろつき回り、帰ろうと外へ出た頃には茜色に染まった空。我愛羅くんと手を繋いだままスーパーに寄ってタン塩とその他諸々を買って我が家に帰宅。今日一日で何人もの諭吉さんとおさらばした事だろうか。いやでも我愛羅くんの為なら財布が少しくらい淋しくなっても構わないけど。生きていけるだけのお金が残っていれば。
家の中に入ると我愛羅くんは大事そうに抱えていた荷物から早速オッサンみたいなクマと赤い服を着たクマを取り出して、何やら満足そうに眺めていた。子供ってどうしてなのかクマさん好きだよね。私も好きだけど、動物園に連れて行ってもらった時に本物のクマを見せられた時の残念具合と言ったらありゃしない。白クマは本物も可愛いんだけどね。クマさんと我愛羅くんの時間をお邪魔してしまうのは悪い気がしたから、今日は一人でクッキングタイム。
作り終えた夕食をリビングへ持っていけば目の前に広がったファンシーな光景に私は目を丸くさせた。一人暮らしの女子の部屋にしては可愛らしさもカケラもない殺風景な私の部屋の一角に、可愛いクマに挟まれてサンドウィッチ状態の男の子がひとり。その上テーブルには飛行機のおもちゃが置かれている。
私は平静を装いながら夕食をテーブルの上に置いて、素早く携帯を手に取りカメラ機能を作動させる。携帯のカメラ機能ほど需要が無いものはないと思っていたけど、ここ最近カメラ機能が大活躍してくれている。いやあ、とてもいいアングルからのショットだった。後で待受に設定しておこう。携帯のデータフォルダが我愛羅くんで埋め尽くされる日も近い。

「今日の××特製ディナーのお味はいかがですか我愛羅くん?」
「、おいしいっ、」
「ホント?なら良かった!」
「××が作ってくれるご飯は、なんでもおいしいっ、」
「うん、我愛羅くんは私を褒め殺そうとしてるのかな?」

他愛のない話をしながら夕食は進んだ。つい最近まで一人でご飯が当たり前だった私。こうして誰かと食べるご飯はこんなにも美味しいものなんだと、改めて思い知らされる。夕食を食べ終えて食器を片付けていると、手伝ってくれようとしてる我愛羅くんの視線を感じる背中が擽ったい。

「片付けはやっておくから我愛羅くんはお風呂入っておいで!今日は疲れたでしょ?」
「、でも、」
「それとも私と一緒に入っちゃったりとかする?」

なーんちゃって、ねっ!と言おうとしたそれは我愛羅くんが一瞬目を丸くさせてから首を縦に振ったから、飲み込む事となった。え、まさかそんな簡単にすんなりと頷いてくれるとは思わなかった。本当にいいのか少年。

「え、いいの我愛羅くん?」
「うん、」

念のためもう一度我愛羅くんに確認してみたけど、やっぱり彼は首を縦に振ってくれた。裸の付き合いに応じてくれるなんて、こりゃあ相当私に慣れてきてくれてる証拠、かな。それじゃあすんなりと受け入れてくれた我愛羅くんに甘えて尻を割って…いや尻は最初から割れてるよ真っ二つだよ。腹だよ腹、腹割って我愛羅くんと色んなお話をしながらお風呂に入ろう。

「じゃあ急いで片付けするから、ちょっと待っててね!」
「、二人でやったら、早く終わるよ××!」
「…そうだねっ!」

なんだろう。どうしてなのか我愛羅くんが「二人で」と言ってくれた事がどうしようもなく嬉しかった。孤独を抱えて他人を恐れていた少年が、"他人の私"を求めてくれたからだろうか。いや、もう私は我愛羅くんと他人だなんて思ってないし。お姉ちゃんとか、それこそお母さん的な気持ちだし。我愛羅くんは私の事をどう思ってくれてるだろう。家族みたいな存在だと思ってくれてたら嬉しいんだけどな。まあ家族までとはいかなくとも、知り合いのお姉ちゃんってくらいまで思っててくれたら今はまだ十分だわ。
我愛羅くんと協力しながら夕食の後片付けをして二人でお風呂に向かった。子供が遊べるようなお風呂グッズが我が家のお風呂に無いのが非常に残念。いつか買ってこよう。我愛羅くんが許可してくれたから彼の髪を洗わせてもらったんだけど、泡だらけになった彼の髪で遊ぶ事はもちろん忘れない。とりあえず我愛羅くんには頭に五本くらい角を生やしてもらった。

「我愛羅くんデーモン小暮閣下みたいでカッコイイ…」
「、でーもんって?」
「えーっとね、人間離れしてるけどすごくカッコイイ人、だと思うな!」
「へえー…そっか…!」

何やら何処か嬉しそうに頷いた我愛羅くん。彼は一体どんな閣下を想像したんだろう。

「シャンプー流すよ我愛羅くん。目ぎゅってしてね」
「うんっ、」

ぎゅうっと目を綴じたその上からも手で目を守るその行動とか、シャンプーを流し終えてからワンちゃんみたいにぶんぶんと首を横に振るそれとか、もう可愛いとしか言い様がなかった。浴槽に浸かってる時に我愛羅くんに手でやれる水鉄砲を教えてあげたんだけど、我愛羅くんが放った水鉄砲のお湯が鼻に入って超痛かった。でも楽しかったから気にしない!

「10数えてから出ようね」
「うん」
「はい、じゃあスタート!」
「「いーち、にーい、…」」

二人で仲良く数え終えてお風呂を上がってからは我愛羅くんの髪を乾かしたり自分の髪を乾かしたり。
それから私は洗濯に取り掛かってその間、我愛羅くんは目蓋を揺らめかせてウトウトとしていて放っておいたら寝てしまいそうだった。洗濯を終えてから部屋に戻ると、クマに挟まれながらソファーの上で寝息を立てる我愛羅くんの姿があった。今日一日で携帯のカメラ機能をどれだけ使ったか解らない。
クマに挟まれた我愛羅くんは規則正しい寝息を立てていて、ぐっすりと眠っている。今日はたくさん歩いたからよっぽど疲れちゃったんだろうな。すやすやと眠る彼の心地良さそうな表情からは彼の中にある力のせいで眠る事が出来なかったなんて、とても信じられなかった。

(…ねえ我愛羅くん。キミは今、どんな夢を見ているんだろうね。)




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